特集 2020年11月29日

書き出し小説大賞第203回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞第202回秀作発表

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

寒っ!暖っ!差っ!って力を込めて言うとドラゴンボールに出てくる技みたいですね。それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

完璧に堕落した猫を、貴婦人は賢いと言う。
タカタカコッタ

優雅なミステリの趣き。

マジックテープのバリバリと剥がれる音と同時に、羽化がはじまった。
さくさく
浅く埋められて、わたし、まず眼球から凍りはじめた。
さくさく

読点で区切られた「わたし」が効いてる。

刃渡り56センチの刃物とともに、僕は旅に出ます。
いそうろう
小動物の墓らしきその棒には「ホームラン」と刻まれていた。
高田
離れの風呂場、便所サンダル。
八王寺義昭
今日もうちの上司は違法アプリでKPOPを聴いている
トミ子
土砂降りにロボの声が交ざる。初めて覚えた歌をまだ歌っている。
けー

錆びた空に懐かしい音。

小雨を髪に飾ってきた。
昼行灯
まだ履かれたままの下駄は明日の天気を教えてはくれなかった。
渡嘉敷くんの答え
仰向けにしたくしゃみがさらさらと降り積もる。
仰向けにしたくしゃみがさらさらと降り積もる。
唇にできた口内炎のことなど忘れて熱いコーヒーを飲んだ痛みのように学生時代を思い出した。
井沢
いま、私を慰めることができるのは、酒でも男でもない、毛布のヘリだけだ。
葱山紫蘇子

悲しみを集めたい夜もある。

砂浜で体育座りしているサラリーマンに波が届いてしまった。
もんぜん

首まで埋められた無職にも。

「無責任評論家」を名乗ることにした。
たこフェリー
バンジョーの音色は次第に近づき、私が隠れるバーカウンターの真上で止まった。
インターネットウミウシ
いったん広告です

つづいては規定部門。今回のテーマは『私的流行語大賞2020』でした。ひねりの効いた造語から家族内ブームまで。コロナ禍のなかでも、ひとりひとりの一年があったことを感じさせる、味わい深いことばが集まりました!

規定部門『私的流行語大賞2020』

『裸のビール』
寂寥
(コメント)レジ袋の有料化で缶ビールを手に持ってコンビニから出てくるおじさんが増えましたね。

たった3円でこれほどの葛藤があるとは……無料時代には気づきませんでした。

『いやこれ足踏みタイプじゃねえのかよ!』
モリダイ
 
(コメント)店の入口に置かれたアルコール除菌液を足踏み噴射タイプと間違えて、只の土台を踏んでた時に脳内でツッコんだフレーズです。
『違和顔(いわがん)』
ocamo
 
(コメント)マスク姿でしか会ったことがない人のマスクを外した姿をみたときに感じる脳内イメージとのギャップのこと。きのちんさんが名付けてくださって、皆さんに知らせたい!と思ったので投稿しました。
『そうおっしゃるディスタンス』
節度亜図夢
 
(コメント)敬語が抜けない同僚との縮まらない距離感。
『ハゲる』
紅井りんご
 
(コメント)凹んだときや早急にストレスを解消したいとき、奮発してハーゲンダッツを食べることでメンタルを保ちました。
『丸い』
ゾオ森田
 
(コメント)みんなが概ね納得できる妥協点を見出せた時、「この結論は丸い!」と言いまくりました。

言い得て妙な表現。意見を「丸めましょう」てな使い方もできそう。

『泥場』
午前0時
 
(コメント)盛り上がる気配さえない集まり。人見知りと口下手しかいないZOOM飲み会など。
『よいーん……』
午前0時
 
(コメント)デート終了後のメールのやりとりで、幸福感から漏れてしまった言葉。

口に出すことで余韻も二倍増し!

『小雨男』
ろっさん
 
(コメント)小雨男傘を開くほどでない小雨に遭う率が高く天気予報が雨の日も殆ど傘を差さずに済んでいる自分に付いた呼称。
『~とはなんだったのか』
インターネットウミウシ
 
(コメント)家に常備してるものが無くなると新書のタイトル風にこの言葉を口にします。ちなみに最近だと「ヨーグルトとはなんだったのか」でした。

たしかに(笑)新書っぽくなる。やわらか歯間ブラシとはなんだったのか……

『退柱(のきばしら)』
けー
 
(コメント)意図せず既に閉店している店ばかり紹介してしまう人物への呼称。
『ブースト』
タクタクさん
 
(コメント)トッピングを追加する行為。牛丼にニンニクブースト。ラーメンにネギブーストなど。
『信じて下さい、3時です!』
井沢
 
(コメント)かまいたちの山内さんによるTBSラジオの時報の言葉です。3時以外に成立しないことは分かっているのですが、一度、頭に浮かんだまま声に出して言ってしまったことがあり、正しくは1時だったので「えっ!もう!?」と家族を驚かせてしまいました。申し訳ないことをしました。
『ホームベーカリー』
ジコカン留学生
 
(コメント)世間では何年も前に流行ったものが、今年になって我が家に登場。Amazonで買った安いやつだが、娘も嫁も私もすぐ虜に。ドライイーストの匂いがちょっと苦手。でも朝食はほぼ毎日これです。堂々たる我が家の流行語1位。
『BE MY BABY』
ビールおかわり
 
(コメント)東京ドームで流れるイントロに布袋と吉川の動きが止まらないシーンを思い出したが最後、何かにつけてBE MY BABYが舞い降りる年でした。

イントロだけ5時間聞ける。あと畑を耕すのにぴったり。

『ケルビン・ ヘルムホルツの雲』
タクタクさん
 
(コメント)声に出して言ってみたい珍しい雲の名前。渋い声で「見よ、あれがケルビン ・ヘルムホルツの雲だ」といつか言ってみたい。
『ファンタジー』
タカタカコッタ
 
(コメント)娘がファンタをファンタジーと呼称している事に気付いた春先。それ以降、娘の幻想を守り抜く為、家族親族総出でファンタジーで通した1年だった。そして、娘は今日もファンタジーとそれを呼ぶ。
『おっとっとっと夏だぜ』
もんぜん
 
(コメント)息子と手をつないで階段を降りるとき、「おっとっとっと夏だぜ」と言うのが流行りました。
『ががーん、チヂミじゃ、なーい』
もんぜん
 
(コメント)息子はチヂミが好きで、夕飯がチヂミじゃないと必ずこれを言ってから食べる時期がありました。それが面白くて、自分もよく使っています。

こども流行語は鉄板!もれなくかわゆす!


 それでは次回のお題を発表します!

次回モチーフ
『バカ』

次回のお題は久しぶりの「バカ」です。いろんなことがありすぎた、そしてなさすぎた一年。バカになって笑い飛ばしましょう! 締め切りは12月18日、発表は12月20日を予定しています。今年最後の更新となります。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!

最終選考通過者
ケンガク ミヤザキタケル いずも

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