特集 2021年7月6日

腕ひねり上げられる夏

夏だ。腕をひねり上げられるところでも見たいものだ。

半沢直樹が大ヒットしたことで私たちがドラマに何を求めていたのかはっきり分かった。

それは悪漢が調子に乗ったところ返り討ちに遭い、手のひらを返して謝ることだ。言い換えると「腕をひねり上げられるところ」と言ってもよい。

悪漢が腕をひねり上げられまくる、そんな私たちの夏が始まる…!! 本日のデイリーポータルZ、こちらです!

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:なぜ炭酸水には水しぶきなのか~かっこよく炭酸水を飲む方法を研究する~

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

悪漢を用意した 

腕をひね上げられる夏にはまず悪漢が必要である。

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以前の記事で悪漢として登場した張江浩司さんにまた来ていただいた

以前の記事で悪漢として腕をひねり上げられていた張江浩司氏を呼んで企画を説明した。何がかはわからないがまんざらでもない様子だった。

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来来来チームというバンドのドラマーでもある張江氏。柄の服は用意されたもの
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腕をひねり上げられるとはどういうことか?

まず一度通常の腕をひねり上げられるところを見てみよう。 

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まじめそうな男に悪漢が近づいて…

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「なに見てんだおぼっちゃん?」

調子に乗っていたところ

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男が本気を出したら 

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「アイテテテテ…勘弁してください、折れる、折れる…!!(泣)」

腕をひねり上げられる 

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「すいません…おれが悪かったんです。会社が倒産して何もうまくいかなくて…」

そして改心して平身低頭するのである。 

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満足した筆者(この後このような反応が繰り返されますが、もう出てきません)
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日常サイズの半沢直樹

ここまでの登場人物全員メガネではあるが、ドラマであった。目の前の人物が調子に乗って痛い目に遭い、手のひらを返したように謝るのを見るのは清々しい。心の洗濯といってもよい。

さて本日は、コース料理でハンバーグばっかり出てきたらいいなと思っている皆様のための記事である。ここから腕をひねり上げられるところばかりを見ていきたい。

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女性相手に調子に乗る

ということでひねり上げられまくるわけであるが、どのような相手がよいのかここで考えてみたい。

先程のケースのように相手が弱そうな男でなく、強そうなプロレスラーであった場合にはここまでの気持ちよさは得られなかったろう。弱いと思ってた人物が強い。だからこそ私たちは痛快なのである。

とするともう少し弱くしてみてはどうだろうか。今度は女性相手に調子に乗ったところである。

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「なんだと? お酌ができねえっていうのかよ? ここは飲み屋だろ、飲み屋!」

飲み屋の店員にケチをつける悪漢だが…

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「アイテテテテ…勘弁してください(泣)折れちゃう(泣)」

すぐに腕をひねり上げられて 

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「すいません、女性蔑視をしてたの…もうやめます」

平謝りすることになる 

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これもまた満足である(前言を撤回してまた出てきた)

これもよかった。女性ヒーローの物語のようだ。やはり相手は弱い方がいい。

次はなんだろうか。モデルである張江氏に何がいいか聞いたところ「テリー伊藤の唐揚げ屋さんはみんななめたいところですよね」という。それだ。もう人でなくてもよいのではないだろうか(早々に脱線するのは私たちの悪いくせである)。

新興の唐揚げチェーンほどなめられやすいものはないだろう。唐揚げをなめてみよう。

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人物以外にひねり上げられるのも可能か?

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新しくできた唐揚げ屋に悪漢が近づく

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「お前はいつから唐揚げの天才なんだ? 演出家だろ、演出の天才だろ?」

テリー伊藤の人形相手にイチャモンをつけている悪漢

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「からっとあげやがって、この野郎!」

唐揚げを買ってまでなめてくる悪漢だが、そのとき唐揚げが食品だと思えぬ力を発揮して…

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「イテテテテテ! ひゃあ…折れてる折れてる(泣)いてえよう…(泣)」

そして唐揚げに腕をひねり上げられる悪漢。

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「なめててすいませんでした…自分の商売がうまくいってないものでつい…」

物であるのに痛快である。なんかできると思ったらまた唐揚げ屋かよ、となめられていそうな唐揚げがこの大きな男をひねり上げたのだ(と書いててなんのことかよくわからなくなってきた)。

これはいける。ということは私たちがなめがちなマイナー自販機とかでもいいのだろうか。

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サンガリア系のジュースが並んだ自動販売機があり、

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あまり聞いたことのないジュースが並んでいる

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「なにがすばらしいお茶だ? 味を語れ味を! 全肯定すんじゃねえよケッ!」

そこに悪漢がイチャモンをつけると…!?

