大きくすれば解決
大は小を兼ねる、と言うので、小さいことが問題なら、大きくすればいいのだ。なんでも大きくすれば解決する。器用になる必要はないのだ、大きくすればいいのだ。問題は大きくすることで、収納にスペースを取ることだ。
米粒に文字を書く文化がある。稲は1粒の籾種から多くの籾を結実させるので、人々は昔からそこに神の存在を感じていた。そんな米粒に、たとえば写経をすることで、さらなるありがたいものになると考えたのかも知れない。
問題は米粒が小さいこと。そこに文字を書くのは至難の業だ。書いてみるとわかるけれど、全然書けないのだ。しかし、米粒に文字を書いてみたい。ということで、大きな米粒を作ることにした。
米粒写経は、小さな米粒に写経することだ。米粒を手に取るとわかるけれど、めちゃくちゃ小さく、そこに文字を書くことは不可能のように思える。手先がよっぽど器用でなければ無理だ。
最初に米粒に文字を書こう、と考えた人はよっぽど器用だったのではないだろうか。私も細めの筆を買ってチャレンジしてみたけれど、なかなか上手く書くことができなかった。かなり根気強くやったとは思う。
「地主」というのは私の苗字だ。米粒に2文字も書くのはかなり大変で、2日かかった。しかし、私が編み出した方法ならば2文字ではない。神の域とも言える文字数を米粒に書くこともできる。その方法を記そうと思う。
まずは米粒を作るところから始まる。田んぼを借りて、田植えをしてという手順はない。あるいはスーパーに行ってお米を買ってというのも違う。1粒だけ米粒を作るのだ。難しくはないけれど、乾燥待ちなどで2日かかる。
材料はスポンジブロックとレジンと紙粘土。道具は必要とはなるが、材料としてはこの3つだ。この3つだけで、一度書いても消してまた書ける米粒が完成する。ちなみにスポンジブロックは発泡スチロールでも代用できる。
もうわかっていると思うけれど、大きな米粒を作っている。小さな米粒に文字を書こうと思うから難しいのだ。大きな米粒なら簡単に文字を書くことができる。ただ本当のお米にこんなにも大きなものはないので、紙粘土などで作っているわけだ。
1日目の作業はここで終わりだ。紙粘土の乾燥を待たなければならない。ここで焦ってはならないのだ。米粒文字は一日にして成らずと覚えていただきたい。米粒に文字を書く練習をするよりは圧倒的に早いと思うけど、米粒を作ってしまう方が。
本当のお米にも精米の時に削るという作業が発生する。日本酒を作る時などは、削るというより、磨くと言った方がいいほど重要な作業だ。大きな米粒作りでもここは重要。粗い紙やすりで始まり、どんどんと細かい紙やすりにして、磨き上げる。
箱にアルミホイルを貼るのはこの後の作業をスムーズにするためだ。レジンを使うのだけれど、UVレジンなので、乾燥には紫外線が必要となる。その際に紫外線を米粒のあらゆる面に当てるべくアルミホイルが必要となるわけだ。
UVレジンは先にも書いたように紫外線で固まるので、急がないと固まっちゃう、があまりないのがいい。もっとも窓から紫外線はやってくるので、一旦仮眠しよう、みたいなゆっくりはできないのだけれど、そこまで焦る必要はない。
途中で一度取り出し、もう一度レジンを塗って2度塗りした。そして、また乾燥。ここで2日目が終わる。大きなことと、UVライトが大きさにあっていないこともあり、乾燥に時間がかかった。乾燥する時間はやることがないので、無水カレーを作ったりしていた。
2日をかけて大きな米粒が完成した。米粒に文字を書く問題点は小さいこと、小さすぎることなので、これで解決したわけだ。だって、大人の頭くらいのサイズがあるのだ。すらすら書ける。大きいから。
比べるものがあると米粒の大きさがバレてしまうので、黒い布を敷いて比べるものがない状態にすれば、米粒の大きさはバレない。これで「米粒に文字が書けるなんて、あの人はすごい」となるのだ。
米粒に文字を書く場合は縦書きだと思うけれど、大きいから横書きでも余裕で大丈夫。なんならスペースが余ったな、とすら思っていた。あと、大きいので普通のカメラでめちゃくちゃ綺麗に撮れちゃうので、なんとなく後からノイズを乗せている。
何度でも文字を書けるのが、この大きな米粒の素晴らしい点だ。もちろん全体を消すこともできるけれど、間違えた文字をピンポイントで消すこともできる。本当の米粒に文字ではできないことだ、たぶん。
難しい文字を書くことも簡単だ。薔薇なんて米粒に書くのは難しいと思うけれど、この米粒なら簡単なのだ。ただ私の学力の問題で「薔薇」という文字をそもそも書けなかった。スマホで検索しながら書いた。敵は米粒のサイズだけではない。学力にもある。
米粒に何文字書くのよ、と自分でも驚くけれど、米粒が大きいから書けている。初めて写経をした気がする。漢字ばかりで難しかった。調べながら書いた。本当の米粒には2文字を書くのも苦労していたのに、この米粒では余裕だ。
2日という時間が私を米粒に文字を書ける人間にしたと考えたい。努力の証なのだ。器用になるのではない、米粒を大きくするという努力。今では大きな米粒を愛おしく感じる。ありがとう、大きな米粒。
大は小を兼ねる、と言うので、小さいことが問題なら、大きくすればいいのだ。なんでも大きくすれば解決する。器用になる必要はないのだ、大きくすればいいのだ。問題は大きくすることで、収納にスペースを取ることだ。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |