次は何が回るのだろう
ところで2018年、原宿では回転スイーツが流行った。皿に乗ったてのひらサイズの可愛いスイーツたちが、回転レーンの上で、くるくる回るという。
今や東京は、スイーツも鍋の具も回る場所になったのである。新たにまた何かが回り始めても不思議はない。今度は何が回るのだろう。食べ物は動いてなくても美味しいけど、動いていると面白いから、もっと色々回ってみてもいいのかもしれない。
最近、インターネットを賑わせていた「回転火鍋」をご存知だろうか。回転寿司のようなレーンの上を、火鍋の具がくるくると回っており、好きな具が選び放題。一人でも存分に火鍋を堪能できるというものだ。
今から1年と2か月前、上海ではじめて回転火鍋と出会った(その時に書いた記事がこちら)。そして思ったのだ。近所にもほしい。無理なら、東京都内に上陸してくれないかと。
そんな願いが先方に届いたのかどうかは定かではないが、この冬、奇跡が舞い降りてしまった。これは、行くしかない。
2018年11月、東京都内に「回転火鍋」のお店が、2店舗立て続けにオープンした。2店舗あるなら、両方行きたい。まずは新小岩の「串串香」へ。駅の北口を出て、歩いて1〜2分の距離にお店はあった。
店内の中央にぐるっと回転レーンが敷かれており、席数は15席〜20席くらいだろうか。満席になると、トイレまでの道のりが、きゅううっと極細になる規模感だ。店員さんとも、他のお客さんとも距離が近い。
鍋のスープは8種類。
メニューにあとから足されたらしい、手書き文字の勢いがたまらない。「藤椒」がなんのことを指すかわからず、尋ねたところ「青い山椒」だという。山椒のビリビリ感が好きな者としては頼まざるをえない。
鍋の汁を待っていると、「エプロン使いますか?」と聞かれ、手渡されたのは茶色い布だった。左胸あたりに「串串香」と店名が刺繍してある。え、これ、着ていいのか。
さて。具材の数々に目をやると、白菜、春菊などの馴染み深い食材が並ぶ一方で、名前をお尋ねしたくなる具材も多数目に留まった。
見たことあるような気がするけど、何かが違う。パラレルワールドの食べ物みたいだ。この感覚は、上海で食べた時の印象に近い。
見たことはあるが、鍋の具として使うのは初体験な具材も通り過ぎていく。
鍋のスープだけでも十分味がしっかりしているのだが、タレも大量に常備されている。
「ゴマダレ」「腐乳」「ニラペースト」の周辺を眺めていたら、「その3つは人気よ!」と後ろから声がしたので、たっぷりお皿に盛ってみた。どのタレも美味しいんだが若干しょっぱめだ。
お酒をください。
数ある具材のなかから、一押しを2つ紹介したい。
これはおそらく、中国の揚げパン「油条」ではないかと思う。
食感は、せんべい汁、もしくはオニオングラタンスープを吸い込んだパンに近い。これだけずっと一週間くらい食べていたい。最高だ。
もう1つは魚のすり身(魚卵入り)である。
食べ方の正解がわからない。だが、味は美味しいので、おすすめはする次第だ。食べ方知っている人、いらっしゃったら教えてください。
人は大きく分けると、未知なる食べ物をすぐ口にしたがる勢と、なるべく避けようとする勢の二手に分かれるのではないかと思う。もし前者だった場合、気をつけてほしい。
回転火鍋は、つい我を忘れて、いろんなものを放り込みたい衝動にかられがちだ。欲望が目の前を巡回するのは危険すぎる。自分の欲望と、実際に食べられる量とのバランスを見失う。誘惑の鍋だ。
さて、もう一軒行きます。大久保の「辣辛子(らーしんず)」というお店である。こちらも駅から近い。大久保駅の北口を出てすぐ、1分かからないくらいだ。
階段の装飾も激しい。
ところで、わたしがよく利用している三軒茶屋駅の階段は、一段一段に文字が刻まれており、無言ながら声が大きい階段なのだが、それと少し似ているなぁと思った。階段は情報過多になると声を発するのだ。
深夜22時半ごろに向かったところ、回転レーンのまわりで鍋をつつく客は、わたし以外にいなかった。大丈夫だろうか。色々。
ところでこのお店、店内奥にカラオケルームが2部屋ある。回転火鍋とカラオケが併設されている……ってどういうことだ。情報量が多い。
カラオケルームでは、外国語を話す男女混合の若者グループが、ウェイウェイな空気を醸しながら大いに盛り上がっていた。
そしてわたしは、「東京に回転火鍋がやってきた」という現実を堪能した結果、「やっぱり本場(中国)に行きたいな」と思い始めていた。
異国情緒が目の前でくるくる回っていると、海の向こうの食文化への渇望に火が付いてしまうらしい。まさか、こんな展開になろうとは。夢がかなっても欲望に終わりはなかった。
こらえるべく、しばらくは、しょうゆ味や味噌味の和風鍋をたらふく食べて、気持ちをそらしたい。
ところで2018年、原宿では回転スイーツが流行った。皿に乗ったてのひらサイズの可愛いスイーツたちが、回転レーンの上で、くるくる回るという。
今や東京は、スイーツも鍋の具も回る場所になったのである。新たにまた何かが回り始めても不思議はない。今度は何が回るのだろう。食べ物は動いてなくても美味しいけど、動いていると面白いから、もっと色々回ってみてもいいのかもしれない。
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