沖縄のいなりとチキンはちょっと違う
いなりずしとフライドチキンは全国どこにでもあるが、沖縄のいなりとチキンは、味わいも食べるシチュエーションも売っているお店もちょっと違っている。
まず本土における「いなりずし」の地位といえば、たとえば回転寿司での子どもたちの好物だったり、スーパーなどで巻き寿司とセットで売られていたり、うどんなど麺類のお供などとして食べられているイメージだ。
はたまた、茨城県の「そばいなり」や佐賀県の「そうめんいなり」、青森県の紅しょうがが入った「赤いなり」など、完全に郷土料理として独自の進化を遂げているものもある。

そして沖縄のいなりといえば、まず三角形をしており揚げの色はかなり薄め。皮自体の厚みもかなり薄い。蒸し暑い気候の影響もあるのだろうか、ごはんは酢の酸味がしっかり効いていて、全体としてかなりさっぱりとしているのだ。
サイズもわりと小ぶりなものが多い気がする。

次にチキンである。これも見た目はまあ普通のフライドチキンではあるのだが、めちゃめちゃニンニクが効いている。どれぐらい効いているかというと、車の中で食べようものなら翌日までしっかりにおいが残ってしまい、家族に“チキンばれ”してしまうほどである。
そして、沖縄では「いなりとチキンの専門店」なるものが存在し、街中でちらほら見かける。そう、いなりとチキンは当然のようにセットなのだ。
沖縄県民は昼食におやつにと日常的にいなりとチキンを購入する人も多く、そういった専門店では基本的にバラ売りもしているため「いなり2個とチキン1個」のような買い方が定石になっている。
沖縄のファミリーマートには「いなりとチキン(ガーリック)」という商品も存在しているほどだ。ガーリック、とわざわざ表記しているところに沖縄ファミマのこだわりを感じる。
いなりとチキン発祥の店「丸一食品」を訪ねる
そんな「いなりとチキン」のスタイルを確立させたといわれているのが、沖縄本島の東海岸側に位置するうるま市にある「丸一食品」。
うるま市平敷屋(へしきや)に本店があり、同じくうるま市塩屋に支店がある。

昔ながらの商店といった佇まいの本店。両側の木が庇を突き抜けているのも味わい深い。

持ち帰り専門店なので、店内には最低限の来客用スペースしかない。先客がいる場合は外で待つ。

行事ごとで大量購入する人も多いので、いなりずしの料金早見表があった。1個130円、300個で39,000円だ。
チキンは個体差があるので量り売りになっているが、だいたい180円前後だそうだ。

いなりとチキンはどちらもある程度作り置きしてあるので注文するとすぐに出てくる。いなり1個とチキン1個で315円。
忙しい時でもサッと立ち寄ってすぐに買えるファストフード的要素があるのも、愛されている理由のひとつかもしれない。

イートインスペースはないが、車社会の沖縄なのでそのまますぐに車で食べたり家に持ち帰って食べたりする。どちらも袋入りなので食べやすい。

こちらは本店から車で15分ほどの塩屋店。住宅地や商業施設が多い賑やかなエリアにあるので、のんびりした雰囲気の本店と比べお客さんがひっきりなしに訪れている。営業時間は午前9時から午後5時までだが、売り切れ次第終了なのでだいたいいつも5時までには閉店している。休日や行事ごとのある日だと、昼過ぎには売り切れということも珍しくないんだとか。

値段は本店と同じく量り売りで1本180円前後、5本で920円だった。

ちなみに塩屋店の近くには「うるマルシェ」という農水産物やレストランなどがある道の駅的な複合施設があり、そちらでも「丸一食品」の取り扱いがある。こちらではあらかじめパックに入ったいなりとチキンが並んでいる。
こちらも休日ともなればあっという間に売り切れてしまう人気商品だ。
丸一食品の元祖・いなりとチキンをいただこう

こん棒のような雄々しいチキンと薄い色のいなり。あたりに漂う強烈なニンニクの香りが伝わらないのが口惜しいが、ウチナーンチュはこの画像だけで沖縄を感じてしまう。

基本的に沖縄のいなりは具なし。もっちりとした食感の酢めしに、白ごまがついていることが多い気がする。

この皮の薄さこそが沖縄いなり。皮自体にはそこまで味はついておらず、酢飯の酸味で食べる感じだ。

チキンはサクサク、ジューシーというよりは、ガリッゴリッとしたしっかりめの衣の食感。中のチキンはむね肉だろうか、かなりかみ応えがある。そして口の中にぶわっと広がるニンニク。これが最高にうまい。
そこですかさず、いなりに戻る。
いなり、チキン、いなり、チキン、いなり、チキン......他のものは何もいらない、いなりとチキンだけあればそれでいい。それほどまでに味のバランスが完璧なのだ。

