さぁ、作ろうじゃないか
干し肉はスーパーでは売ってない。ビーフジャーキーが売ってるだろうって?いや、あれはビーフジャーキーであって干し肉じゃない。
スーパーに行って「干し肉ください」って言ってビーフジャーキーを渡されるだろうか。多分否だ。否だと思いたい。
そういう訳なので、今回は自分で干し肉を作る事にした。単にこういう物を作るのが好きなのだ。
買ってきたのは豚バラの塊と鶏肉のささみ。ガッツリ干し肉を食べたいのでたくさん買ってきた。どうだいいだろう。
作り方は知らないが、多分干物と同じで塩漬けして干せば良いんだと思う。Google辺りで調べても良いのだが、たまにはITの力に頼らずに自力だけで仕上げたい。
ではザザッと作業風景をご覧ください。
ロード・オブ・ザ・ホシニク
10月半ばから作り初めて11月の終わりに完成した。完成まで1ヶ月半掛かっているが、長々書いてもしょうがないので一気にご覧いただこう。
そして1ヶ月後の11月中旬。冷蔵庫から肉を取り出してみた。1ヶ月物の生肉の塩漬けだ。キッチンペーパーの色がすっかり変わっている。
塩漬け肉をそのまま食べてみた
とりあえずそのまま食べてみた。
しょっぱい。
特に豚バラの塩漬けはヤバイ。塩の塊のようだ。しかし、ささみの塩漬けが驚くほど美味かった。
やや塩が強いが、生ハムのようにねっとりとした肉の食感に加え、水分が抜かれた分凝縮された肉のうま味が強い。これならメロンと一緒に食べられる。
ささみは美味いのだが豚バラがしょっぱすぎた。最初からインターネットで作り方を調べればこういうこともなく完璧な物が作れるのかも知れないが、最初から結末がわかってるゲームなんてやっても面白くないのだ。
どうしたもんかと考えるまでもなく、水につけて塩抜きをする事にした。薄く切ってタッパに肉と水を一昼夜。
翌朝、食べてみたら割と問題ない程度に塩が抜けた。いよいよ干し肉にとっての晴れのステージ、「干し」に入る。
いよいよ干しステージだ
そして翌日、「干し」はネクストステージに入る。「燻し」だ。
干し網を週刊誌のページをやぶいて緩く覆った。そして火を着けたチップを最下段に置く。ガッチリした容器で薫製にすると煙とチップの熱で肉に火が通ってしまう。それはちょっと都合が悪いので、わざと隙間を作って簡易的に冷薫状態にした。風が無い日ならこれで十分いぶす事が出来る。
その代わり、半日ずっと横で監視していた。燃えやすい物だらけの状況で薫製を作るのは大変に危険なので真似はしない方が良いと思う。というか真似しないように。
肉に良い香りが付いたらあとはただ干して待つだけだ。
そして2週間後。
そして干し肉は完成した
いぶしてから2週間ほど、あとはただただ乾くのを待っていた。会社から帰ってくるとまず干し肉の様子を見る。天気予報も欠かさずチェックし、雨が降りそうなら家の中に取り込む、そんな日々だ。
見るたびに色が変わり、美味しそうになっていく干し肉の成長には思わず目を細めた。1日ごとに変わるその色、つや、香りに一喜一憂した。
思わぬ雨で濡れてしまった時は深く絶望し、天気予報を呪った。
「曇りって言ったじゃないかよぉぉぉ!!」
と。
そんな干し肉と僕の生活は2週間続き、そしてついに念願の、15年間食べたいと思い続けてきた干し肉が完成したのだ。
次のページで食べますよ。
じゃーん、これが僕の考えた干し肉だ
ついに干し肉が目の前に現れた
肉購入から1ヶ月半の時を経て、ついに干し肉が完成した。食べたいと思い憧れたあの日から15年、作り始めて90日、大変なスローフードだ。ロハス。
単に皿に並べただけなのに胸が高鳴る。まるで(ゲームとかの)王宮のご馳走だ。
波打つ豚バラ肉は水分が抜かれ、すっかり干し肉となった。脂肪と浮き出た塩で全体的に白っぽい。
ささみの横にあるのはスライスせずに干した豚バラ肉の塊だ。脂肪が実に美味そうに白い。
