ひな人形を救うプロジェクト
「飾られる機会がなくなった」 「けど捨てることはできない」などの理由で、ひな人形を持て余してる家庭はたくさんある。
そんな「行き場を失ったひな人形を救う」目的の『福よせ雛』というプロジェクトが、2009年に名古屋近郊の主婦9名によって立ち上げられた。
その後「ひな人形をジオラマ風に展示する」イベントに発展。いろんな地域の団体が運営にくわわり、全国20数か所で開催されるようになった。
鳥取県の日野町もそのひとつで、今年から参加している。
電車は一時間に一本だが、高速道路からはアクセスがいい鳥取県の日野町
過疎の悩みを抱えている日野町だが、このプロジェクトを知ったのをきっかけに
「もうこうなったら、増やすの人間じゃなくてもよくないか」と、ひとりがひらめいた。
そこから商工会の町おこし企画として実行委員会が立ち上げられ、町ごと巻き込み
- ひな人形にも住民票を発行しよう
- 約3100人の人口を上回るひな人形を迎え入れよう
という『人口補完計画』が立ち上がった。
元ネタは言うまでもなくエヴァ
ひな人形が置いてある施設は町内に20カ所ある。密集地は徒歩でまわれるが、広範囲なので本気でまわるとしたら車は必須だ。
色が濃い地域には人形が多く住んでる
ゾーンごとの人形数一覧(「部外秘」はネタなので、まったく「秘」でもなんでもない)
この中で一番多いのはこの「金持テラスひの」という施設で、1500体。
金持と書いて「かもち」
中に入るとこうなってる
ズラララ……
キャッキャッ
掃除してる……
子供もいる……
3月末現在だと全国的にはひな祭りが終わってる地域も多いが、この辺りでは4月3日がひな祭り。だからまだやってるのか! と解釈してたが、どうやらそういう訳でもない。ゴールデンウィーク明けまでやるらしい。
賑やかし担当の方にインタビュー
ここで「金持テラスひの」で運営に関わってる実繁(さねしげ)さんにお話を伺ってみよう。
よろしくお願いします
実繁さんは米子市役所やガイナックスでの勤務を経て、今は日野町の賑やかし担当としてプロジェクトに関わっている。
実は当サイトが参加した過去のイベントや企画でちょこちょこお世話になってる方でもあるのだ。(便所サンダルイベントの記事、フェティッシュ大会、米子映画事変などなど)
なんで日野町でこんな企画をやることになったんですか?
『福よせ雛』自体は主に東海で開催されてるイベントなんだけど、こっちの言い出しっぺの人がたまたまそれをテレビで見て「これはぜひ日野町でもやりたい!」って、いきなり大元の主催者の人に連絡を取ったのが始まりです。
ここ以外だと愛知県が多くて、セントレアなんかでもやってるんですね。フランスでも!?
フランスナンテール市のイベント案内をする、日野町のひな人形
こっちは名古屋の中村公園
よその会場は、例えば「オリンピック」ってテーマを決めたらそれに合わせた展示をしてるんだけど
今年は第1回目でやり方も分かんない状況なんで、「数で勝負」ということになりました。
他のところと比べて、かなり大量の人形が来てるということですか。この写真を見てると、どうしても『ガラスの仮面』の美内すずえ先生が描かれた『妖鬼妃伝』っていうホラーマンガを思い出します。デパートの地下で大量のひな人形が夜になると動き出すんですよ……。
設営時に撮られた写真(消灯後)を見せてもらった。『妖鬼妃伝』の実写化と言われたら信じる……
これも設営時。人形の種類ごとに仕分けをした
じゃあこの日野町のイベントは、ほかの団体がやってるのとは「数が多い」って特徴があるんですね。
ほかに違うところと言えば、「おひなさま自体に住民票を出す」ってところです。
住民票! というと、この人形が個人扱いってことですか?
