イカの白黒刺し
ざっくりとイカの解体作業が終わったところで、あえて洗わず、スミにまみれた真っ黒いまな板の上でイカ刺しを作る。イカのスミの味を知りたいのであれば、この食べ方が一番だろう。
見た目と手際の悪さはともかく、鮮度抜群の江戸前カミナリイカなのだから、スミごと生で食べてもおいしいはず。比較用としてスミのない白いイカ刺しも用意した。
まず白い刺身を食べてみると、サイズの大きなイカなのであまり味に期待をしていなかったのだが、これが滅法うまいのだ。
超肉厚な身はムチムチでブリンブリンかつサックリした歯ごたえ。自然な甘さが堪らない。カミナリイカってこんなにおいしいイカだったのかと感動。ツツイカ目のイカとはまったく違う食材だ。
そして問題の黒い刺身だが、そこにネットリとした好ましいぬめりが加わり、さらに生臭さを完全にゼロにしたイカの肝のまろやかな旨味が乗っかってくる。
見た目ほどわかりやすい味の変化はないのだが、旨味の総量がかなり違う。ただその旨味はあくまでも自然で優しい。イカにスミの味が加わるというよりも、イカの味が底上げされているイメージ。イカスミはイカの濃縮エキスなのか。
イカ本来の食感を楽しみたいなら白、濃厚な旨味を楽しみたいなら黒だろうか。本当にどっちもうまいのである。
イカの黒作り(塩辛)
続いては富山県などで食べられている黒作りに挑戦。スミ入りの塩辛である。本来はスルメイカで作るらしいが、きっとカミナリイカでもおいしいはず。
肝を入れるかちょっと迷ったが、黒い刺身との違いを楽しむためにも使ってみた。
カミナリイカの刺身、スミ、肝、塩、少量の日本酒をよく混ぜて、冷蔵庫で3日ほど熟成させる。
自家製の柚子胡椒を添えて食べると、これがまた実にうまかった。寝かせたことでネットリ感が増した柔らかいイカの身を包み込む、肝を含んだ真っ黒いソース。これはすごいぞ。
こんな見た目なのに味はあくまでも上品。だが圧倒的。これまで何度となくイカの塩辛を仕込んできたが、ちょっと別格の存在かもしれない。スミのありがたみがだいぶわかってきた気がする。
イカスミのスパゲッティ
一番食べたかったイカスミのスパゲッティも当然作った。その作り方を調べてみると、どうやら黒いスミの奥にトマトの旨味をたっぷり加えることがコツのようである。
オリーブオイルでニンニクと唐辛子を炒めて、薄切りのタマネギ、戻したドライトマト、トマトペーストを加えて、白ワインを注いで煮詰める。味付けは塩のみでいいだろう。
ソースが煮詰まってきたら、イカの身とスミと肝をたっぷりと加える。
加えるイカの適量がよくわからないのだが、こういう料理はやりすぎくらいがちょうどよい。
イカに軽く火が通ったら、硬めに茹でたスパゲッティを絡めたら完成。トマトの赤さがイカスミに飲み込まれた、漆黒のパスタのできあがりだ。
私の中には「イカスミはうまいもの」という価値観が構築されているので、人によっては悪趣味に見えるかもしれない黒いスパゲティが、ものすごくおいしそうに見える。
よだれが垂れないように気を付けながら食べてみると、かなり高めの期待値を大きく超えてくるではないか。簡単にはすすらせてくれないネットリしまくりのソースが最高。
トマトとタマネギだけでも十分な旨味なのに、そこに方向性が違うイカスミの旨味が加わると、ここまで味が広がるのかという驚きがある。肝を入れたことによるコクのアップも素晴らしく、陰ながらサポートする唐辛子とニンニクの仕事ぶりにも拍手を送りたい。もちろん柔らかい肉質のイカもうまく、最高のメンバーが集まった一団みたいな一皿だ。こういうのが食べたかったんだとソイヤソイヤと盛り上がる。
サイゼリアのスパゲッティも十分おいしいが、緑茶しか飲んだことのない人にとっての抹茶、ラクトアイスで育った人が初めて食べるレディボーデンみたなインパクト。これは自分で作らなければ、なかなか出会えない味だろう。

