国旗に擬態している!?
魚類、特に海魚のビジュアルバリエーションには驚かされる。
岩や海藻にしか見えない究極のナチュラル系から、アメリカのお菓子かよ?みたいな原色ド派手系までさまざまである。
岩そっくりな地味系の最右翼、オニダルマオコゼ
冗談みたいにカラフルなヤマブキベラ
だが、今回フィーチャーするヒノマルテンスは奇抜さの方向性が一味ちがう。
その名の通り日の丸、日本国旗そのものなのである。それこそ「まさか国旗に擬態しているのでは…?」というレベルで。
ふふふ…。どんな魚か気になるだろう?
こんなに面白い魚もそうそういない。ぜひ記事にして紹介したいと思い、一昨年あたりからしつこく探してきた。そしてついに!今年に入ってこの日の丸魚を捕まえることができたのである。
ヒノマルテンスは暖かい海に分布する魚で、国内では南紀や奄美群島、沖縄などで確認されている。僕は沖縄本島周辺に狙いを定めて探したのだが…これがなかなか大変だった!
沖縄といえば色とりどりの市場へ魚が水揚げされる土地だが…日の丸模様は見当たらない
テンスという魚はたいてい小規模ながらも群れを作るもので、採れるときにはまとまった数が採れる。しかも見た目のインパクトは抜群で、一度見たらそうそう忘れられるものでもない。
ヒノマルテンスに近縁なホシテンス。テンスとは体に点のある魚という意味で、みんな大体似たような体型に斑点模様をもつ。
ならば市場にでも聞き込みをすればすぐ手掛かりが得られると思っていたのだ。結果はどこの市場や漁協でも「いつかどこかで見たことはある」「昔に一度だけセリにかかってたような…」といったパッとしない答えばかり。
漁師さんに訊ねても同じであった。
これはヒノマルテンスの生息環境と大きさに起因する事態だと思われる。
ヒノマルテンスは砂地にしか棲まない体長20センチそこそこの小魚である。沖縄の漁師はそうした砂地で小さな仕掛けを落とすことをしない(水産価値の高い魚があまりいないため)のだ。
沖縄の一本釣り漁は浅場の岩礁帯、深場の砂地、沖合の中層で操業されることが多く、浅場の砂地に暮らす魚(テンスやキスなど)はあまり水揚げされない。
ついに見つけた!!(8年越し)
こうなると、もう自力で潜って探すしかない…とスキューバダイビングのライセンスを取得せんとしていたその時!まさかまさかの「ヒノマルテンスならいる場所知ってるよ」という漁師さんに出会ったのだ!
嬉しい!やった!でもなぜそんな魚の漁場を…?と訊ねると「だって見た目面白いさ。味も悪くないしたまに採るよ」とのこと。
おお~気が合うねえ~。そしておいしいってのはいい情報だねえ~。食べてみるっきゃないねえ~。
いよいよチェックメイト!
エサはサンマの切り身がいいんだそうな
さっそく船に乗せてもらいいざ出港。
サンマの切り身を釣り針につけて海底へ落とすと…
本当に釣れた!すごい魚だ!!
洋上での国旗掲揚~!!
この景色を!拝みたかった!
どうですか!!
見て!このカラーリング!
国旗でしょ!日の丸でしょ!まさにヒノマルテンスでしょ
日の丸でしょうが!!
正直なところ、この配色にどんな意味があるのかはわからない。
白地なのは周囲の砂色に合わせている(テンス類は砂に潜って顔だけ出したりもする)として…この赤丸はなんだ?
個体によっては白や黒、黄色のスポットが浮かび上がるものも。これはこれでカラフルでキュート。
ひょっとすると、大型魚に襲われて群れが散逸する際にそれぞれが明瞭ななターゲットマークを抱えていると目移りしてパニックにでも陥る→被害が最小限で済む…とかだろうか?