そう。だから番号が振ってあります。それでおひなさま専用の住民台帳を作って、
ひとりずつ番号札が付いてる
今のところはね。けど、第一号の住民票を発行した人形は元の持ち主が飯嶋さんって人だったんで、「飯嶋雛子」って名前が付けられました。
ええー、雛子さん(笑)! 後で会わせてくださいよ。
飯嶋雛子さんね、今ここに居ないのよ。多分実行委員会の委員長(※この日は不在)か誰かが保管してるんじゃないかなぁ。
飾られてるひな人形をよく見ると、確かに「移住・定住申込 特別受付」っぽい表記のカウンターに殺到している。
受付に押し寄せる人形たち
90分待ち
こっちは移住者交流会の受付
はっはっはっ
町役場へ行こう
住民台帳の話がでたところで「日野町役場」にお邪魔させてもらおう。ここには350体いる。
町役場に来た
わりとくつろぎモード
おひなさま住民課
こっちも殺到してる
並んでる。何時間待ちなんだ……
働いてる人形もいる(その後ろにほんとに働いてる人もいる)
なんとここで、町長室にも入れてもらえることになった。いいんですか! じゃ、ここは遠慮なく……
お邪魔しまーす
町長は不在だが……
代理がいた
持ち出し禁止書類
決済待ちの行列があんなところ(歴代町長写真の下)まで……!
テーブルに置かれてる
なんでこれだけテーブルの上に? と思ったら、このセットは3000体以上ある中でも一番の高級品で、会議中だろうとずっとこの状態のまま。
最初のころは置かれっ放しなのが気になったが、今ではなんの違和感も感じなくなったらしい。
こういうのって慣れるものなのか。
会議の中心にいつもひな人形がいる状態に慣れる、ということ自体が興味深い
ついでにこのとき、実繁さんと職員の方が
「雛子さん、今どこにいるか分かる?」
「さあ……?」
と話しており、そのナチュラルさ加減にも驚いた。誰に言っても「雛子さん」で通じるのか。
ひな人形が多く住んでるゾーンへ
町の様子も少し見てみよう。この辺りは人形が多く住んでるゾーンだ。
日野町根雨の町
この通りには、郵便局・商店・銀行などがあり、建物の外からひな人形を眺めることができる。
郵便局
「こばた」「贈物にたばこ」「煙草小賈所」の表記も昔のまま
おもちゃとのコラボも
おもちゃ屋の販促をする人形たち。人形自体が売られてる訳ではない
ちょっと移動して最寄りの「根雨駅」へ。ここにいる人形は少なめだが、持ってる資料が作り込まれてた。
券売機の横に待機してるひな人形たち
ふふふ……
ふふ……
「天と地の……」 へぇ……
見ごたえある展示はどれだ
もう一度「金持テラスひの」に戻り、さっき紹介した「住民票発行」以外のテーマで飾られてる人形についても聞いてみよう。
これはおひなさまが引っ越してきて、生活に必要な家電や家具を買いに来てますよ、ということです。
引っ越してきたらまず電気量販店へ
本当にこの価格で売られている訳ではない
それで「オノデン」のパロディって感じのものなんですね。というか「オノデン」って鳥取県だと多分ほぼ通じてないですよね。
そう! 通じてない。あとこの近くに「鵜の池」ってあるから「UNOIKEYA」で「IKEA」っぽくしたんだけど、これも誰にもバレてない。
もしかしてこの「オノデン」ネタを指摘されたの、これが初めてなんてことは……
「UNOIKEYA」では家具を売ってる
人間が使う実用品として、もしこの価格でこのデザインのものが売られてたら安すぎる
町内に何カ所か展示されてる場所がありますけど、ここ(金持テラスひの)が一番見ごたえあるんですか? 役場のつぎに多いのがJAさんで、200体もいるんですね。
JAさんは人形もだけど、牛車の牛だけを集めてます。
農協の様子
農協みたいな感じに、設置する施設の事業にちなんでるのって、ほかにもあるんですか?
うーん、あとはお茶屋さんが茶道具を持って帰られたぐらいかな。
お茶屋さんの様子
作り込みから感じるオタク気質
販売されている特産品の販促をひな人形がやっていたりもする。
使われている小物は、ガチャガチャや食玩などの既製品も多いが、中には手作りされたものもある。
椎茸の販促の場合は、
原木椎茸を採取していたり
焼いた椎茸にかける醤油を持ってる
もしかして……この椎茸や醤油って、実繁さんが作られたんですか?
かなり作り慣れてる感じがありますよね。ということは、元々プラモとかそういうのやられるってことですか?
やっぱり! これはオタク気質がある人の作り込み方ですよね。
豆腐の販促
趣味として、ジオラマ(の模型作り)とかにも手を出されてたりするんですか?
