ウル使い地主
RPGゲームには魔法使い、シーフ、弓使いなどがあり、中には見たことのないものを武器にして戦う者もいる。それになった気分だ。ウル使いという新しい職業。主人公にはなれないけれど、途中で仲間入りする感じのポジションだ。なかなかに楽しかった。
刃物というものがある。それはハサミだったり、包丁だったりするだろう。我々の生活において刃物は必要不可欠だ。古くは刀なども一般的だった。時代や場所が変われば、使われる刃物も変わるのだ。
アラスカにも、日本ではあまり一般的ではない刃物がある。それは「ウル」というもの。料理に使うもので、日本で言えば「包丁」ということになる。これを使い日本の味を作ってみようと思う。
料理をする時に我々は包丁を使う。包丁がないと大変不便なことになる。切れないのだ。全部千切ることになる。包丁にもいろいろな種類があり、出刃包丁あれば、パン切包丁あり、中華包丁など挙げればきりがない。
誰の家にも上記の写真のような包丁があると思う。包丁と言われて思い浮かべる形はだいたいこういうものだ。切れる部分があり、柄が端についている。これが包丁だ。ただアラスカで使われている伝統的な包丁は違う。
「ウル」と呼ばれるもので、アラスカに住む人々はこれを使って来たのだ。おみやげ屋さんに行くと必ず売られている。現在は普通に使うものではないのだろう。アラスカのホテルの台所に普通の包丁があったから。
私は当然買った。修学旅行で京都に行って木刀を買うのはこのような気分なのだろう。まな板とセットになっている。まな板はくぼみがあり、やはり我々が使っているまな板とは異なる。ただ今はあまり使われていないのだろう。ホテルには普通のまな板があったから。
アラスカでせっかくウルを買ったので、料理をしてみたいと思う。一緒にウルを使ったレシピ本も買ったのでそれを見る。魚をウルでさばいていたり、肉をウルで切っていたり、アラスカらしい料理を作っている。
ただそんなレシピ本は無視して、私の大好きな料理を作ろうと思う。和を感じる一品、そうです、肉じゃがです。日本で生まれた料理だ。ウルはアラスカの包丁だけれど、思い切って和食を作ってしまうのだ。日本の私の家で作るのだから和食がいいなと。
いつもの包丁と違い、真上から力を入れる必要があるので、最初は戸惑ったけれど、案外使える。もちろん問題もあって、真上に柄があるので、末端まで刃が届かない。たぶん慣れていないからだろう。
慣れてくると使い難いこともない。むしろ新鮮で楽しくすらある。切れ味もいい。たぶんこれでアザラシの解体とかもしていたと思うので、切れ味は間違いないのだ。上からダイレクトに力を加えるので、切っているな! という感じはしてくる。
ただなかなかに綺麗に切れた気がする。ウルの才能があるのかもと勘違いしたほどだ。私はウルの妖精なのかもしれない。あとはお鍋に入れて煮込むだけ。ウルで肉じゃがは完成するのだ。
肉じゃがを食べるのは後にして、もう一品作ることにした。魚をさばいて、小麦粉をつけて焼いて、サルサソースを作り、それを上に乗せる。和ではない。ただサルサソースと言っているので、メキシコ料理に近い。アラスカではないのだ、ウルで作るのに。
これがなかなかに難しかった。刃の部分の長さがない。もうちょい、もうちょい、長さが欲しい。背中から背骨に向かい刃を入れるのだけれど、もう少し長さが欲しい。手の位置もいつもの包丁と違うので、刃物初体験みたいな感じだ。
しかし、サルサソースを作るにはウルは素晴らしかった。サルサソースはトマトや玉ねぎ、キュウリをみじん切りにするのだけれど、まな板のくぼみがいい感じで機能して、あまり周りに飛び散らず、理想のみじん切りができた。
ウルの神が舞い降りたかと思った。みじん切りって下手だと周りに飛び散るけれど、それがあまりない。みじん切りの神が舞い降りていたのかもしれない。たぶんウルを使うアラスカの人はみじん切りが好きなんだと思う。
初めて包丁を使った時のような、感動があった。あの頃、上手く使えなかったな、という小一の思い出が蘇るのだ。そして、使って行くうちにアラスカで暮らせるかもとなる。今回はイサキをさばいたけれど、キングサーモンとかをさばきたくなるのだ。
問題があるとすれば、完成したらいつもの食事となんら変わらないことだ。肉じゃがと焼いた魚にサルサソースを乗せて、なのだ。もちろん美味しい。私は自慢ではないけれど、料理が上手いのだ。ウルも日本人の中では使いこなせている方。いま人生ランクがアップした。
RPGゲームには魔法使い、シーフ、弓使いなどがあり、中には見たことのないものを武器にして戦う者もいる。それになった気分だ。ウル使いという新しい職業。主人公にはなれないけれど、途中で仲間入りする感じのポジションだ。なかなかに楽しかった。
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