特集 2020年11月15日

書き出し小説大賞第202回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞第201回秀作発表

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今年の記憶は「多目的トイレ」と「100日後に死ぬワニ」しかない。なのに流行語にノミネートされていないのはなぜ? それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

書き出し自由部門

串から外れ、鳥と葱はルールを失った。
辞書は厚く女は薄く

串から外していちばん転がるのは砂肝。

こちら、じっくり煮込んでありますので、歯車まで美味しく食べられますよぉ。
六井象
ソーラー発電式の外回り営業ロボットマンに、秋の日暮れがせまる。
さくさく
加治くんの病気が陽子さんのおっぱいで治った。
トミ子
抜歯の最中、わたしは星座になった。
タカタカコッタ
冷えたおでんを鍋ごと抱えて、クローゼットで息を潜めている。
けー
全てが石になった世界をカタツムリが一匹、北へ北へと走る。
けー

果てしなく退屈な、果てしない物語

不うどんを頼んだ。
ろっさん

麺切りの際に出たあまった部分だけでつくったうどん(かな?)

誰にも見せなかった詩を捨てた。
紅井りんご
サヨリの祖母の名もサヨリで、母はサヨリJr.だった。
prefab
ちょっと手が空いた時に回す用の地球儀が欲しい。
井沢
恩師は恥ずかしそうにプレゼントの防弾チョッキを試着した。
ビールおかわり

じゃあ撃ってみますね、と恩師の胸に銃口を向ける。

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つづいては規定部門。今回のモチーフは『ノスタルジー』でした。懐かしい記憶の扉を開ける一文。うっかり泣けてしまうかも。

規定部門・モチーフ『ノスタルジー』

市民プールの帰りに食べたセブンイレブンのハンバーガーよりうまいものを、私は食べたことがない。
もなど

プールのあとのふわふわした感じ、いつから感じなくなったんだろう。

香りから何かを思い出す人は少なくない。現に今あたしもこのゴムの焦げる匂いで頭に情景が鮮明に浮かんでくる。
長山おいも

切り刻んだキン消しをストーブでくっつけてオリジナル超人をつくったりした。

もう二度とたどり着けない砂場がある
シモカワヨウヘイ
赤白帽のゴムが真冬の唇を叩いた。痛くて塩辛い。
午前0時
雨の日の図工室は、粘土の匂いが濃ゆい。
タカタカコッタ
通る道すべてに変な名前を付けて帰った通学路。
七世

道に名前つけた(笑)名前の由来になったバカもいた。

うまく裏返せた傘に雨をあつめた。
紅井りんご
校庭の半分だけ埋まっているタイヤに腰掛けると、おねしょの記憶が蘇った。
g-udon
影の伸び方が田舎の影にそっくりだった。
もんぜん
田んぼの中に山盛りになった藁を掘り進み、上下前後がわからない状態でケンちゃんと話していた。
山本ゆうご

田舎育ちだったので、夕方はいつも稲刈り後の田んぼにいた気がする。

喧嘩をするのが初めてな僕は、目一杯グラウンドに彼を押さえつけた。
嘘みたいな犬
昔のポケモンの曲を聴きながら、夕飯の支度をする。
ジコカン留学生
曇ったガラスを指でなぞる。その先にいる犬の鎖はいつもピンと張っていた。
はらげん
ガチャポン買ってもらいたくて、お母さんの世間話が終わるの待ってる。
昼行灯
畑   学校   畑畑
畑畑畑畑畑畑畑
畑畑畑畑畑畑畑
山山ラブホ山山
昼行灯

完全にこんな感じでした(笑)お見事っ!

電話のコードを引きずって、姉がまた部屋に籠る。
タクタクさん
チャンネルを、回したい。
モンゴノグノム
忌々しき赤本を清掃車が運んでいく。
インターネットウミウシ
息子によく似た顔の僕がフルチンで笑っている。
寂寥

うれしく、懐かしく、残念な、泣きたい気持ち。

金木犀の絨毯の上で頁を捲る冷たい手を温めたかった。
稲荷
珈琲を置いて気づいた。それは私の郷愁ではない。あなたの創った過去だ。
g-udon
部室に雨音が響く。隣に生ぬるい体温。
七世
夏のタオルケットはあいつの匂いがしたけれど、引っ張り出した毛布からは、去年の男の匂いがした。
白波レッコ
皆が笑っている。いつか思い出すならこの瞬間なのだろう。
けー

本当に幸せなときは、ふとこんなことを考えてしまったりする。

寂しいと言われ、申し訳ないと思ったし嬉しかったんだよ。
トミ子
粗い画素数は総じてノスタルジーと呼ばれはじめた。
吉田髑髏

それでは次回のお題を発表します。

次回モチーフ
『私的流行語大賞2020』

次回は通常のお題ではなく、自分にとっての今年の流行語を募集します。2020年にノミネートとされた流行語は大半がコロナ関係。でもそれぞれの人にそれぞれの一年があったわけで……世間では流行らなかったけど、あなたの身の回りで(もしくはあたなの中だけで)盛り上がった言葉、フレーズを、その理由を添えて教えて下さい。
締め切りは11月27日、発表は29日を予定しています。下の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。よろしくお願いします!

最終選考通過者
七寒六温 えむ毛 人馬一体勘 きりん子 モンゴノグノム 桜草 ながさむ ビアシン そうろう りずむ原きざむ パチリパンダ えむ毛 小説 嘘みたいな犬 坂上田村麻呂の従兄弟

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