技術力の低い人たちが国技館に
というわけで、ロボコンの全国大会にお邪魔した。NHKの主催するロボコンは「高専ロボコン」「NHK学生ロボコン」の2種類があるのだが、今回は高専のほう。各地区大会を勝ち抜いた選りすぐりの25チームが、ここで王座を競う。
いっぽうでそれを見に来たメンバーは、ヘボコン界では選りすぐりのこの4人である。
世の中のたいていの人は、「(ロボットの)経験があって、技術もある人」あるいは「経験がなくて、技術もない人」のどちらかである。前者がロボコンを見たとき、同業者視点での楽しみ方になるだろう。後者の場合は技術のむずかしさが分からず「ロボットだからそのくらいできるでしょ」とか思ってしまうかもしれない。
いっぽうで我々は、希少な「経験だけあって、技術がない人」である。いちど挑戦をしたことがあるだけに、その技術がどんなに自分から遠いところにあるか知っている。身の程をわきまえ、技術に対して必要以上の畏怖の念を持っている。
我々にとっては、どんなロボットも、魔法に見える。世界でもっとも、ロボットをファンタジーとして楽しめる4人が集った。
競技はボトルフリップ
とはいえ、今年の競技に限っては、誰にとっても魔法と映ったかもしれない。
投げ上げたペットボトルが、スタッ!とテーブルの上に立つ。すごいとかやばいとかを超えて、「意味が分からない」で4人の感想が一致した。
フィールドにはいくつかのテーブルがあり、そこにボトルをたくさん立てたほうが勝ち。ひとつだけ2段重ねのテーブルがあり、上段にボトルを立てると一気に5点ゲットだ。
ボトルが立つだけでもすごいのに、「たくさんのボトルをどんどん立てる」「すげえ高いところにも立てる」を前提としたルール設計なのである。
なお、ヘボコンにおいては「前進以外の動きはどうせできないだろう」という前提でロボット相撲を採用している。(とりあえず前進できれば競技になる)
※今回はヘボコン代表として来ているので、レポートの間にこうやってちょっとずつヘボコン情報を挟んでいきます。ご了承ください。
立て方いろいろ
ひと口にペットボトルを立てるといっても、いろいろな方法がある。
一番オーソドックスなのがこれである。投げてからは物理法則のみで落下するので、コントロールできない。でも立つから魔法だ。さらに…
ペットボトルを縦に回転させてから立てる。大会テーマの「ボトルフリップ」としてはこれが最も正当なのだろうけど、ストレートに投げるの以上にコントロールが難しそうだ。
しかし、だ。もっと高みもある。
これはもうコントロールが難しいとかいうレベルではなくて、ほぼ不可能である。それでも挑む。でもやるんだよ枠、ロマン枠のロボットであった。
逆に堅実な方に振ると、ルール研究しだいではこういうやり方もできる。
この大会ではルール上、
・投げる際には「ペットボトルがロボットとテーブルの両方ともに接触していない状態」が必要
・ロボット本体はテーブルの上に侵入してはいけない
という制限がある。
直接置くことはできないが上から落とすことは可能。かつ、たくさんのボトルをまとめて掴むことで、ロボットのアームをテーブル上空に侵入させないまま、うまくボトルを落とす作戦だ。しかも大量に。
ルールの裏をかいたやり方ではあるが、一気に大量得点を取れる仕組みでもあり、めちゃくちゃクレバーだ。
なお、同行のヘボコニスト3人にも自分ならどうやってペットボトルを立てるか聞いてみた。
・立てるのは無理なので、ボトルに紙吹雪を詰め、飛ばすとそれが散って賞を取った気分だけ味わう(こやしゅん)
・回転する台の周りに釣り竿でボトルをぶら下げ、遠心力で発射する。発射の時は釣り竿から手で外す(アニポールきょうこ)
・黙って謎の図を渡す(モッサリオ)
誰一人立てられそうにない。安定のヘボコン感であった。
自動ロボと手動ロボ
さらにもうひとつ、今回の競技では、各チーム2体ずつのロボットが登場する。人がリモコンで操縦する手動ロボと、自動制御の自動ロボだ。
前者は動ける範囲が限られているため、得点の高い2段テーブル付近には、自動ロボが行く必要がある。
そこでですよ、みなさん!ロボットが2台といえば、その醍醐味が「合体」であることには異論はないだろう。
その期待を裏切らず、当日も合体するロボが多くみられた。
