10キロは食べられなかったが1キロは食べた
自分は食べるほうだと思っていたが上には上がいる、井の中の蛙とはこのことである。でも、1キロ食べたのだから良い戦績ではないか。このあと、家に帰ってもお腹は全然減らなかった。
チャーハンが好きだ。チャーハンなら無限に食べられる気がする。なんか珍しいチャーハンはないかと探していたら「いちはらチャーハン」というものを見つけた。
千葉県市原市が地元を盛り上げるために作られたB級グルメである。しかも、いちはらチャーハンの公式ページを見たら「大食い大会開催のお知らせ」があった。行くしかない。
10月16日、千葉県市原市五井にある梨の木公園で行われた「梨の木市」にていちはらチャーハンのイベントが行われた。
いちはらチャーハンとは、市原市内にある33店舗の飲食店にて提供されている地元食材を使用したチャーハンのことである。
しかも、それぞれ独自のチャーハンを提供しており、33種類のチャーハンを食べることができるのだ。
詳しくは公式サイトを見てほしい。そして、行くときは誘ってほしい。
最初33店舗全て行って記事にしようと思ったが、スケジュールを組んだところ2日間で33店舗行く予定になってしまい、1日16杯はなんだかすごいことになりそうなのでやめた。
公園内には地元の食材を使った様々な食べ物が販売されているほか、いちはらチャーハンも販売されており、公園内は大盛況である。
イベントに参加するのも久しぶりだ。人がにぎやかにはしゃいだり、おいしいものを食べて笑顔になる様子を見るのは楽しい。どんなものがあるか園内を歩いてみることにした。
のりの風味が口いっぱいに広がる。ご飯を一緒に食べたいが、これからご飯を食べるのだ。
このイベントではチャーハンの大食い大会を行うらしく、事前にいちはらチャーハンの公式ホームページにて大会参加者を募集していた。
しかも、優勝賞品は市原米30キロと賞金5万円である。これを見つけた瞬間「やるしかない」と思って、勢いよく申し込んだ。
チャーハンなら1キロ食べられる人なので勝てるかもしれない。しれないじゃない、勝つんだよ。
5万円を手にしたらチャーハン部(デイリーポータルZのライターを誘って作った部活。「最初に勢いをつけるために1キロのチャーハンを食べに行きましょう!」と誘ったが誰も行く人がおらず、そのままなんとなく活動してない)のみんなで高級中華のチャーハンを食べに行きたい。もしくは普通に使います。
今回、大会の募集は約6名だった。それに当選しないと参加資格がない。
募集フォームには「応募多数の場合は今までの大食い経歴から選考します」と書いてあった。大食いの経歴を書くのは初めてだった。履歴書にそんな欄がないから。
「チャーハンなら1キロぐらいなら食べられます。最大で2キロ近く食べたことあり、チャーハンなら無限に食べられると思います。別件ですが、先日、冷やし中華を4玉食べました。」と書いて送った。自分で書いて起きながら、すごい食うなと思った。
大会1カ月前に申し込みを行い、大会15日前に当選の連絡がきた。戦いの資格を得たのだ。
大会の1週間前にインタビューを受けた。どうやらキャッチコピーをつけるために今までどのぐらい量を食べたことがあるのか、どんな仕事をしているのか、意気込みなどを1時間ほど聞かれた。
その中でインタビュアーの実行委員の方から「皆さん、あまり自信がないみたいで…」と言われて「ぼくもそうですよー」と答えたが心の中では(勝った)と思った。こっちはチャーハンを無限に食べられるし、先日冷やし中華を4玉食べた男だぞ。
やばい、5万円が近づいてきた。興奮してきたな。チャーハンでも食べるか。
当日までチャーハンのことを考えたり「大食い 方法」で調べたりした。限界までご飯を食べて少しずつ食べられる量を増やしていくらしい。
また「太っている人は内臓脂肪で圧迫されるため胃が大きくならない」と書いてあった。太っている人、不利だな。
当日の朝、お腹を空かせるため運動もしてきたし、朝ごはんもぬいてきた。準備万端である。
大会参加中は自分で写真が撮れないので写真撮影を編集部の安藤さんにお願いした。安藤さんのために場所を取りをしながら待つ。
勝負の前にどんなチャーハンが出るのか知る必要がある。近くのテントに一部のいちはらチャーハンが紹介されていた。
いろいろなチャーハンがあるが、自分出てきたチャーハンを食べるだけなんで。
昔ながらのチャーハンや、カレー風味のチャーハン。しいたけをたっぷり使ったチャーハン、国産霜降り牛で包んだチャーハン、市原の野菜を使ったチキンビリヤニなどが様々なチャーハンがある。様々なチャーハンがあるのはいいことだ。
中には今回の大会のため、普段はテイクアウトの提供をしないお店も特別に用意してくれたそうだ。そんな、いいんですか?ありがとうございます。
テイクアウト容器に入れられたチャーハン。見た瞬間に思った、10杯いけるかもと。
ステージの下から準備されたチャーハンを見た瞬間「これ、なんか小さくないですか?いける気がします」と自信満々の発言が思わず出てしまった。あと、こんなにチャーハンを食べられるの、普通に嬉しい。
その後、集合時間になり、参加者たちは近くの建物に集まるように指示がされた。応募の中から選ばれた7名が集合場所に集結する。
