みんなの自宅ならいつでも行ける
4カ国からお送りしました、ご自宅旅行。そういえばむかし、友達の家に遊びに行くだけでいろんな未知と遭遇できた。ドアノブにカバーをつけるとか、サソリの標本が置いてあるとか。いま外出はむずかしいけど、お互いの場所は外同士。そういえばオンライン飲みにハマってる友人が「Googleストリートビューでお互いの実家を訪問したらたのしかった」と話していた。いいな、俺も今度それやろう。
こんなご時世なので家にいます。外国にいる知人たち(日本人)と話していると、だいたいどこも日本を上回るロックダウン状態で、同じく家にいるらしい。みんないろいろまいってる。
外出したいが…世界中の人が…家にいる…。あ、なら、ご自宅を案内してもらおうか!?そうだ、世界旅行、行こう。行先は、マレーシア、イスラエル、カタール、チリ、の、家。ガイドはベテラン、家主だし。
まずはイスラエルの最大級都市、テルアビブから。住人のがぅちゃんさんいわく「いいマンションらしい」ということで、建築のある特色にももよくあらわれている。またイスラエルという土地柄もしものときの『あれ』がふつうに生活に溶け込んでいるところが最大の特徴。
水嶋「い、いい部屋~~」
がぅちゃん「パートナーの社宅ですが、いいマンションみたいです」
水嶋「全体的にクリーム色じゃありません?」
がぅちゃん「床はエルサレムストーンという石で、エルサレムでは建築物にこれを使うことが法律で決まってます。ここはテルアビブですが、いいマンションなのでふんだんに使っている印象がありますね。あと滑るので靴下履いてたらこけます」
水嶋「質感がズバッと伝わりました」
がぅちゃん「キッチンです」
水嶋「収納の数が尋常じゃない…!これがふつう?」
がぅちゃん「こっちのフォーマットという感じです。コンロやシンクが並んだテーブルの下に棚や食洗器が埋め込まれているという感じ」
水嶋「BOSCH製の食洗器はじめて見ましたよ!ドライバーとか工具関係をつくってるだけじゃなかったんだ…」
水嶋「明らかにナスですが、なんのソースですか?」
がぅちゃん「タヒーニという、イスラエルでよく使われるゴマペーストです。ナスはタヒーニに組み合わせる食材として定番で、このパッケージだと『当然これだよね』という感じが絶妙ですよね。ちなみにタヒーニ×レモンのイラストでも売っています」
水嶋「外国のパッケージってたのしいですよね」
水嶋「?なにか剥がした跡ですね」
がぅちゃん「メズーザー(ヘブライ語で『門柱』)が付いてた跡です。ユダヤ教徒が住む家に玄関の外側の壁に見える形で付いてます」
水嶋「分かる人にしか分からない推理だ」
がぅちゃん「むしろ、そんなもの(宗教用具)を剥がしていいんや、みたいな。わざわざ(住人がユダヤ教徒という)個人情報を公開してるというのも興味深いです」
水嶋「言われてみるとそうですね」
がぅちゃん「このスペースはボム(ミサイル)シェルターです、テルアビブでは(ときどきミサイルが飛んでくるので)設置が義務付けられています」
水嶋「きた!そうか、マンションだから地下じゃないんですね」
がぅちゃん「シェルターって『密閉空間』『壁と天井が強化コンクリート』『厚さが20~30センチの床』が条件で、それぞれ都合のいい場所につくってるみたいです。ふだんはクローゼットに使ってます」
水嶋「クローゼットになったボムシェルター。かえって平和の象徴になってる感じ。沈んだ戦艦が魚たちの家、みたいな。奥のやつは?」
がぅちゃん「緊急時に使う換気装置ではあるはずです。僕も使ったことがなく、おそらく大勢にとって似た認識だと思います…」
水嶋「妙なところでテルアビブ住人と同じ認識を得た」
次はマレーシア、クアラルンプール。マレー系、中華系、インド系と多民族国家で住居の様式はまちまちだが、森さんのお住まいは現地在住日本人も多く住むというコンドミニアムタイプ(日本でいう高層マンション)。セキュリティばっちりで堅牢だが、配管に事情が…?