これ、カッコイイだけでなく、作戦上も重要な意味がある。手動ロボットは限られた範囲でしか移動できないのだが、床にさえ触れなければその範囲を出ることができる。そこで、自動ロボが持ち上げる=合体、というわけだ。
また、2体とも高さ制限があるのだが、合体すると2倍の高さになれるので、高い位置にボトルを投げやすくなる効果もある。
しかしながらこの「床に触れなければOK」ルール、合体とはまた違った方法で解釈したチームもあった。
今回、ペットボトルは「競技用品」としての扱いであるため、ロボットの一部ではない。そのペットボトルに乗ることで「床に触れていない」として、手動ロボットが自動エリアに侵入した。
もはやそれは屁理屈ではと思うような作戦だが、しっかり「ルールの裏をかいている」ところにかっこよさを感じる。
なお、ヘボコンはそもそもルールがザルなので、こうやって緻密に裏をかくのは不可能である(大抵のことが「まあいいか」で済むため)
試合のようす
そんなロボットたちであるが、みんな個性的なロボットでよかったね、では終わらない。ここで繰り広げられるのはトーナメント戦なのである。
4時間ほどにわたる激戦のうち、印象的だった試合をいくつかご紹介したい。
1回戦:呉高専 vs 都城高専
両者、ペットボトルを投げる仕組みがトリッキーだったこの対決。
結局この日、トランポリンからペットボトルを立てることはできなかったのだが、
外れて頭抱えるものの、直後に毎回「もう1回!」「今のOK!」みたいなサインを出してて、いいチームぶりがうかがえる。
そして相手は呉高専。
ロマン枠 vs 堅実枠、どう考えても後者の勝利かと思われたが、このあと大量のボトルを抱えた呉のロボットは、テーブル上まで持ち上げる途中で動作停止。自動ロボのポイントは両者ゼロとなった。
そうなると勝負は手動ロボ次第。都城はトランポリンの前に手動ロボ単体で手堅く3つのペットボトルを立てていた。
いっぽう呉は試合開始直後に自動ロボと合体したため、手動ロボ単体でのポイントはなし!結果、都城の勝利となった。
ロマン枠と堅実枠の戦いで、ロマン枠が手堅く勝つ、という逆転現象。面白い戦いだった。
1回戦:和歌山高専 vs 国際高専
これだけ一気に出るともうボトルフリップどころではない。どっちかというとミサイルランチャーみたいな感じである。
対抗する和歌山高専はメイド。
「合体、メイドになる」というフレーズを今後の人生で使うことが二度とあるだろうか。とにかくこのロボは、合体してメイドになるのだ。
合体、メイド、変形、と数々のロマンが詰まったロボットだった。
残念ながらこの試合でメイドの打ち上げたボトルは立つことがなかったが、ヤマアラシの打ち上げたボトルとメイドが下段に置いたボトルの数がかなり接戦。ギリギリで和歌山高専が勝利した。とにかく派手な試合だった。
準決勝:函館高専 vs 熊本高専(八代キャンパス)
何をおいても圧倒的だったのが八代である。
その恐ろしさは下のGIFを見てもらえばわかる。
フィールドにはテーブルがたくさんあるが、この上段テーブルのみボトルを立てると5点が入るのだ(他は1点)。
2体合体で高さを稼ぎ、その上段テーブルに乗るだけの数のペットボトルを一気に発射して、一発ですべて乗せる。ちょっともう対抗しようのない、えぐいロボットである。
この八代、1回戦では相手ロボットが動かず勝利、そして2回戦、3回戦でも圧倒的な獲得点数で当然のように勝ち進む。まさに負け知らずだった。
しかし、準決勝で風向きが変わる。なんと今年の高専ロボコン、途中で競技のルールが変わるのだ。これまでポイント制だったのが、レースになる。1本ずつでもいいので全テーブルに先にペットボトルを立てたほうが、勝利。
最終的に、八代は今までスイスイと乗せてきた上段テーブルにボトルが立てられず時間切れ。函館もいくつかのテーブルをのこしたため、レースとしては引き分け。結局これまで通り得点制での判定となり、函館の勝利となった。
最終的に得点勝負になったということは、八代がレースに挑まず、今までどおりの作戦で戦っていれば勝てたのだ。でもここでそういう賭けに出ず、正々堂々とレースに挑んだのがかっこよかった。……というのは同行のアニポールきょうこさんの談である。ちなみにこの後、八代は本大会のグランプリである「ロボコン大賞」を受賞した。
決勝:函館高専 vs 一関高専
そして決勝は八代を破った函館高専と、一関高専。
この一関がすごかった。
すごいスピード、そして精度!