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)挟んでる挟んでる(泣)」

本気を出して突如腕をひねり上げた自販機 

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「ひゃあ…折れてる折れてる(泣)いてえよう…(泣)」

期せずしてローマの休日のライオンの口みたいになってしまった。

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「すいませんでした、おつかれですよね、靴磨かせてください」

これもよい。「やっぱりサンガリアは本気出すと強いんだ!」そんな子供たちの声が聞こえてくるようだ。

悪漢のひねりあげられ力はとどまるところを知らない。もしかしたら半沢の敵たちは忙しい一日を過ごしているのかもしれない。

それはこのような一日である。商店街に写真が飾られている店があれば…

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「なにきれいに写真撮ってもらってるんだよ、おばあちゃんがよ?」

イチャモンをつけ…

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣) 腕がもげる(泣)」

腕をひねり上げられる悪漢。

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「すいません、今度証明写真撮ってください、マイナンバーカード作ります」

お店に平謝りをする。街の写真館が今ヒーローのようである。悪漢が腕をひねり上げられただけで。

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返す刀で不動産屋にも張り付きはじめた悪漢。

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「48000円!? なんでこれで2年住んで更新料払わねえといけねえんだよ!」​​​​

家賃相場にイチャモンをつけ…

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「アイテテテテ…勘弁してください(泣)敷礼22払いますから! 22!(泣)」

家賃相場に腕をひねり上げられる(物理的に)。

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「すいませんでした、うちの田舎と比べてしまって…今度トマト持ってきます」

悪漢の一日は忙しいのである。だがそのおかげで家賃相場の活躍に私たちは胸がすくような思いである。

悪漢が商店街を抜けようにもまた…

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「何が観音様だ? あん?」

神仏をなめるという童話的展開もいとわない悪漢が

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「御霊験古今無双してんじゃねえぞこのやろう!」

 律儀に説明を読み上げたあと…

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)深まっちゃう!信心深まっちゃう(泣)」

腕をきっちりひねり上げられるのである。

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「すいません、観音通り商店街っていう名前自体なめてました、心をいれかえます」

これも一つのスカッとジャパンである。やはり神仏は大切にしないとバチがあたる。昔話などはすべて「腕ひねり上げられ話」の亜種と思ってもよいかもしれない。

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ぶらり街散歩にいいかもしれない

ここまで来て思ったが、腕のひねり上げは商店街の紹介に良いのかもしれない。ぶらり悪漢街散歩、と題して腕をひねり上げられる番組ができるかもしれない。

もちろん、各サービスや名所だけではない、なんとなくなめやすいものも悪漢は大好物である。

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「なんで曲がってんだよ、え? こんな硬そうな見た目しやがってよ」

弾性ポールもなめはじめる悪漢

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「アイテテテテ…骨が、骨が折れる…(泣)安全します、交通安全します(泣)」

そしてポールに謝る悪漢。爽快なうえに悪漢が健気に見えてきた。彼のおかげで私たちは交通に対しての思いを改める。悪い者などいないのである。

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「お前もビヨンビヨンしやがってこの野郎! さっきの仲間かよ!」

さきほどの反省を全く忘れて子供の遊具にイチャモンをつけ… 

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「アイテテテテ…痛い、痛い(泣) もうしません(泣)」

きっちり返り討ちに遭い…

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「すいませんでした…おれの時代にこんな遊具なかったんでつい」

 心を入れ替える悪漢。このペースでいくと一日の半分以上のカロリーは腕ひねり上げられに使うことになる。悪漢も大変である。

たとえば水を飲もうにも、である。

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「ちょろこいことしてんじゃねえぞこのやろう!」

 