水嶋「居間ですか?景色よさそうだな~」
森「そうです、スコールのときはこんな感じ」
水嶋「ダイナミック。スコールは広い窓だと見ごたえありますよね」
森「高層階なので、打ち上げ花火もきれいに見えますよ」
水嶋「花火…近くないですか!?線香花火みたい!」
森「個人で勝手に上げているものだから?うちが坂の上にあるので見下ろす形になっています。中国正月のときはこれがあちこちで一週間つづくので、昼に仮眠をとることに…」
水嶋「さすが多民族国家マレーシア」
水嶋「そういえば、格子窓なんですね」
森「そうなんです。住み始めた頃は監獄に入った気分でした」
水嶋「高層階で入ってこれないし、もはや防犯というより様式か」
森「鉄格子といえば、玄関にもシッカリしたものがついてますよ」
水嶋「ほんとだ、堅牢!」
森「強盗や空き巣対策として、鉄格子はコンドミニアムでは主流ですね。なにかの事情で開けていると、巡回の警備員に注意されます」
水嶋「警備員が巡回してるってのがまたすごい」
森「でもむずかしいところもあって、聞いた話では、隣人トラブルで外から鍵をかけて放火された事例もあります」
水嶋「怖すぎるでしょ。そうか、錠前だからできちゃうのか…」
森「内側の玄関ドアも鍵が4つ付いてます。錠前のほかにもうひとつあるので、ぜんぶで6つです」
水嶋「6つ!?数だけなら銀行の金庫より多そう」
水嶋「バスタブ!ピンク!よくある色なのかな」
森「カメリア色とでもいうか。これはマレーシアでも一般的ではないと思います、ホテルやレストランも、これまで訪問した民家も白ばかりですし。大家の趣味か当時の流行ではないかと」
水嶋「えー、薬風呂?…じゃない、ですよね」
森「これは温水器を洗浄したときの写真です」
水嶋「それでこの色に!?」
森「水道水の汚れが溜まっていくのでこうなるんです。なのでたとえば、蛇口をひねるとこんな感じに…」
水嶋「なななーんと、めちゃくちゃ大都会なので正直意外」
森「マレーシアの水道水は処理場を通って『飲める』ことになっていますが、コンドミニアムの配管が古いために色がついたり、塩素臭がしなかったり(塩素が途中で消費され末端では弱くなっているため)することがあり。洗濯してるとタオルがだんだんと茶色くなるので実験してみたらこんな感じに…」
水嶋「無印良品にありそうなベージュ」
カタールの首都ドーハから、福嶋さんより。アラブ諸国でよく見られる『マジリス』という客間が、玄関と直結しているというのが一般的なフォーマット。トイレからそこはかとなく感じる白さへのこだわり、また砂埃などで汚れた足を洗うビデも標準装備。
水嶋「玄関に入ってすぐ居間が見えるんですね」
福嶋「そうですね。これは『マジリス』という場所で、アラブ諸国にある居間兼客間です。お客が家族のほかの者と顔を合わせないよう玄関と直結しています。トイレも来客と家族向けに別れています」
水嶋「そこが徹底されてるのもひとつのお国柄なんだろうなぁ」
水嶋「ペルシャ絨毯!マジリスもそうでしたが中東だと多いですか」
福嶋「タイル床が一般的ですが、マジリスの中だけは絨毯を敷くところもありますね。ちなみにこれは前任の在カタール・タイ大使が離任するときに、大使館職員からタダで譲ってもらいました」
水嶋「ぜったいいいやつ」
水嶋「なんか白さに徹底ぶりを感じますね」
福嶋「伝統衣装のトウブも白さが大事なので、それはあるかも」
水嶋「左手前の、ビデですよね。どういう使い方するんですか?」
福嶋「帰ったらこれで足を洗ったりします」
水嶋「あ~あ~砂埃もあるから…」
福嶋「ちなみにアラブ人は日に何回かシャワーを必ず浴びますよ」
水嶋「それも砂埃?」
福嶋「それもありますが、夏場はとくに汗をかくので」
水嶋「そうか、そもそも砂漠のある暑い国なのだった」
水嶋「あれ、この洗濯機の上の布って本来頭に巻く…」
福嶋「はい、シュマーグですね。これは私のお古です」
水嶋「途端に洗濯機がかわいく見えてきた」
チリのサンディエゴからマリエさん。これまでのマンションタイプとは違って敷地内に複数の戸建てがあり、さらにそのスペースを共有するが玄関が別の、言ってみれば『会わないシェアハウス』。玄関先のサボテンが愛らしいが、チリの家にひそむ毒蜘蛛には気をつけよう。
水嶋「おっ、これまだ家の中じゃないですね」
マリエ「うちはマンションや戸建てではなく、敷地内に何軒が家が建っていて、そこの一階部分に住んでいます」
水嶋「へ~、そういえばこれまでずっとマンションだったな」
マリエ「玄関です」
水嶋「南米でサボテン生えてるっていうのがなんかうれしいな」
水嶋「ここは?」
マリエ「キッチン兼仕事場ですね。光がよく入るのできもちよく作業ができるんです。毒蜘蛛が出ますけど」
水嶋「ちょっと待って毒蜘蛛って…刺されるとやばいんですか?」
マリエ「病院に行かなかったら死んでしまいますね…チリの家にはふつうに出ます」
水嶋「家にハブ出るようなもんじゃないですか」
マリエ「リビングです、キッチンとは逆に日当たりはよくないです」
水嶋「中央左よりの段差なんです?絶妙な位置に物が置けますが…」
マリエ「建築に詳しい友人に聞いたところ、補強の関係でこうなってる可能性が高いそうです。チリはもともとあった家を分離したり壁を取り払って広くしたりするので、そんな改装の名残かもしれません」
水嶋「へーーー、日本にありそうでなかった特徴ですね。あ、よく見ると娘さんたちがいらっしゃる」
水嶋「ハンモックですか!いいですね、好きです」
マリエ「この庭もあるので気に入ってます。ただ、周辺のクラブから深夜4時頃までエレクトロニック音楽が流れてくるので、それが辛い…。いまはコロナの影響で営業停止中なので、静かに眠れてます」
水嶋「不幸中の幸いだけど、ちょっと不幸がでかすぎですね…」
水嶋「ハンモックの裏の壁で想像はしてたけど、シダすごいですね!チリでよくあったりするんですか?」
マリエ「多くはないけど、古い家だとときどきあります」
4カ国からお送りしました、ご自宅旅行。そういえばむかし、友達の家に遊びに行くだけでいろんな未知と遭遇できた。ドアノブにカバーをつけるとか、サソリの標本が置いてあるとか。いま外出はむずかしいけど、お互いの場所は外同士。そういえばオンライン飲みにハマってる友人が「Googleストリートビューでお互いの実家を訪問したらたのしかった」と話していた。いいな、俺も今度それやろう。
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