こうしてイカスミ料理をしっかり堪能したことで、イカスミが加わるからこその味というものをそれなりに理解できたと思う。白髪を染めるよりも食べる方が圧倒的に有効活用だ。
イカ釣りもイカ料理も改善点がいくつもあったので、また来シーズンの冬に再挑戦してみたいと思う。
イカはまだあるので、ついでにパエリアも作ってみよう。知り合いが書いたスペインの旅行記で、イカスミのパエリアにアイオリソースをかけると最高と書かれていたのが気になっていたのだ。
エビやアサを入れればよりおいしくなるだろうけれど、ここはシンプルに具はイカだけに絞ってみよう。
炊きあがったパエリアは硬い米にイカの旨味が染みてなかなかおいしかったのだが、見た目がいかんせん地味すぎた。
パエリアらしい華やかさを出すためには、加熱しても縮まない貝類や甲殻類が必須のようだ。煮込むとライスは膨れるがイカは縮んでしまうため、米と具のバランスも悪い。
そしてすっかり濃厚なイカスミ味に慣れてしまっていたため、「もっと濃いイカの旨味をくれよ!」と思ってしまった。私はイカスミジャンキーのようである。
最後にもう一品。沖縄で食べられているイカスミ汁も作ってみよう。この汁にはニガナというご当地食材が必須らしく、先日石垣島を訪れたときに買うことができ、ようやく作ることができた。
ニガナをちょっと食べてみると、その名の通り苦い葉っぱで、そこら辺の雑草よりも苦くて硬い。なんでこれをわざわざ入れるのかとちょっと不安になる味でおもしろい。
汁物に葉物野菜を入れる場合はクタクタにならないよう最後に入れるのがセオリーだと思うのだが、石垣島出身の友人によれば、「イカスミ汁のニガナはクタクタに煮るもの」らしい。
そういうものなのかと首をひねりつつ、ニガナ、豚肉、イカの身を鰹出汁で1時間ほど煮て、仕上げにイカスミをたっぷりと加えて、塩で味を決める。
これまで濃厚さこそがイカスミの持ち味だよなと思ってたいが、こういう方向もおもしろい。鰹出汁がベースなので全体があっさりすっきりしているのだが、イカスミがムワっと加わるコクとしてしっかり存在している。豚肉はあくまでイカのサポート役。
クタクタになってもまだ張りを保っているニガナの苦味が緊張感を与え、全体をビシッと引き締める。こうして実際に食べてみると、この汁に入れるべき野菜はニガナ以外に考えられない。実は苦い葉っぱならなんでもいいだろうと、釣ってすぐに春菊で作ってみたのだが、ここまでのコンビネーションではなかった。
カツオとイカの旨みが感じさせてくれる青い海。これぞ「うみんちゅ」の食べる汁。ただ沖縄そばなどと同じく、こういうのは暖かい気候の中で、うっすら汗をかきながら食べてこその味なのだろう。イカスミ汁を味わうには埼玉は寒すぎる。
イカによるスミ攻撃を忍術に例えると、スミで視界を奪って消える煙遁(えんとん)の術よりも、スミを身代わりにする空蝉(うつせみ)の術なのだと聞いたことがある。
そのためイカスミには適度な粘りがあり(海中でまとまる)、捕食者が向かってしまいたくなるイカのうま味成分がたっぷりあるのだとか。
結果としてイカは人間にとって、絶品のソースを体内に備え付けた食材になっているのだから、進化というのもなかなか難しいものである。
こうしてイカスミ料理をしっかり堪能したことで、イカスミが加わるからこその味というものをそれなりに理解できたと思う。白髪を染めるよりも食べる方が圧倒的に有効活用だ。
イカ釣りもイカ料理も改善点がいくつもあったので、また来シーズンの冬に再挑戦してみたいと思う。
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