特集 2018年11月14日

うちとハトと階下との攻防

ハトが、妙なところにおったげな。

私事で大変恐縮だが、昨年、今年と、うちの換気扇にハトが巣を作った。

これが例えば、おうちの庭に野鳥が巣を作ったとかなら微笑ましい事件だが、集合住宅の換気扇である。殺伐とした場所である上、換気扇が回しづらく、大変面倒なことになった。どうする。

すぐに業者を呼んだり管理会社に連絡したりすればいいのだが、家人ともども出張が度々入る時期だったりして、これも面倒だ。さあどうする。

とりあえずは、自分たちでなんとかしようと思ってしまったのだ。

これは、ハトと人間との地味で、途方に暮れるほど歯がゆい、攻防の記録である。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:いろんな動物をパンダの赤ちゃんっぽくする

> 個人サイト 妄想工作所

試行錯誤の果てに見たものは

このちょっとした騒動の端緒は、昨年あった怖ろしい事件である。

初夏だったか、自分の部屋でくつろいでいると、窓ガラスに「トン!」と何かが当たった。強めに何かが放り込まれたような感触である。

カラスが木の実でも放り込んだか?と思っていると、また数回、衝撃音がする。さすがに窓を開けてベランダを調べると、こういう得体のしれないものが2、3個落ちていた。

001.jpg
チラシか何かを丸めて、セロテープ状のものでぐるぐる巻きにしてある(実物はもうないので、これは当時を再現したものです)。

これが1個ならまだいいが、2個3個となると妙だ、作為の匂いがしてくる。うちは2階なのだが、ベランダから下(階下は会社になっており、駐車スペースが真下にある)を覗くと、他にもいくつか、同じような物体が転がっていた。

これは恐怖ですよ。「誰かが」「チラシをテープでぐるぐる巻きにして」「うちの窓ガラスに当ててきた」んだから。誰が、うちになんの意図があるというのだ。

思わず腰をかがめ、周囲を見回すも、怪しい人影は何も見当たらない。おおいに訝しみつつも、この日はそのままにしておくしかなかった。
さて、それからまたしばらく経ったある日。部屋で飼い犬と遊んでいると、視界の端で何かが動いた。レースカーテンだけ閉めたその向こう側に、怪しい動きをするものがある。

なんか、長い竿に何かくっつけたやつが、ひょこひょこと移動してるんですわ。

002.jpg
そのときはびっくりしたのなんのって。

わからん。意図がまったくわからん。そーっとカーテンを開けて見てみると、そばの壁にこんなものが立てかけてあった。

003.jpg
妖怪ひょこひょこの正体見たり。

私の頭に一斉に並ぶ「?」の列。先っちょには風船がついている。この写真は別の日に撮ったもので、風船はしぼんでいる。ということはこの日だけでなく何度か目撃したということなのだが、別の日には例の「セロテープぐるぐる石」も、先っちょにいくつかぶら下がっていた。酉の市か。

…と、いうことはです。セロテープぐるぐる石とか風船とかつけた竿を、階下の会社のおじさんが、何かの儀式のように、捧げ持って歩いているということ、なのだろうか??

…まあ、このときも薄っすら気づいていたのだけど、後日うちにいよいよハトが巣を作ったことによって、その理由がわかるところとなった。おじさんは、高所のハトを追っ払おうとしていたのである。たぶんあのテープぐるぐる石は、竿を制御しきれずにブンブン回すなどして、取れたのがうちに直撃したものであろう。

この時は階下のおじさんの、苦心の労作ではあるがなんともブキミな成果物に、家人と笑いあってネタにしてさえいたのだが…


さて、うちの巣である。この騒動の後くらいから、換気扇をつけるたびに「カラカラ…」と怪音がする。やがて、「ガラガラガラ!」という明らかにやばい音に変わり、これはもしやと夫が換気扇の内側からやっと覗けた光景が、これだ。

004.jpg
いらっしゃいました(写真は撮っておらず)。

ハトの巣だ…うちに来ちゃったよ、ハト。これから、どうしたらいいのだろう?こういう巣は勝手に撤去してはいけないらしいし…

とはいえ、別に甚大な被害があるわけでもないしな…しかし今以上に巣の枝が換気扇の羽根に当たったり、産まれたヒナがこっち側に落ちて換気扇に巻き込まれ、エイリアン3のワンシーンみたいにならないとも限らない。

000.jpg
換気扇まわりを横から見た模式図。なんでここが見つけられたのだ!

