特集 2018年12月2日

自分の名前の町へ行く(デジタルリマスター版)

大樹が山ほど登場しますよ

「自分の名字と名前どっちが好き?」なんて聞かれた経験はないのだけど(「お父さんとお母さんどっちが好き?」あるいは「私と仕事どっちが大事なの!」に匹敵する難問だ)、勝手に決着を付けるとしたら、より愛着があるのは下の名前のほうだ。

自己紹介するたびに「ダイジュって読むんだ!」なんてちょっとした驚きで迎えられるのは下の名前だし、同じ名前が珍しいのも名前のほうだ。

そんな僕の名前「大樹」を、町を挙げて歓迎してくれる場所があると聞いた。そんなの歓迎して欲しいに決まってるじゃないか!取材にかこつけて、歓迎されに行ってきた。

2008年8月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。(動画インタビュー)

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ここが大樹町です

大樹さんいらっしゃい

大樹を歓迎する取り組み、その名も「大樹さんいらっしゃい」は、北海道の大樹町が行っている。「大樹」の名前を持つ人が大樹町役場を訪ねると、歓迎のしるしに町長との面会のあと、町長のいすに座らせてもらえるそうだ。大樹町自体は「タイキ」と読むのだけれど、大樹さんの読み方はダイジュであろうと、ダイキであろうと、こだわらない。

名前だけで歓迎されるなんて、どんな気持ちだろうか。大樹町のサイトを見てみると、大きないすに座って嬉しそうにしている子供の姿が見える。きっと彼の名前は大樹くんなのだろう。その名前のおかげでこんなに歓迎されていのだ。そして、僕も大樹くんだ。僕も!僕も歓迎されたい!

 

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帯広から俺行き

 

一路北海道へ

ということで、歓迎してもらいたい一心で北海道までやってきた。僕が大樹の波動を感じ始めたのは、大樹町行きのバスに乗り換えるため、帯広駅にやってきたときだ。大樹の聖地までもう少し。北海道の寒さのせいもあり、嫌でも気が引き締まる。

そして大樹は、突然現れた。目に飛び込んできたのは、バス停の行き先表示に書かれた「大樹方面」の文字。それだけではない。窓口で乗車券を買ったら「大樹ゆき」。料金表にも「大樹」。それらを写真に収めながら、もちろん心の中ではひとつひとつに「はい!はい!」と返事をすることも忘れない。

やがて大樹と書いたバスがやってきて、僕は乗り込む。これから目の前に現れるであろう楽園の予感にゾクゾクしながら。

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バスも俺経由

バスに揺られている間も、「大樹」の文字はあちこちに見られた。最初は道路の行き先表示に「大樹」があるだけだったが、次第に「大樹 ○○km」と距離の表示が加わるようになり、そのうちバス停にも大樹の名が入るようになる。土地の大樹濃度がどんどん上がっていく。こんなにも僕のことを考えてくれるなんて。そんな感動は勘違いだ、ただの地名だから、と頭ではわかっていつつも、気持ちは理性を置いて駆け出してしまう。

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車窓から。あと18キロで俺


    

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次は俺北1線

そうしてバスに揺られること1時間半ちょっと。バスは目的地の大樹本町に着いた。大樹の本拠地に、なんてふさわしい名前のバス停だろう。

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いよいよここが大樹の地だ

バスを降りて、まず目にしたもの。それは…

 

あふれる大樹。ここはまさしくエル・ド・ラドだ!!

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俺視点。「大樹」の文字が神々しく輝いて見える

 

写真左、大樹郵便局を見つけて思わず躍り出る

大樹町の交通安全旗に思わず飛びつく

大樹町の宣言に思わず下からのぞき込む

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夢中だった

自分の名前がいろんなところに書いてあるなんてきっと愉快だろうな。東京を出発する時からそう思ってはいたのだが、実際にそんな状況になってみるとこれがもう、予想以上の高揚感だ。神社も焼き肉屋も、郵便局も学校も、全部、俺。かといって「全部俺のもの!」といった独占欲からくる楽しさではない。それよりも、黄金の国、桃源郷、ユートピア、人類がいろんな名前で呼んできた楽園のひとつに、ついにたどり着いたという感じだ。そして今こうやって見聞録を書いていて、気分はさながらマルコ・ポーロだ。今でもあの日のことを思い出すと、ちょっと遠い目をしてしまう。

 

そろそろいらっしゃろう

あまりのことにすっかり舞い上がってしまって、着いただけですっかり大樹町を満喫してしまった感がある。しかし、今回の本題は大樹町役場での「大樹さんいらっしゃい」だ。深呼吸で気持ちを落ち着けてから、役場へ向かう。 

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総務企画課企画グループの西尾さん
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松本零士さんデザインの特別住民記念カード
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冊子「大樹さんエピソード集」