正直これまでの試合では一関にあんまり注目していなかったのだ。一つずつ確実にボトルを立てていくタイプであり、得点制のうちは、八代みたいに一気に大量得点するタイプほど目立たなかったためだ。
ただし後半のレースになってその実力が実感できるようになった。スピードと正確さを兼ね備えた、まさに実力派だったのだ。
都城高専インタビュー
大会終了後に少しだけ出場チームにインタビューができる時間があった。我らヘボコンチームが最も話を聞くべき相手は、ロマン枠、トランポリンロボットの都城高専だろう。
――どうやってトランポリンのアイデアを思いついたのですか?
『プロレス技みたいに跳ね返すような仕組みができないかと思いまして。跳ね返すといえばトランポリンかなと。』
――ボトルを立てるのがかなり難しそうですが
『うちは代々そういう面白いことをやっていこうという高専なので。ほかにも3つくらいアイデアを試作して、一番楽しかったものに決めました。』
仮にも勝負の場なのに、「一番楽しかったものに決めました」。最高である。それで全国大会まで進出しているのも素敵だ。
――トランポリンの素材は?
『伸縮する布を2枚使っています。最初は1枚でいろんな布を試して、高くはねかえる布と、角度をうまく調整してくれる布が見つかって。2枚重ねてみたら両方の長所が生きたトランポリンができました。』
――ボトルフリップの成功率は?
『学校で試したときは3試合中2試合は成功していました。会場では空調の影響があって難しかったです。』
――みなさんボトルの中身を工夫していたようです。都城さんは消臭ビーズでしょうか?
『似たようなものですが、市販品は粒が大きくて衝撃で崩れてくるので、素材である吸水ポリマーを買って小さめに膨らませました。地区大会では雑菌が繁殖してぬめりが出てきて、重心の動きやすさが変わってくるというのが問題になって。これも試行錯誤して、最終的に潤滑剤を混ぜることで解決しました。』
――そういう試行錯誤が、布にもあり、ボトルの中身にもあり、他のいろんなところに無数にあると
『はい。それぞれの答えもいろいろ試す中で偶然見つかったことが多くて。偶然ではありますけど、試行錯誤の中での偶然は実力と言えるのではないかなと思います。』
「試行錯誤の中での偶然は実力である」(名言)。
ボトルフリップのロボットなんて、我々ヘボコンチームから見るとずいぶん高度なことをやっているように見える。しかしその実力を担保しているのは試行錯誤と、そこから偶然見つかる発見なのである。物理法則と電子工学を計算でビビビビってやって、チーン!って最適解を割り出しているわけではない。いっぱい試して精度を上げて、泥臭くやっているのだ。
ロボットは魔法じゃなかったのだ。ベースの技術の差こそあれ、基本的には我々と同じである。ただ、我々にはちょっと技術力と根気と集中力が足りないだけだ。(それ以外の何があるのかは聞かないでほしい)
その後、Twitterにトランポリン成功の様子がアップされていた。前言撤回。やっぱり魔法だ。
チーム戦にあこがれた
「ヘボコン的な視点からロボコンを分析するぞ!」と意気込んでいた我々だったが、結局、思いっきり普通に楽しんでしまった。
しかしながら僕らが最もあこがれたのは、チーム感である。うまくいったときのガッツポーズ、勝ったときのハイタッチ、ボトルが空振りしても「イイヨイイヨ!」って感じで両手で大きく丸を作る都城のメンバー、そしてスタンバイ時だけ登場するピットクルーとの信頼関係。
一夜限りのイベントであるヘボコンでは出てこない、ロボコンに半年一緒に取り組んだ仲間ならではの関係がそこにあった。
客席でそんな姿を見ながら、我々が話しあっていたのはこんなことである。
「次回は運営側で人を用意して、出場者が課金するとチームメイトを買えるようにします」
「無断でチームメイト連れ込んだら罰金で」
ヘボコンは今まで「技術力の低い人限定ロボコン」を名乗っていたが、「志の低い人限定ロボコン」を名乗った方がしっくりくる気がしてきた。