特集 2019年9月22日

書き出し小説大賞176回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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いったん広告です

ラクビーのワールドカップがはじまった。始まるまで全く興味がなかったが、観てみるとこれが面白い!

屈強な男たちがあんなに激しくぶつかり合いひとつのボールを奪い合うさまが胸を打つ。そしてあのボールが赤ん坊だとしたらと思うとすごくハラハラする。

それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう。

書き出し自由部門
 

雨が止んだ、音がした。

聞こえない音に、雨上がりの景色が浮かぶ。

もっともらしい答えは、もっともらしいだけで、答えではなかった。
坂上田村麻呂の従兄弟
今日も俺の夢には、羊の数え間違えを指摘する男が現れる。
うわのそら
空が描かれた一枚の画用紙、それがこの部屋唯一の窓だった。
やまどり
ため息よりも、君にはとびきりトゲの多いアザミの花が似合う。
さくさく
タカアシガニ脱走兵、夜の監視カメラ前を横歩きで通過。
さくさく

しっかり映像を立てながらも、長い映画のタイトルのような面白い文体。

靴紐を結ぶようにお辞儀した。
にかしど
嘘が本当の私を創ったのか。
チロリ山本
おしぼり袋を固く結ぶ。話題が見つからない。
カズマンヌ
君の血を吸った蚊を琥珀に閉じ込める。
住民パワー
何のツボかわからないが、押される度に舌が出てしまう。
インターネットウミウシ

そのツボをハイヒールで踏んでほしい。

ピアノの中に住む「それ」は、今日も弦を渡る。
次郎の刺身
拾った子犬を隠したまま、臨時国会は始まった。
もんぜん
すぐに下ネタが言いたくなるほど寝覚めの良い朝のことだ。
suzukishika

ポジティブな一日が始まりそう(笑)

「ターッチ!お前鬼なー!」 人として聞いた最後の言葉だ。
マーベラス
ヘクソカズラは、花の愛らしさと名前のひどさが反比例している植物として有名です。
葱山紫蘇子
「また明日!」と笑って、千切れるほど手を振って、パンツを下ろした。
ミモザ
ちょうど布袋寅泰ぐらいの犬でした。
井沢

顔も。

夏から秋への変わり目は、毎年ぐんと秀作が増える気がする。やはり秋の空気が詩心を刺激するのだろうか。

にしかど氏の作品は粒揃いで、なにを採用にするか悩んだ。次郎の刺身氏の「それ」、マーベラス氏のオチの効いたシメもよかった。ヘクソカズラ……動植物への命名ってたまに容赦ないときありますね。

つづいては規定部門、今回のテーマは『不思議な店』でした。こちらも多くの秀作で不思議な商店街ができました。

書き出し規定部門・モチーフ『不思議な店』
 

「いらっしゃい。」白い空間におじさんがひとり、いる。
寂寥

「無」から「店」を生むことば──いらっしゃい。

靴を片方から売っている。
xissa
500円以上買うと店主が握手してくれる。
xissa
この店員は注文を繰り返し過ぎている。
にかしど
どのメニューも「俺の」から始まる。
にかしど

注文するとき「あなたの」はつけるのか?

目の前で調理しては、口まで運んでくれる。
人馬一体勘
下巻しか扱わないその書店は、意外に繁盛していた。
紀野珍
巨大な泡の塊をかき分けて、店主が現れた。
紀野珍

腹立つ!……でも可愛い(笑)

品揃えを鼻で笑ったが最後、気付いたら私が陳列されていた。
インターネットウミウシ
その線から先はもう店内だ。隣人が声を荒げた。
ぽん太
猫が営む雑貨屋は、隅に溜まる埃にすら仰々しい値札を付けていた。
有機
「敵将の首、はじめました。」と書かれた張り紙を見て、私は馬を止めた。
Lil 涙

出だしのネタを最後の「馬を止めた」でしっかり受け止めている。上手い。

眺めのいい席でシャボン玉を注文した。液はもちろん、とびきり濃いデミタスだ。
タクタクさん
二日目のカレー屋は、カレーハウスの隣にあった。
タクタクさん

売れ残りやん(笑)

イカを食べ終え席を立ち「しめさば」の食券を買い、大将に手渡した。
哲ロマ
何屋でもない、メシ屋だ。
まじいい
屋台を引いてるのは、まぎれもなくヌーだった。
ともきよ

屋台のサイズ感が気になる。

「お電話ありがとうございます。Ctrl+Zコーポレーションです」
suzukishika
蛙が降った日、ポイントは5倍になった。
ちやん
ドア専門店から出られない。
ろっさん
『虹の根元』2号店
mp64

メルヘンな店名に限って、いかがわしい店だったりする。

けん玉の玉があるじゃろ。あの玉の穴の底がその店の入り口じゃ。
kzt001
いつ来ても夜のような店です。店主は言います。
「雨の日だけカーテンを開けるんだ」
いつ来ても、夜のような店です。
三津ひかり
「これはライオンの犬歯」
「ふむ…」
「これは競走馬の臼歯、G1も勝ってる奴のだ…人間もあるよ、アイドルの子供時代の乳歯だ、僕は余りアイドルには詳しくないがね」
prefab

それでは次回のお題を発表する。

次回モチーフ
サル

次回のモチーフは動物の『サル』。ずいぶん以前に一度扱ったモチーフですが、そのときはずいぶん笑わせてもらいました。

やはり人間に一番生き物だけにネタも考えやすいのではないでしょうか。チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ニホンザル……種類は問いません。

締め切りは10月4日、発表は10月6日を予定しています。下の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!

最終選考通過者

MAMOMO モンゴノグノム らい麦 Oh.fish モリダイ ポテチ野郎 山本輔広 枇杷子 森山現在【いだてんに出演中】 つんざくざくろ トニヲ ウチボリ SPな蟹 胸見て一杯 昼行灯 たこフェリー わけわけ 吉田髑髏 オメガ くのゐち 清火 にら将軍ハルナ もろみじょうゆ 猫のヒゲ 自由人
 

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