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣) 痛いです、痛い(泣)」

蛇口に腕をひねり上げられ…

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「すいません、タダだと思ってつい調子に乗ってしまいました…」

公共のインフラに腕をひねり上げられる悪漢。水道民営化は危ない。スカッとするうえにそんな教訓さえ得られてしまう。

自然に腕をひねり上げられる

ともすれば人工物でなくてももっと自然のものでもいいのかもしれない。

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公園に来るだけで大忙しである。

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「なんででっけえんだよ、おいこら!」

木にもイチャモンをつける悪漢

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)骨が折れる!(泣)」

これはもう宮崎駿が描いた世界ではないか。

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そして木が許すとは限らないのである

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「ひゃあ…折れてる折れてる(泣)いてえよう…(泣)」

人類を代表して骨を折られる悪漢。

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「すいません、今度植えさせてください…」

爽快感とともに頭の中では久石譲が流れる。あなたトトロっていうのね。私たち人類は大地に根を張って暮らしていくべきなのである。スタジオ・ジブリは大きな意味での悪漢と言えるかもしれない。

それでは大自然に続きこちらはどうだろうか。

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季節を感じる七夕飾りである。

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「都合のいい願い事してんじゃねえぞ? 合格したかったら勉強しろ!?」

七夕飾りに何か言うと…

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)」

あんな柔らかいものに腕をひねり上げられ

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「ひゃあ…折れてる折れてる(泣)いてえよう…(泣)」

へし折られ…

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「すみませんでした、願わせてください…」

一筆願わされることになるのである。季節ものに腕をひねり上げられるのはカタルシスと風流の両方を感じられる。松尾芭蕉が東北を旅したのは一説には腕をひねり上げられるためと言われている。

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「咲いてんじゃねえぞこのやろう」

それはアジサイにしても同様である。 

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)」

あなたはアジサイに腕をひねり上げられる悪漢を見たことがあるだろうか? 今日はその記念日である。7月6日。覚えておいてほしい。

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「なに泡立ってんだこの野郎?」

そんな悪漢の一日の終わりは一杯のビールだろうか。

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣) 折れる! 折れる!(泣)」

 晩酌前には必ず腕をひねり上げられ…

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「すいません、こんなうまいもんだとは思わなくて…」

味を語るのである。腕をひねり上げられる孤独のグルメができるのではないか。すべてのメニューに一回ずつ腕をひねり上げられるのだ。

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「アイテテテテ、勘弁してください(泣)」

ここまで悪漢より弱いものに絞っていったが、大きいバスにおいても十分なカタルシスが得られることがわかる。

ロケ地協力:飲み屋 えるえふる(新代田)

ひねり上げられることは対象を生かすことである

一度自分が上にたって見下したあと、腕をひねり上げられ、下から相手を見上げる。ひねり上げられることはそのような「立場の上下動」である。

ひねり上げる唐揚げ、ひねり上げるアジサイ。その結果、無機物であったとしてもまるで生きてるかのように見えてくる。対象を生き生きと生命感あふれるようなものにすること、それこそが悪漢の、悪役の力ではないだろうか。

日常にもドラマを。私たちは誰かを主人公にするために生きている。さあ、今こそひねり上げられよう。アジサイに。アサガオに。そのときあなたはスタジオ・ジブリである。

ライターからのお知らせ

7月22日から芝居をやります。一回思う存分物語というものをやってみたいと思い、できました。書いてから今までずっと自画自賛し続けている自信作です。性的な『青い鳥』みたいな話です。

アーの演劇『一つきりの夜に』
日時:7/22(木)14:00/18:00 23(金)14:00/18:00 24(土)14:00/18:00
料金:前売3000円 当日3500円
会場:SOOO dramatic!(台東区入谷)
出演:濱野ゆき子、稲川悟史(青年団)、小出圭祐(テニスコート)、トチアキタイヨウ、永山由里恵(青年団)、岩本えり
チケット発売日:7/7(水)正午より
HP(https://asunoah.tumblr.com/)やTwitter(@asunoah)などで購入URLを案内します。

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タイトルはここだけ独立した夜の意です。見終わるとこの絵がキます。

 

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