特集 2022年12月5日

近くに新宿がないのに西新宿? 兵庫の西新宿へ

日本有数の摩天楼がそびえる東京の西新宿とは別に、兵庫県にも西新宿がある。

東京の西新宿は、その名前の通り新宿駅の西側にあるのに対し、兵庫県の西新宿は近くに新宿がない。兵庫県の西新宿はなぜ“西”新宿なのか。

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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2つの西新宿

子供の頃は社会科の地図帳を眺めるのが好きで、最近はGoogleマップを眺めるのが好きだ。

そのなかで時々「気になる」ほどでもない「ん?」くらいのひっかかることがある。

東京都の西新宿はもちろん知っていたが、兵庫県にも西新宿という場所があるのを見つけた。たぶん半年くらい前のことだ。

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←兵庫県の西新宿、→東京の西新宿

東京の西新宿と兵庫の西新宿はそれぞれ地図のだいたいこの↑辺りにある。

東京の西新宿は郵便番号160-0023が割り振られているが、兵庫の西新宿にも679-5645が割り振られている。

僕は知らなかったが、兵庫の西新宿もすごくマイナーな地名というわけでもなさそうだ。

東京の西新宿がそうであるように、当然、兵庫の西新宿にも近くに(というか東側に)「新宿」という地名があるはずだ。

しかしGoogleマップ上でいくら探しても「新宿」を見つけることはできなかった。

では、なぜ兵庫県の西新宿は“西”新宿なのか、疑問に思いながらもそれ以上の情報はネットでは調べられず、解決できないまま忘れ去っていた。

東京の西新宿

その事を再び思い出したのは先日、仕事で東京の西新宿を訪れた時だった。

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ほとんどの人が知っている東京の西新宿。中央にそびえるのはモード学園のコクーンタワー。

東京の西新宿は東京都新宿区にあり、世界で最も乗降者数が多い駅でもあるJR新宿駅の西側に広がる地域である。

この西新宿以外にも西新宿があったことを思い出したのだ。

東京の西新宿の由来

まず東京の西新宿についてサッと調べてみると、やはり想像通り新宿の西というのがその由来らしい。

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新宿駅西口のロータリーのあたり。

しかし西新宿という名前は歴史があまり長くないそうだ。

この西新宿の一帯は元々、角筈(つのはず)や柏木と呼ばれていた。

1962年(昭和37年)に(特に都市部において)住所が複雑で分かりにくくなっていたため、郵便物を届けやすくしたり行政の効率を良くしたりするために「住居表示に関する法律」が施行された。

それ以降、徐々に住所が整理されていく。

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西新宿駅。

1970年(昭和45年)に新宿駅の西側に位置している(あるいは新宿地域の西側にある)地域ということで西新宿という名前が使われるようになった。

つまり西新宿という名前は使われ始めてまだ50年少々だ。

東京の西新宿といえば高層ビル街

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都会的な景色。兵庫の西新宿との共通点はあまりなさそうだが…。

東京の西新宿といえばこの高層ビル街だ。この一帯にはかつて淀橋(よどばし)浄水場があったことは有名だ。

浄水場が東村山に移転すると、昭和40年(1965年)に淀橋浄水場は廃止され、その跡地には千代田区丸の内から移転してきた東京都庁をはじめとした高層ビル群へと姿を変える。

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ヨドバシカメラの名前の由来は新宿区に合併して消滅した淀橋区。

そういえば、淀橋浄水場の淀橋はヨドバシカメラのヨドバシとも由来が同じらしい。

ニンテンドーDS Liteが発売されたばかりの頃、まだ品薄だったときにこのヨドバシカメラの前を通りかかると、ちょうど「入荷しました」という声が聞こえ、すぐに店に入って買った。そしてバスタ新宿ができる以前は高速バスターミナルがここの近くにあったので、高速バスでたどりつく早朝の西新宿こそ東京だとの認識だった。

そんな西新宿と同じ地名は兵庫にもあるようだ。

兵庫の西新宿を体験するには

さて、そんな東京の西新宿で兵庫の西新宿を感じられる(と個人的にこじつけた)場所がある。

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丹下健三の設計した東京都庁第一本庁舎。

それは東京の都庁第一本庁舎だ。かつて日本一の高さを誇り、西新宿の高層ビル群の中でもひときわ有名だ。

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こちらは南展望室。北展望室はコロナの関係で行けなくなっていた。

東京都庁の展望室は無料で上ることができる。しかし意外と上ったことがある人は少ないのではなかろうか。

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45階までノンストップで上る。

エレベータで一気に45階まで登ると、気圧の違いで耳がキーンとなるほどだ。

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ほぼ中央に置かれている草間彌生のピアノ。

展望室は観光地として人気があるようで、外国人観光客でごった返し、活気と人の喋り声で満ち満ちている。

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遥か先まで見渡せる。足元に広がるのは新宿中央公園。

もちろん展望室からの眺めは格別で、はるか彼方まで続く街と砂粒より小さい人に高さを実感する。

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新宿駅側の景色。先ほどのコクーンタワーなどが見える。

この展望室は地上202メートルにあるが、新宿の地面は標高(海面からの高さ)は35mくらいだ。そのためこの場所の海面からの高さは240メートルくらい。

実は、この展望室とほぼ同じくらいの標高に兵庫県の西新宿がある。

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兵庫県の西新宿へ

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西新宿へようこそ。写真の道路には車はほとんど走ってこない。

