ヘボコンとは
レポートの前に、ヘボコンの特徴をざっくりご説明しよう。
・トーナメント戦だが、優勝はもっとも価値の低い賞。偉いのは投票で決まる「もっとも技術力の低かった人賞(通称:最ヘボ賞)」
・基本ルールはロボット相撲。しかし勝敗の判定が微妙だった場合は多数決等で適当に決める
・各機いろいろな技や作戦を用意しているが技術力不足でたいてい不発に終わる。
・そのため試合前に「こうなる予定です」を発表する時間がある。だいたい机上の空論が展開される。
もっと詳しく知りたい方はこちらの動画を見てほしい。
レポートでは特に名試合であった5試合の模様と、各賞の受賞機、そして残念ながら授賞を逃した機体についても順にご紹介していく。
試合の紹介にあたってルール説明
・土俵(長方形の板)から出たり、倒れたりしたら負け
・制限時間は1分。時間切れの場合は果敢に攻めたほうが勝ち
まずは1回戦から3試合をご紹介
アームロボ(かがやき)
vs
まあまあすすむくん(チームふみと)
大会中もっともキャラが立っていたロボットである。上に乗っかってるヒヨコが、可愛い顔と仕草とは裏腹に、めちゃくちゃ口汚く煽ってくるのだ。
こればっかりはぜひ一度、音を出して動画で見てほしい
かわいいヒヨコがぴょこぴょこ跳ねながら、「おいおいおいビビってんじゃねーぞかかってこいやコラ」みたいなことをめちゃくちゃ早口でまくし立ててくる。いや実際のセリフは聞き取れないのだが、テンションが完全にそんな感じなのだ。このギャップに観客の心がわしづかみされてしまったことは言うまでもない。
対戦相手のアームロボは、キャタピラキットをボールペンと定規で武装したマシン。最小限の武装ながら、馬力の強いキャタピラ+サイドを抜けて逃げられないようにする定規の組み合わせは考え抜かれている。
ボールペンをのど元に突きつけた瞬間、かわいいキャラがやられそうになってしまう「やめてー!」という気持ちと、悪役がひどい目にあってスッとする気持ち、背反する2つの感情が同時にやってきて完全に未体験の感覚だった。
ちなみにすすむくんはその煽りをどんどんエスカレートさせながら3回戦まで勝ち残った。今大会のマスコットキャラだったといっても過言ではない。
息子ロボ3(たんぽぽ組)
vs
ヘボカワ7号(信州ヘボラボ)
佐久のヘボコンは今回で3回目を迎えるが、皆勤賞で出場してくれているのがたんぽぽ組。
毎回お父さんが、今年3歳の息子さんをフィーチャーしたロボを作って出場。イベント中に息子が飽きてお母さんと一緒に帰ってしまうのも恒例である。
今回は息子さんの顔を3連でロボの正面に実装、そのかわいさを前面に押し出したロボとなったが…
その対戦相手はこちらのマネキンロボ。こちらはこちらで出場者の娘さんが描いた顔ということであまり悪くは言えないのだが……正直なところ、ちょっと怖い。あと髪の毛にモーターが仕込まれており、ギュインギュイン回る。狂気を感じる造形なのだ。
ところで、顔ロボ同士で相撲をするということになれば、当然気になってくるのが「キスをしてしまうのではないか」という点だ。3歳の幼い子が、こんな髪の毛が高速回転する異常なロボとキスをしたら、将来に悪影響を残してしまうのではないか。
勝敗以外にもう一つのドキドキをはらんだ、試合の様子を見ていただこう。
華麗にキスを避けての立ち回りに、謎の感動が生まれた試合であった。
ところでこのレポートを書くために過去記事を読み返していて気づいたのだが…
一昨年の第1回でも、キスを迫る敵を相手に、手形でメリメリ押しのけていた。
ロボット相撲大会なのにキスを迫られる頻度の高さ、そしてその防衛力。何か「持っている」子であることは間違いない。
ノコノコ(チームたかの)
vs
崖っぷちブラザーズ(信州ヘボラボ2号)
カメ形のロボットだが、アクリルの本体とステンドグラス風の甲羅がうまくマッチしており、造形の完成度が高い。
甲羅の中にはアメがびっしり入っている。これはバラまいてマキビシ的に使うパターンかな?と思ったら「後で食べます」とのことだった。
自分用のおやつを搭載。「ロボットを作る」という行為の自由さを再確認させられた。
対戦相手はこちらだ。
このマシンはプルバック(チョロQ的なやつ)のミニカーを動力としているが、よくある「人がひっぱって発進させるだけして、ぜんまいが切れたら終わり」のパターンではない。前方に向けて扇風機を回すことで風力で自動後退、ゼンマイを巻きなおすのだそうだ!すげー!