とりあえずは、極力換気扇を回さないようにしていたのだが、カレーや油物など調理したときに匂いがこもったり、部屋が油だらけになったりして、かなり閉口気味な毎日である。

しかしやがて「ぴよぴよ」とヒナが孵り、そこに親が餌を運んできたりして、こうなったら巣立ちを迎えるまでは我慢しよう。ご家族が出ていかれたときに、何かハト避けグッズを設置することにした。


やがて冬が訪れ、さすがにハトはいなくなった。今こそ行動の時だ。

ここで、素直にホームセンターに行けばよかったのだが、うちのDIY精神が頭をもたげてしまった。あり合わせのもので作ることにしたのである。

005.jpg
第1世代。重し用の油粘土をジップロックに入れて。そして厚紙で作ったトゲトゲ…

このトゲトゲの土台の上に重しを置いて、ハトを来なくする作戦である。

006.jpg
汚い換気扇で恐縮だが、このフードやら遮蔽板やら換気扇やらを全部取らねばならなかった。設置は全て夫担当だ(写真無し)。

でも、ルーバーまでは外せなかったので、隙間から部品を差し入れての作業となった。あれだ、ボトルシップの要領ですね。

しかしこの作戦は、トゲトゲがやがてペタンと寝てしまったことにより、失敗する。まあ、紙ですし。よって第1世代は回収となった。

次は、第1世代の弱点「紙のトゲ」を改良したものだ。

007.jpg
ジップロック粘土に、針金を巻いて強そうにしたぞ!

このとき、私は気付いた。「これ、階下のおじさんがいろいろやってたのと変わんないクオリティでは…!」
 

いったん広告です

世代を重ねるごとに増すものは…

008.jpg
デジャブ。

私たちは膝から崩れ落ちた。腹を抱えて笑った。今年一番の笑いが起きました。

階下のおじさん、お気持ち、今こそお察しします。自前のもので高所のハトを追おうとすると、あんなトンチンカンなグッズができるんですよねわかります。

気をとりなおし、もう堂々と、先ほどの第2世代(針金を巻いた粘土)を設置した。

しかしこれは、放置された枝を後日掃除しようとしたとき、下に落っこちてしまった。

トゲが短いのも気になっていたので、改良版を設置した。第2.5世代である。

009.jpg
どっちかというと、だんだん頭が悪くなっている。

私は肩書として工作家を名乗っており、夫にいたっては彫刻家である。いったいこれが、彫刻家と工作家の作るものだろうか。

しかしもう置いてみたい欲、試してみたい欲のほうが強かった。
夫が、背中を油だらけにして、ルーバーの外に置いた。これが、今年の4月のことである。


そして5月の、連休の頃だ。聞き覚えのある羽音とピーピー鳴く音が換気扇のほうから聞こえてきたのは。

嫌な予感を抱きつつ、例によって換気扇の中を覗くと…

010.jpg
卵、2個確認!そして第3世代がまったくスルーされてる!

もうね、ルーバー越しなんで、距離感がわからないんですよ。粘土の部分が奥に行き過ぎて、かえって手前に空間が空いてしまった、それで普通に営巣、というわけです。

また今年も、カレーの匂いと油ベタベタな日々が続いたわけです。


閉口な日々を再び過ごしたのち、7月には彼らは巣立って行ったようなので、私たちは心穏やかに、第4世代の制作にとりかかった。

今度は「倒れない」「トゲをしっかり」が命題である。そして改良されたプロダクトがこれだ。

011.jpg
餅焼き網に、水を入れたペットボトルを重しにして。トゲは割り箸をくくりつけて。

物を作る仕事をしている私たちのプロダクトかこれは。というかそもそもこれは大人の作ったものだろうか。

まあ、これはこうしてドーンとあの空間に立てておけたので、以後、ハトは入ってこなくなった。役には立ったのだ。これにて一応は事態の収束を見たわけである。


数日ののち、私の部屋の別の窓を見てハッとした。窓の外の10cmほどの足場に、2羽、ハトが日差しを避けつつ佇んでいる。今までこんなことはなかったので、もしかしたらあの日、実家を失った者たちなのだろうか。あるいは今年の激烈な暑さを少しの間でも避けるため、だろうか。

012.jpg
あの家、良かったよなぁ母ちゃん。

やがてハトがここに佇むこともいつの間にかなくなった。

そして、マンションのポストに、管理会社からあるお達しが入っていた。換気扇に、鳥避けの蓋をしますとのことだった。

0013.jpg
下の部分が、増設された金属網。やっぱりプロってすごいや!

ついに、この闘いも終わるときがきた。圧倒的なプロの仕事によって。


この金属網設置後の、9月ごろのこと。

夜、ベランダでポーポー鳴いてるなと思って外を見ると、柵にハトが1羽とまっていた。こんな近くに来るなんて、これも大変珍しいことだった。

014.jpg
もう飼い犬が興味持っちゃって、匂いを嗅ぎたがる。でもハトも逃げない。

見た目、中高生くらいのハトだったので、もしかしてうちの換気扇から巣立ったばかりのハトだろうか。
マンションまるごと換気扇が遮蔽され、いよいよ完全に巣が立ち行かなくなったから、しばらくここで夜は休んでいくのだろうか。
しかしこのハトも、数夜ここで過ごしたのち、どこかへ行ってしまった。

来年彼らは、どこで巣を作ることができるのだろうか。

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