大宮盆栽美術館
埼玉に住む友人にどこかおすすめはないかと聞いてみたところ「大宮の盆栽美術館」という回答だった。ちょっと渋くないかなと思ったが、勧められたら行く、それがこの企画である。
大宮は盆栽の町として知られているらしい。土呂駅を降りたとたん、植物がなんとなくびしっとしていた。
土呂駅から歩いて5分ほどのところにあるのがさいたま市大宮盆栽美術館。
さいたまなのか大宮なのかわからない名前に見えるが、大宮というのはさいたま市の中にある大宮区なのでこれで正解なのだ。
盆栽美術館は館内のギャラリーを一通りながすだけで盆栽という文化やその歴史についてコンパクトに学ぶことができる。
僕が行ったときは海外からのお客さんが数組来ていた。日本の美を煮詰めたみたいな空間である。東洋の神秘。たしかに海外の人に人気なのもわかる。
盆栽について学んだあとはいよいよ生きた盆栽を眺めてほしい。美術館の庭には約60点の盆栽が展示されている。
館内でにわかに知識を付けた後、展示されている盆栽を見ると卒倒すると思う。どれも威厳が大爆発である。
館内ではまだ冷静でいられたが、実物を目の前にすると一気にスイッチが入る。映画でゴジラが海中から出てくるだろう「ギャオオオオオーー」。あの感じだ。
1000年である。僕は盆栽をわかっていなかった。
よくマンガとかで野球のボールが人の家に飛び込んで盆栽をガッシャーン!コラー!みたいな表現があるだろう。ここの盆栽にはまったくそういった冗談の通じない雰囲気がある。写真を撮ろうと後ろに下がる時、リュックが当たって盆栽を倒しちゃいけないと何度も振り返って確かめた。
中に樹齢45年というひよっこがいた。僕と同い年である。
自分が生まれてからのことを考えると、田んぼにダイブしたりビワの木に登って実を食べたりしていた小学校時代から、大人になって就職して、引っ越ししたり家族ができたり、わりといろいろやってきたように思っていたのだけれど、盆栽にとってはまだまだなのだ。
博物館の横には盆栽の共同販売所が設けられていて、大宮にある盆栽店のいくつかが出品している。にわかに知識も身につけたことだし、ちょうど盆栽欲はマックスである。これは買っちゃう。
共同販売所ではさいたま市内の盆栽店で修行をしているという中国からの留学生の方が盆栽の手入れをしながら店番していた。
盆栽を育てるのは難しいですか?と聞くと「はい、難しいです」と即答。ですよねー。遠慮のない回答に盆栽の奥深さを見た。
盆栽レストランの盆カレー
盆栽美術館の向かいには盆栽レストランがある。
入口には立派な松が飾られていて、ちょっと外からではなんのお店なのかわからなかったので、立ち止まって様子を見ていた。
そんな僕を見かねてか、店内からおかあさんが出てきてくれた。
「どうぞ!入ってゆっくり見てって!」
美術館で盆栽の凄みを体感したあとだったので敷居の高さにうろたえていたのだけれど、ここはものすごく気さくである。
レストランってことは食事もできますか、と聞くと
「できますよー、普段は盆栽教室やってるんですけどね。見てって見てって」と。
川に流されるように店内に入った。
席に着くとさっきのおかあさんがメニューを持ってきてくれた。
「雨が降ってきたけど、このくらいの方が盆栽にはいいのよね~」とおかあさん。
その気持ちもわかるが、僕は人なのでおすすめの「盆カレー」を注文した。ボンカレーってまさか誰もが知ってるあのボンカレーだろうか。
店内の盆栽を眺めながら待っていると盆カレーが盆に乗ってやってきた。
盆栽をイメージしたカレー、それが盆カレー。カレーはボンカレーではなくオリジナル。脇を固めるのは大宮名物「盆サイダー」そして「苔太郎」である。
苔太郎は苔のミニ盆栽。だから食べられない。このまま持って帰って育ててください、と
向かいの盆栽美術館で盆栽を買ってきたという話をしたところ「何買ったの?見せて!」と。食事中だろうが盆栽の話になると関係ない。盆栽がおかあさんの心に灯をともす。
盆栽レストランは普段は盆栽教室を開いているのだとか。「若い人も来るし、とくに海外の人に人気よねー」と。大宮の盆栽は世界各国に広く輸出されているらしい。
盆カレーを食べ終える前に、今日は他にも持ち物が多いので苔太郎はこちらで育ててもらえないですか、とお願いしようとタイミングを見計らっていたのだけれど
「苔太郎、袋に入れますか?かわいいでしょう、連れて帰ってかわいがってくださいね!」
と先手を打たれてしまった。かわいいのは確かなので連れて帰って大切にさせてもらいます。