これが実際に有効だったのかどうか、(だいたい予想はつくけど一応)試合の様子を見てみよう。
ヘボコンのルールでは時間切れの場合は判定となり、たくさん攻め入った方が勝利となる。今回はノコノコがわずかではあるが移動していたので、判定勝ち。
しかし崖っぷちブラザーズの何一つうまくいってなさ。
プルバックと風力推進はヘボコンにおける2大「よく見かけるけどめちゃ弱い」動力。しかし、まさかこの2つの弱点を両方かねそなえた最悪の動力が発明されるとは。その奥深いヘボに敬意を表し、審査員賞(デイリーポータルZ賞)を贈呈した。
続いて3回戦、準決勝からこの試合
救世主(チーム花粉症)
vs
ダンゴムシミサイル(チームむしはかせ)
ヘボコンにおいては勝利は至上の価値ではない。「優勝は最も価値の低い賞」という大会であり、たたえられるのは「もっとも技術力の低かった人」だ。
しかしこうした価値観の転換は、ときに混乱を呼ぶ。どさくさにまぎれて、全く異なる価値を崇拝するものが出てきてしまうことがあるのだ。
それがこの、ロボット名「救世主」。
救世主の目的はヘボくあることでもなければ、もちろん勝つことでもない。彼の目的は「鼻をかんであげること」なのだ。そうすることを彼は「救う」と呼んでいる。
試合前のインタビューでは「とにかくしっかり鼻をかんであげたい」と語るなど、とにかく鼻をかむことに対する熱意がすごい。
そして迎えた3回戦、そんな救世主の前に現れた対戦相手は
6基のミサイルランチャーを搭載(しているだけで実際に飛ぶわけではないが)した、ダンゴムシロボ。実はこのコロッとしてかわいいのは1回戦の姿で、3回戦時点では…
ダンゴムシを2体合体させた姿になっていた。
この対戦、アツかったのは試合前のインタビュータイム。
マイクを向けると「ダンゴムシに鼻ないんだよな~」と余裕を見せるチームむしはかせ。それに対するチーム花粉症のアンサーは
「きっと、あるはず」
であった。鼻をかんであげたいという気持ちが、「願い」にまで昇華したのだ。
あまりの出来事につい胸を打たれてしまった。あったのだ。確かにあの瞬間、ダンゴムシに、鼻が。
ここまでの熱意をもって鼻をかみたがるチーム花粉症。そのパッションは、決勝戦へと持ち越される。
そして決勝戦
合体恐竜号(チーム相棒)
vs
救世主(チーム花粉症)
ダンゴムシミサイルをあふれる情熱で押し倒した救世主は、そのまま決勝進出。
その目の前に、最大のライバルが立ちはだかった。
ラジコンカーに紙粘土製の恐竜が載り、前方には主砲のようだが特に何も発射しない筒を搭載している。ラジコンのスピードと操縦性で順当に勝ち上がってきたマシンだが、特筆すべくはチームメンバーの方だ。相棒という名の通り、男子の二人組。
1回戦で勝ったあとのコメント
1「また来年かかって来いよ!負けねぇからな!」
2「こんな風に勝っちゃって申し訳ないと思っています」
2回戦の対戦前のコメント
1「本気出していいか?やってやらぁ!」
2「もうちょっと動力を弱いのにすればよかったと思っています」
アツく元気な方と冷静で腰が低い方、完璧にキャラが立っている。そしてこの二人がまた実に仲良しで、試合中も二人で相談しながら操縦しているのがとても微笑ましかった。
そんな2人が目指すのは優勝。そしてチーム花粉症の目指すのは、もちろん鼻をかむこと。
こんなバラバラの方向性で、試合って成立するものだろうか。決勝戦にして素朴な疑問が頭をもたげるが、もうやるしかないのだ。決勝戦なのだから…。
鼻をかんだ方が勝ちの大会「ハナコン」であれば完全に救世主の勝利だったのだが、なにぶんこれは「ヘボコン」であり、ロボット相撲の大会だ。時間切れによる判定で、序盤にかなり深く敵陣に侵入していた、合体恐竜ロボの勝利となった。
しかしながらあの完璧な鼻かみっぷり。試合には負けた救世主も、彼の心の大会では優勝を勝ち取っていたに違いない…。
もっとも栄誉ある賞「最ヘボ賞」
最ヘボ賞に輝いたこのロボットは、ペットボトルのキャップを使ったタイヤにコピー用紙の帆を搭載、今回最も手作り感あふれるロボだった。
そのローテクぶりもさることながら、作者は「負けたら相手にあげます」といってストローで作った星をはりきってどっさり持参。その負ける気十分なうえに妙にポジティブな参加態度が客席の心を打ち、投票で最ヘボ賞に選ばれた。
(以下、すでに登場したロボットについては紹介を割愛します。)
審査員賞・Sakumo賞
審査員賞・デイリーポータルZ賞
優勝
準優勝
余談:会場について
ところでこのヘボコン佐久大会、会場は佐久市子ども未来館というチルドレンズミュージアムであり、毎年プラネタリウムで開催しているのが特徴だ。
こちらは去年のダイジェスト動画。映像投影に加えバックに宇宙、海、佐久の風景を順に移すことで、ビッグバンから文明の誕生までをなぞりつつの壮大なロボットバトルを繰り広げた。
?????