兵庫県の西新宿は、東京都庁第一庁舎から約500キロメートル西に位置する兵庫県佐用郡佐用町という場所にある。

佐用町の中でも山深い場所で、ほぼ標高は200~300mの山地だ。

風が木の葉を揺らす乾いた音のなか、足元からボリボリ、ボリボリという大きな音が響く。

地面に無数に散らばるどんぐりを踏んで潰れる音だ。こちら兵庫の西新宿はとにかく静かで自然豊かだ。

ピンクテープがたくさん

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田んぼと民家が点在する。中央右寄りにピンクのテープが。

道を進むと田んぼや民家がある少し開けた場所にでてくる。

ここでもイノシシなどの害獣の被害は深刻なようで、害獣が入らないように設置された柵がずーっとつづく。

そして鮮やかなピンク色のテープが目を惹く。

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こっちにもピンクテープが一定間隔で並ぶ。なんだこれは。

兵庫の西新宿には、とにかくこのピンクテープがあらゆる場所に結び付けられている。

ピンクテープには色々な目的がある。

例えば害獣駆除用の罠を設置した場所の目印や、登山道の目印としている場合もある。

定かではないが、ここでは一定間隔でたくさん結び付けられているので害獣除けかもしれない。害獣は鮮やかなピンク色をいやがると考えられていて、害獣除け専用のピンクテープも売られている。

パラレルワールド感がある

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のどかな風景と西新宿の看板

当たり前と言えば当たり前だけど、兵庫の西新宿にはいたるところに「西新宿」と書かれている。

東京の西新宿のイメージが強すぎるからか、パラレルワールドに迷い込んだような、落ち着かなさがある。

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バス停がある。

公共交通機関が豊富だった東京の西新宿と比べると、兵庫の西新宿には公共交通機関はおそらくない。

唯一のバス停はスクールバス用だ。

西新宿の観光スポット

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日曜日オープンと大きくかかれている。

そんな、ほぼ一本道に近い西新宿で珍しく横路があり、看板を見つけた。

交流センター、ハイキングコース、日曜カフェ、花しょうぶ園と盛りだくさんではあるが、日曜日オープンともある。この日は平日だった。

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誰もいない。

残念ながら…というか案の定、店は閉まっていた。

たぶん関係者であろう近くで除草作業している人に聞くとやはり日曜日しか営業してないそうだ。

その人にちょうど今が紅葉が見ごろなので見て行くように促された。

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たしかに今が一番きれいかも。

しばし紅葉を眺めて元の道に戻る。何か特別なものがあるわけではないが、季節を楽しみながら散策するにはうってつけだ。今度来るときは日曜日にしよう。

岡山県との県境がある

最初の道路をずーっと進むと岡山県との県境にいたる。 

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岡山県との県境と隣接した地域だ。

兵庫の西新宿は岡山県との県境と接しているのだ。

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県境トレールと書かれた看板

県境には県境トレール(登山道)の看板があるが、僕に目に登山道は見えない。

兵庫県の西新宿の謎

そして当初からの疑問であるなぜ“西”新宿なのかを調べるため、佐用町立図書館へとやってきた。

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佐用町立図書館

理由が見つかるかどうか半信半疑だったが、答えが書かれた資料はあっけないほどすぐに見つかった。

いわく、もともと兵庫県の西新宿は単なる「新宿村」といっていたそうだ。

しかし20キロメートルほど離れた場所にもうひとつ「新宿村」があった。

そのややこしい状況から、人々は西にあるほうを「西新宿村」、東にあるほうを「東新宿村」と呼び分けた。しかし地元の人たちはその後も新宿村といい続けていたそうだが。

 

僕が地図で探しても東新宿を見つけることができなかったのは、現在、東新宿は住所としては兵庫県佐用郡佐用町末廣になっているからだ。

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図書館で調べたもう一つの新宿。「新宿」と看板がある。

2つの新宿は平成の大合併で今は両方とも佐用町だが、それ以前は西新宿は上月町、東新宿は三日月町と分かれていて、少し離れた場所にある。

僕は東京の西新宿のイメージからすぐ東隣を探していた。


西新宿の温度差でととのう

二つの西新宿は雰囲気が全く違っていた。

一方の西新宿だけでは感じることができないが、二つの西新宿に実際に足を運ぶとそれぞれの違いがきわだち、お互いの良さが引き立てあう感じがとても心地よいものだった。

サウナで「ととのう」に近いかもしれない。西新宿の交互浴だ。

参考文献:兵庫県の地名Ⅱ 日本歴史地名体系29 

 

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