だが、集合場所の建物に入った瞬間、会場の和気あいあいとした雰囲気とは180度違う張り詰めた空気がただよっていた。
町のイベントなので気軽というか、楽しいイベントだと思ってやってきたが、なんだこの緊張感は。
しばらく待っていると地元のテレビ局にインタビューを受けることになった。近くで聞いていたのだが衝撃的なフレーズが聞こえてきた。「寿司を120貫食べたことがあります」「油そばを16杯食べたことがあります」という声が聞こえる。え、話が違う。
「おれ、食べられるほうだしいけるだろう」と思い申し込んだが、もしかしておれは村一番の大食い自慢だったのか。世界は広い。あと、さっき餃子を食べなかったほうがいいかもしれない。
気持ちの整理がつかないまま大会がスタートした。
キャッチコピーと名前が呼ばれ、ステージへと上がる出場者たち。皆さん、緊張した面持ちだ。そしてついに自分が呼ばれた。どんなキャッチコピーなのか。
「食いしんぼうグルメライター 江ノ島茂道さんです」
恥ずかしいので大きな声で言わないでほしいと思った。
ルールとしては下記の通りだ。
・制限時間は40分
・10個のチャーハンをシールが貼られた順番に食べる
・米粒1粒も残さずに食べて完食したら容器を上にかかげる
・10個食べたら2週目に突入する
・スプーンやフォークなどカトラリーは持ち込み可能
・飲み物も持ち込み可能(麦茶500ミリリットルと水2リットルは用意されている)
・調味料の持ち込みはNG
・制限時間内で一番食べた人が優勝
ステージに上がり、目の前の並べられたチャーハンを見たとき「あれ、量多くない?」と感じた。先ほどは「楽勝ですよ!」と言っていたが、緊張かもしくは先ほどの餃子がきいてきたか。でももうやるしかない。
司会のアナウンサーが内山さん、彦摩呂さんに大食いのコツを聞いていた。デブの大先輩たちのアドバイスだ。これは聞くしかない。
内山さん「ぼくらは量を多く食べるから太ったじゃなくて、食べている時間が多いのとハイカロリーが好きで太ったデブなので」と言っていてとても共感した。自分もそれです。
そして、会場の緊張感が最高潮に達したところでついにスタート。40分間の激闘が始まった。
スタートと同時に勢いよくチャーハンを食べる参加者たち。町の中華屋では見ない光景である。
最初に食べたのはおこげと大きなエビが乗ったチャーハンだ。うまい。うまいが味わうひまがない。味わっている間に隣の人のチャーハンがものすごい勢いでなくなっていく。
2杯目はしいたけたっぷりのチャーハン。しいたけの風味が口の中をかけめぐる。そして、思う。チャーハンってそんなに食べられないかもしれない。
大食いのとき、水分を取ると食べ物が胃でふくらんでお腹がいっぱいになるらしい。しかし飲まないとチャーハンがお腹に入っていかない。これ、餃子がきいてきたな。
他の参加者たちは5杯、6杯と食べている。スピードを上げなければと思って3杯目を一口食べて思った。もうお腹8割。
満腹に近い。ただ、まだまだ時間はたっぷりとある。たっぷりあるなよと思った。
3杯目はキムチチャーハンである。甘辛い味がおいしいのだが、なんか量が多い。おれのだけ大盛りじゃない?と思うほどの量がある気がする。お腹いっぱいが見せるチャーハンのまぼろしか。
ただ、他の参加者たちは普通に食べている。
「自分の分も食べますか?」と聞こうと思ったが怒られそうなのでやめた。
残り20分で4杯目に突入したが、もうお米1粒も入らない。「もう早く終わってくれ」と願っていた。無理。1粒も入らない。あまりにも食えなくて時計を何度も見た。たぶん、チャーハンを食べる回数よりも時計を見た回数のほうが多い。
そのあとも意味もなく空を見たり、遠くの建物を見てはまた空を見てやりすごしていく。ステージ上で過ごす意味の無い時間、見られていると思うと恥ずかしい。
ただ両隣の人たちはものすごい食べている。8杯以上食べている人もいる。おれ、人がチャーハンを食べている姿を見て、怖いと思ったのはじめてだよ。
40分間の激闘(後半20分はチャーハンを外に出さないようにする個人的な激闘があった)が終了。優勝した人は10杯以上食べていて、圧倒的な大食い力で優勝していた。
10杯で4キロ以上あるらしいが「時間があったらまだまだ食べられます」と言っていて、おれはとんでもないモンスターたちと戦っていたのだと思い、恥ずかしくなったよ。
結果は全然ダメだったが、人は限界以上にご飯を食べると泣きそうになることがわかっただけでもよかった。
残ったチャーハンは参加者たちが持ち帰っていいそうだ。今日は食べられないので明日から少しずつ食べてようと思う。
このあと授賞式や記念品の授与が行われては無事に終了。越えられない壁を目の前で見せつけられて、ちょっと落ち込んで帰った。次の日食べたチャーハンは少し涙の味がした。
自分は食べるほうだと思っていたが上には上がいる、井の中の蛙とはこのことである。でも、1キロ食べたのだから良い戦績ではないか。このあと、家に帰ってもお腹は全然減らなかった。
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