「なんか迫力ありそうな絵が映っているが、なんだかよくわからないな」と思われたのではないだろうか。大正解である。
というのも昨年からプラネタリウムがリニューアル、機材も一新されていろんなことができるようになったのだ。今回のコンセプトは「見上げる巨大ロボットバトル」。360度カメラで下から撮った映像をドームに投影すれば、試合を下から見ている=地上から巨大ロボットバトルを見ているように見えるのではないか、というこころみであった。
そして実際に投影した様子が、こちらである。
実は新機材でもカメラの映像はドームの前半分にしか投影できず、360度カメラの像がかなり歪んでいること、そして何より、せっかく作りこんだロボットも、下から見るとよくわからん、ということがわかった。
こうして、「ドームでの大迫力の映像を頭上に、全員がそれを見ないで普通のカメラで撮影した据え置きモニタの映像を見る」という、プラネタリウムの超無駄遣いイベントとなった。
数々の名試合が行われた本大会。一番惨敗したのは、我々運営チームだったかもしれない…。
出場ロボット紹介
最後に、まだ紹介していない出場機を一挙に紹介して、このレポートを締めくくろう。
車の上にボクシングロボを搭載した、ケンタウロスタイプのロボ。調子が良ければ高速パンチを繰り出すが、本番は車/パンチともに全く動かず、申し訳程度のパンチを3発ほど繰り出すのみであった。
無数のツマミやボタンのついた高機能そうなコントローラーを手にしているが、これはハッタリ。だがコントローラー自体が完全に無意味なわけではない。そこから伸びた棒の先端に磁石がついており、その反発を使って本体を動かすという方式で、もちろん1回戦で敗退した。チーム相棒との試合前のマイクパフォーマンス(煽り合い)も印象的であった。
前面にぬいぐるみがついており、これが本体か……と思いきや、人質なんだそうだ。その下の顔が本体。
必殺技は「自爆」で、何かあったら人質もろとも自爆する、というヤバい技……という触れ込みだったが、実際発動してみると「スーッと後退して外に出る」という奥ゆかしい自滅であった。
特徴はなんといっても骨。当初おどろおどろしい呪術的な印象であったが、サイゼリアの辛味チキンが材料だということが明かされ一気にゴミ感が増した。足回りとしてルンバ的な自動掃除機を使っているため、制御不能。いい方向に進んでくれることを祈るよりほかないその操作性は、ある意味正しく呪術的だったといえる。
デカい。当日来られなかった仲間をひとりひとりダンゴムシの姿で背中に搭載。彼らを振り落として攻撃する、仲間思いなのかそうでないのかわからないロボ。足回りも良いラジコンを装備しており戦闘力は高いのだが、助走をつけようとしてバックしたところで土俵外に出て自滅。
前日にドタキャンが出たため、急遽、会場であるSakumoのスタッフが参戦。機体はワークショップイベントで作成したお絵描きロボで、モーターで消しゴムを回転させることにより振動を発生させ、移動する。「軽い物は倒れやすい」、「重心が高い物は倒れやすい」など、子供たちに多くの科学的示唆を与えつつ、予想通りの転倒負けに終わった。
土地がはぐくむ真摯なヘボさ
以上が今年のヘボコン佐久大会のレポートだ。
佐久の人はまじめである。集合時間にきっちり集まるし、ロボット作りも雑に片づけたり短時間でやっつけたりせず、きっちり作りこんでくる。佐久大会には、そうしたまじめで技術力のない人が丹精込めて丁寧にはぐくんだ、純度の高いヘボが集まってくるのだ。
言うなればヘボの純粋培養。おそろしい土地である。
ヘボコンの最新情報はこちらでお知らせしています。
ヘボコン Facebookグループ→ https://www.facebook.com/groups/DIY.gag/
共催/会場:佐久市子ども未来館 Sakumo
〒385-0022 長野県佐久市岩村田 1931-1
Tel. 0267-67-2001
※現在リニューアル工事中のため、2020年3月中旬までお休みです