ささみは脂肪がないので肉本来の色を残しつつ、ブルワーカーでトレーニングしてモテモテになったあいつみたいな色になった。なるほど、これならモテるのもうなずける。僕も惚れた。
いつまでも眺めていたいが、そもそも食べるために作ったのだ。では食べてみよう。
まずはそのまま丸かじり。
干し肉は硬かった
食べた。塩抜きする前はしょっぱくてどうしようもなかった肉だが、干した事によってしょっぱい上に硬くなった。大げさでなく下の写真の様な有様だ。
うん、はっきり言ってマズイ
干し肉はただただしょっぱくて硬くてまずかった。豚肉は繊維もあって噛み切れない。ささみも丸かじりしたので野性的な硬さであり、これがブロイラーで出来てるなんて信じられない硬さだった。なにか野生を感じる。
硬さを判りやすくムービーにしてみたのでご覧下さい。釘打てそうだ。
どうだ、この硬さだ。そのまま食べるのはちょいと無理があるんじゃないか。そう考えて、ちょっと加工して食べてみる事にした。
スープでシンプルな美味しさを追求
乾物を美味しく食べるならやはり煮るに限る。中華料理で使う金華ハムはスープを取るために作られるのだ。
やはり4000年の歴史に習ってスープを作るのが道理だろう。
ささみの干し肉は削って食べる事にした。塩加減も悪くないので、削りさえすれば美味しく食べられるはずだ。僕はそもそも厚削りの鰹節をそのまま食べるのが好きなのだ。
コトコト煮込みつつささみを削って最終的に干し肉ディナーが出来上がった。もう干し肉じゃない気もするけどこれも干し肉のカタチの一つだ。
ほーしーにーくーでぃーなーあー
干し肉、ラストステージ
スープを取った豚バラの元干し肉も食べてみた。油がやや強いが、これはこれで美味い。十分食べられる。今回はそのまま食べたが、醤油とみりんで甘辛く味付けしても美味しかったのではないだろうか。
そしてささみの削り節。これが素晴らしい。これだけでワインがグイグイ進むじゃないか。最初からこいつはちょっと違うなって思ってたんだ。
ささみバンザイだ。
豚バラの元干し肉は脂肪が透明になっていた。明かりにかざすと光が透けて大変に美しい。まるで教会のステンドグラスじゃないか。
肉のステンドグラス、冬のオペラクラスとちょっと似ている。
これほど美しい肉を見た事があるだろうか。いや、無い。
そして豚バラ干し肉のスープだ。これが驚いた。あまりに美味かった。塩味は丁度良く、そして白く濁ったスープに内包されたうま味の強烈さには思わず目を閉じた。
はぁ…うまいっ……。
そのまま食べたときは硬いししょっぱいしいまいちだった豚バラ干し肉が、スープにした途端輝きだした。この変貌ぶりはなんなんだろうか。
仕事ではパッとしないSくんが合コンだと場を仕切って張り切るのに似ている。S君の居場所は合コンであり、豚バラ干し肉の居場所はスープの中だった。
こういうのを適材適所って言うんだろう。
素晴らしい、満足だ。
かくして、干し肉を巡る長い旅は終わった。まとめます。
憧れの人に会うってこういう事かなって思った
長い間憧れていた干し肉をやっと自分で作って食べられた。その事については幸せだ。最終的に美味しいスープと肉を食べられたのも幸せだ。やはり肉はロマンでロマンは肉だと思った。
しかし、最初に干し肉を食べたときはちょっとガッカリした。ああ、こんなもんか、と。これってずっと憧れていた芸能人に会ったら、案外普通の人だったりした感覚に似ているのかも知れない。そりゃそうだ、同じ人間だもの。
でも、長く付き合えばその人が成功している理由だって判るだろうし、豚の干し肉から出たスープの様な深い味わいについても理解出来るのだ。知るという事は一朝一夕に出来る事ではない。
なんだかよく判らなくなってきたが、ようは干し肉の美味しい食べ方がよく判らないのでこれからも色々試して食べていこうという事だ。なにせまだ8割がた残っている。