特集 2024年5月7日

技あり!ちょっとの工夫で無限エクトプラズム

エクトプラズムをご存じだろうか?私は幼い頃からこの心霊現象にトラウマを抱きながら生きてきた。そして今、それを克服する時が来た。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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いつか出る。エクトプラズムが私の口からも

1980年生まれの私が子供の頃はUFOにビッグフット、ノストラダムスにコックリさんなど、テレビにも本にも不可思議な現象が溢れかえっていた。その中でも未だに忘れられないのが、エクトプラズムである。

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恐らくもっとも有名なエクトプラズムの写真。スコットランドの霊媒、ヘレン・ダンカンの口から出るエクトプラズム

霊媒者の身体、特に口や鼻から出るといわれる霊魂のようなもの。この不思議な現象を最初に知ったのは、小学校低学年の頃に『うしろの百太郎』を読んだ時であった。様々な心霊現象が登場するこの恐怖漫画の中でも、ひと際異彩を放っていたエクトプラズム。明確な恐怖というよりは、訳の分からない怖さ。

それ以来、私の心に「いつか私の口からも白いドロドロが出るんじゃないか?」というトラウマが植えつけられてしまった。

私の友人は酔って吐いてしまった時、「あ、これ反吐だ!」と分かったそうだ。「反吐」が何なのかも知らなかったのに。エクトプラズムも結局なんなのかいまだに理解していないが、それが私の口から出る日が来れば「あ、これか!」と必ず分かると思う。

しかし、“その日”はいまだに来ない。引き延ばされた恐怖が、大人になった今でも私を苦しめる。

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むしろこちらから出してやる

ずっとこんな恐怖を抱えながら生きていくのはもう嫌だ。このトラウマを克服する方法はないだろうか?

先日見た映画のワンシーンに、そのヒントがあった。精神科医がワンタンに恐怖を感じている患者に、自分で皮から作って食べるようアドバイスしていたのだ。つまり恐怖を感じる対象の構造を分解して一から作ることにより、理解できないものを理解できるものにする、という手法だ。そうか。自分からエクトプラズムを作って出しちゃえば良いのだ。

私はまず目隠しをして、ヘレン・ダンカンと同じような状況の写真を撮った。

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写真撮影は子供に頼んだ

そして顔の部分をトリミングして、印刷する。

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横70cm×縦100cm。かなり大きい

余分な部分をカットして、一枚一枚丁寧に張り合わせていく。

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写真とは言え、自分の顔を切り刻むのはやや胸が痛む
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木工用セメダインは紙にも使えるし速乾なので便利

最後に口の部分だけ切り抜いたら、完成だ。

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ひげは剃っておくべきだった
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いよいよ出るぞ、エクトプラズムが

この巨大顔写真をどうするのか?トイレの壁に貼るのである。

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トイレの壁に貼って良いのは世界地図だけじゃない

さあ、遂に出るぞ。私のエクトプラズムが。

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ピョロ

エクトプラズム、完全に理解できた。長年のトラウマが、克服された。

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トイレのたびにエクトプラズム。日常に組み込まれてしまえばもう怖くない
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家族会議が開かれた

「無限エクトプラズムマシーン」を発明した次の日。妻に「話があるから座って」と言われた。

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私「なんだい?急にあらたまって」
妻「あなたのことは大事に思ってる。でも、あの壁のあなたは凄く気持ち悪い。写真、剥がして欲しいの。私、トイレで目を瞑ってる」
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私「あのね、長年抱えてたトラウマを克服すべく知恵を振り絞ってやったことなんだよ…」
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私「ただ、あなたの言ってることの方が100%正しいと思う」

聞けば子供も嫌がってるという。私のトラウマ克服が、誰かのトラウマを生み出してはいけない。すぐに剥がそう。

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なんだ、こんなもの!
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トイレも我が家の人間関係も原状回復である
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ピョロ

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妻のプライバシーに配慮して写真を加工しております

おかげさまで私達夫婦はこの5月で結婚15周年を迎える。どんなに遠慮のいらない関係性を築いていたとしても、やはり相手の意見を尊重し、悪いことがあれば素直に認めるという姿勢はこれからも忘れずにいたい。

この記事で言いたかったのは、そういうことである。

 

ささやかなおまけ
記事に使わなかった写真

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