 

大樹さんの始まり

町役場を訪ねると、まず出迎えてくれたのは、 大樹町役場総務企画課企画グループの西尾さん。

軽い挨拶のあとミーティングスペースに通され、そこでプチインタビューを受ける。内容は「どうやって大樹町を知ったか」「大樹町にはいつまで滞在するのか」「大樹町の印象はどうですか」など。最初は西尾さんの質問に答えていたのだが、どうにもテンションが上がっている僕は、途中から質問攻めに入ってしまった。

西尾さんのお話によると、「大樹さんいらっしゃい」が始まったのは平成10年。開町70周年を迎えた大樹町が、なにかイベントをやろうということになった。そこで、当時「大樹」の名前が新生児名前ランキングの常連だったこともあり、大樹さんを集めてみてはどうか、ということになったのだそうだ。

最初は全国30紙の新聞に呼びかけ、47都道府県から2000人もの応募があったという。当時は松本零士さんデザインの特別住民票も発行し、また大樹町にある温泉の入泉券を配布するなどして、町の知名度向上につなげていたそうだ。

 

それぞれの「大樹」

一通りお話を聞いた後、一冊の冊子をいただいた。「大樹さんエピソード集」というこの冊子、当初集まった2000人の大樹さんたちの手紙を1冊にまとめたものだ。ページをめくると、自分と同名の土地に出会った驚きと喜び、名前に対する愛着や、名前に込めた思いなど、「大樹」の2文字に対する様々な思いが140ページほどの冊子の中にびっしりと綴られている。

ひとたび本を開くと、全国に散らばっている同名の人たちに、思いを馳せずにはいられない。細かい読み方の差はあれど、彼らはみんな僕と同じ漢字の名前を持って、同じように呼ばれて育ったのだ。僕と同じように、小学校では難しい樹の字を覚えるまで「大じゅ」「大き」で通していただろう。初対面のひとに名前を読まれるときいつも半疑問系なのも同じだろうし、樹の字の真ん中の複雑な部分をグニャグニャっと一筆書きでうまく書く方法も知っているはずだ。

そんな共通点を持ちながらも、大勢の大樹さんはみんな違った土地、環境で、ちがう「大樹」として育った。それが、どうにも感慨深いことのように思えてくる。会ったこともない人たちだけれども、他人事とも思えない。ちょっと大げさかもしれないけれども、まるで生き別れた兄弟が見つかったみたいな、そんな変な気分になってくる。

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大樹さんから実際に届いた手紙

 

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これが当時の新生児の名前ランキング

 

町長とご対面

そんなふうに僕が感慨に浸っていると、いよいよ次は町長室に案内されることとなった。町長とのご対面だ。

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町長の伏見さん。残念ながら大樹さんではなかった
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緊張。


町長は気さくな方で、大樹町のことや大樹さんのことから、北海道の冬の話まで話題は広く及んだ。それでもやっぱり気になるのは大樹さんのこと。ここでは、全国の大樹さんとの交流のエピソードのうち興味深かったものをいくつかご紹介したい。

 ・甲子園出場した智弁和歌山高校の選手にも大樹さんがおり、電報を送って応援したことがある。お礼にボールをもらった。

・別の大樹さんは、自分と同じ名前の町があることを知り、わざわざ希望転勤して大樹町に引っ越してきた。

・仙台から「杜の大樹」という日本酒を持って訪ねてきてくれた大樹さんもいた。町長はいたくそれを喜んで、販売店に直接電話して一気に5本も取り寄せた。

他にもスポーツ選手や政治家の大樹さんとも交流があるのだという。

電話やメールで連絡してくれたり、直接大樹町を訪れてくれる大樹さんは、毎年5~10人程度。いまも大樹さんのネットワークはすこしづつではあるが広がりつつある。あの冊子を見て僕が感じた、まるで生き別れた兄弟みたいだ、というあの感覚。そんな感覚が、こうやって全国から大樹さん達を呼び寄せ、何ともいえない不思議な縁を広げ続けている。


今年は大樹さん10周年

2008年、大樹町は開町80周年を迎える。開町70周年記念ではじまった「大樹さんいらっしゃい」だから、こちらもちょうど10周年を迎えるわけだ。なにか記念行事ができたら、と盛んにおっしゃっていた町長。その際にはぜひまた僕も参加できたらと思う。名前が同じという不思議な縁でつながってしまった大樹町のことは、もはや他人事とは思えないからだ。そしてこれを読んでいる人の中にも、もし大樹さんがいたらぜひ「大樹さんいらっしゃい」に参加してみてください。ぜひこの感覚を共有しましょう。現地に行けない人はメールでも手紙でも。でも実際に行くと最高に興奮しますよ。
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そして念願の町長のイス。同行の火曜ライター大北君も交えて

 

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