(ジオラマ界には)すごい人がいっぱい居て、興味はあるけどあそこまでちゃんとしたものは作れないから、手を出さないようにしてます。
ああー。あれも沼なんでしょうね……。やり出したら際限なくお金がかかりそう。手を出したら取り留めがなくなるから、怖くてできないってことですよね。
そうそう。そんなこと始めたらもう大変なことになるんで。
いつの間にか「趣味としてやり始めると、やり込み過ぎてきっと際限なくなる」という話になり、つい共感していた。
町おこしに乗っかってライトに関わるぐらいなら、うっかりハマり過ぎることもなく、程よく楽しめるってことなんだろう。(いや、これでもそんなにライトではないが……。)
うっわ、これなんてデジカメのモニタ越しに……
鳥が!!!
ここまで大量に展示する企画は春だけだが、ちょっとしたジオラマとしては年間通して展示される。
昨年秋以降は、季節の行事を表現する小物としても使われている。
ハロウィン
去年のクリスマスのときはこんな感じ。「オーナメントを盗もうとするサンタ」にしたつもりが、「飾り付けをするサンタ」だと勘違いされてしまったらしい。
「どっちに見えるかで、心の綺麗さを測る心理テスト」みたいなことに
「勘違いされて悔しかったので凶悪に見える写真を撮った」というのがこちら
こんな風に「1月はおせち、2月はバレンタイン」とテーマを決めて、ひな祭りシーズン以外にも月替わりのコーナーが小さく作られているのだが、3月はちょっと問題が生じた。
だいたいここに月替わりで出すんですけど、3月はひな祭りがメインなんで、ネタがなかったんですよ。
3月の季節の行事はひな祭りだから、逆にひな人形で表現しづらい……ってことですか。そんなバカな! だったら、3月はひな祭りがダメなら卒業式とかやればよくないですか?
着せ替えに関しては、ひな人形は着物が身体に装着してるような作りになってるので、服を変えるのは無理がある。
そのままの服装でどこまで表現できるか、というところで技量が問われるのだ。
撮影のコツを掴むと楽しくなる
撮影するときの角度やカメラの置き方によって、人形たちの写り方もかなり違ってくる。
デジカメよりもスマホのほうが、狭い隙間に挿し込みやすく、レンズの位置も低くなる。
人形と同じサイズの人間になったつもりのレンズの位置にを調整すれば、同じ空間にいるようなリアリティが増す
最初は何気なく撮っていたが、だんだん「もっと臨場感を! リアリティを!」と、クオリティへの欲が大きくなってくる。
お内裏さまとおひなさまよりも、おじさんのほうが表情豊かなので撮ってて楽しい。
呆け気味。飲みすぎなのか
表情豊かな人形を集めてコラボさせてみたくなってきた。
施設内にあるものを使ってもいいと言われたので、組み合わせてみたらこんなシーンができた!
オッサンたちが布団をゴロンゴロンと転げまわってたところ、冷めた目で「いい加減にしてくださいよ」と言われてるシーン
この人形たちは、腕の関節は動くけど足はこの格好以外にならないので、扱いが難しい。けどそれを含めて、どう撮影するか工夫する楽しみも生まれるのだろう。
あとは、表情はそんなに豊かじゃないのに個性強めの人形がたまにいるのも面白い。「見ていてどうしても気になった顔」をいくつか撮った。
他の人形と比べて歯がしっかり描かれすぎてて、愛嬌がある。いい人だけどうっかりしてそう
なにかを見て衝撃を受けた瞬間っぽい。頬がやわらかそう。これも歯がしっかり描かれてる
くっきり二重でアイラインが濃い。口元がぷっくりしている
「フォトコンテストをやったら面白そう」と実繁さんは話していたが、確かにアイデア次第で可能性は広がりそうだ。
ひな人形たちの移住が完了した来年以降は、どんな展開になるんだろう。楽しみにしておこう。
実家から1時間ちょっとで行ける距離なのに、今までこの辺りにはまったく行ったことがなかった。日野町はラーメンが美味しい食堂が多く、あとは金運アップの「金持神社」というのもあると聞いたので、つぎの機会にはどちらも行かなければ……! またそのうちここにも様子を見に行こう。
作り中の来月用のやつ
【伯耆の国・出雲街道根雨宿 福よせ雛】
開催期間:ゴールデンウィーク明けまで(4月第1週目までの予定だったが延期が決定)
住所:鳥取県日野郡日野町根雨170−1
電話番号:0859-70-1730
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