テンスの仲間は歯が鋭く、釣り上げると手の指をよく噛んでくる。けっこう痛いので要注意。
うーん、妄想の余地は大きいが実際のところは分からん。一つはっきりしているのは、人間の目から見るとこんなにキュートでポップでチャーミングな装いはないということだ。
近縁なモンヒラベラも釣れた。ぶっちゃけ味はヒノマルテンスとほぼ同じ。
それにしてもなるほど、なるほど。やはり群れる魚なだけあって、釣れ始めるとバタバタと立て続けに釣れる。
日の丸だけの万国旗!日の丸だけの大漁旗!!(意味不明)
だがせっかくの貴重なヒノマルテンス漁場である。あまり釣りすぎていなくなってしまっても大変なので(今後もまた釣りに来たいし)試食分を確保して撤収!
さあ食べるぞ~!
身離れが悪いので蒸して日の丸弁当に
さて、いざ調理試食なのだが…。このヒノマルテンス、どうやって食べるのがベストであろうか。
おいしくいただくのはもちろんだが、せっかくだしこのビジュアルも生かしたメニューにしたい。
案内してくれた猟師さんによると、この魚は非常に身離れが悪いという。その他のテンスも同様だが、普通の魚と同じように加熱すると肉がゴムのように固くなり、骨から外れなくなるのだ。
近縁種であるホシテンスのバター焼き。たしかに身がとてもムチムチしていて、箸ではきれいに骨からむしれない!ヒノマルテンスも同様だという。
しかしあえて一度冷凍し、弱火でじわじわと加熱することでこの「ゴム化」を抑え、食べやすく仕上げることができるという。
うーむ、じわじわと火を通して見た目を保つには…。そして「日の丸」を生かすには…。
よし!蒸してご飯に乗っけて「日の丸弁当」だ!!
一度冷凍したヒノマルテンスを解凍。蒸し器でじっくりと蒸しあげる。味付けは塩と酒。
鱗を落として火を通すと日の丸の赤が褪せてしまうのではと思っていたが、意外ときれいに残ってくれた。
まるで食紅で染めたような鮮やかさだが、ありのままの色である。
どーん!完成!ヒノマルテンスの日の丸弁当!!
そして味もいい!!
完全に名前ありきで決めたメニューではあるが、図らずもヒノマルテンスが白米に合う。
個体によって日の丸の色合いや濃さ、形が違うのもおもしろい
うん!おいしいわこの魚!!味と歯ごたえがしっかりしている。
ムチムチした強い歯応えに加えて、白身魚らしい淡白ながらも奥行きのある旨味がおかずにちょうどいい。
強めに塩を振ったのも功を奏し、梅干しに負けぬ飯盗人となった。
飼ってもかわいい、しかも丈夫!うーん隙のない素晴らしい魚だな(個人の感想です)
うーん。見た目が綺麗でおもしろくて、それでいて味もいいって最高だなヒノマルテンスよ。
こんなに不思議で素敵な魚が、こともあろうに日本の海にいるなんて、とても興味深くて誇り高いことだと思うのだ。
動いてるヒノマルテンスが見たい方は動画もどうぞ
実は東京オリンピックに向けて取材してました
前々から存在は知っていて、どうにか記事にしたい、広く知らしめたいと思っていたこのヒノマルテンス。実を言うと取材を終えたのはこの3月初旬のことでした。
というのも「せっかく国旗そのものなのだから東京五輪開会のタイミングで世に出そう!」と思っていたのです。
が、その後3月末にはご存知の通り新型コロナウィルス禍の影響により延期が決定…。おお!こんなことある!?
でも今の日本が大きな局面、それこそ五輪開催以上の頑張りどころに差し掛かっているのは事実です(他の国もそうだけど)。
というわけで、応援の意味も込めてやはりこのタイミングで本記事を公開することとしました。応援になってない気もするけど。
何はともあれがんばれ日本!
ちなみに沖縄には体の模様が星条旗っぽいからという理由で「アメリカー」と呼ばれている魚(アミメフエダイ)もいる。うーん、でもヒノマルテンスのクオリティには及ばないかな!