特集 2024年5月20日

書き出し小説大賞 279回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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先日、吉川晃司と布袋寅泰の『COMPLEX』東京ドーム公演があったそうです。そう聞くだけで頭の中にはBE MY BABYのイントロが流れますし、ひょっとしてBE MY BABYは常に頭の中に流れていて、なにかの折にその事実に気づくだけなのかもしれません。
それでは今月もめくるめくBE MY ……いや、書き出しの世界へご招待しましょう!

書き出し自由部門

小蝿の群れ。夏の臭い。
寂寥

描写は不潔なのに、なぜか胸踊らせる一文。

窓に映った葉の影に夏を感じた。
もんぜん

こちらは静謐な夏。

隣駅から旅は始まる。
もろみじょうゆ

見知った観光地より、はじめて降りる隣駅。

焼肉屋のバニラアイスは美味しい。
ぐるりん

揺るぎない事実が呼ぶたしかな共感。

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腰痛が俺を現実に引き戻す。
高田

痛みだけがリアル。

ヤモリの為に明かりを付ける、私は共犯者だ。
ぐるりん

ヤモリの餌(虫)を集める光源。

転生もしない。無双もしない。幸せだった。
suzukishika

来世のスライムより、人の現世。

振りかざした正義感は経年劣化で粉々に散った。
吉田髑髏

権力は腐りやすく、正義は錆びやすい。

無人の席に置かれたお冷の氷が溶けていく。既読すら付かない。
さくさく

無人の席と手元のスマホ。遠近感。

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雨ふたば、契って春。
花惑

演歌のサビのよう。艶やかな情緒。

うさぎになれ、カバも。
にかしど

書き出しというより手に取りたくなるタイトル。

湿った亀は重い。
ビールおかわり

干からびた亀は軽い。

穏やかなノックの音。二本腕のそれではない。ボブは銃を取った。
maebarc

絶妙な飛躍で並ぶ文章に漂う不穏。

「甲羅のフジツボがごっそり取れた気分だよ」定年退職した父がしみじみ語り始めた。
g-udon

甲羅ごと叩き割りたい。

私は頭を洗う為に目を閉じた瞬間に「この世ではない何処か」に飛ばされ、目を開けた瞬間に「元の位置」に戻されるらしい。
prefab

『現実』は視界にしかない。

脳みそは実はドロッとしたひとしずくの溶けかけたチョコレートみたいな流動体で、それが発光する深海魚のエラみたいに次々と色と色とを組み合わせてメロディを奏でるみたいに言葉を探してるんだと思う。今もきっとそうなんだと思う。
正夢の3人目

そうとしか思えない!

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続いては規定部門。今回のお題は『内容言っちゃてるタイトル』でした。タイトルだけで読了した気持ちになれるタイパ最強作品が集まりました!

規定部門・モチーフ『内容言っちゃてるタイトル』

生後二十年で余命六七年の花嫁
東ことり

すべての花嫁に余命はある。

キミを勝利の女神にするために、ボクが味わった15の敗北。
あおすけ

読みたくなるタイトル。映画にもなりそう。

ザ・後日談~わらしべ長者が没落するまで
g-udon

成功譚より没落譚。

俺がドリンクバーいってる間に親友とその彼女が別れた話
居抜きそば

二人分の会計を残して。

⏩ すぐ誰とでも打ち解けるオカンが和平交渉役に抜擢された話

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