特集 2020年2月28日

4DXを手動で上映したい

いまさらだが、映画業界がすごいことになっている。3D映像、応援上映、爆音上映など様々な工夫がみられる中、特に工夫の結晶ともいえるのが4DX。映像に合わせて椅子が動き、水がかかり、風が吹く。そういう仕組みがあるらしい。体験したことはないが、自宅でできそうなのでやってみた。

1992年三重生まれ、会社員。ゆるくまじめに過ごしています。ものすごく暇なときにへんな曲とへんなゲームを作ります。

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4DXってなんだろう。

4DXについて調べた。4DXとは、CJ 4DPLEX社が開発した映画館用の環境効果技術だ。

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(https://www.unitedcinemas.jp/4dx/ より引用)

モーション、エアー、ミスト、香り、バブル、霧、風、フラッシュ、雪、嵐、熱風など、多くの特殊効果が映像に連動し、体全体で映画を感じることができるらしい。 すごい。そういえば昔ディズニーランドにそういうアトラクションがあった。あれは先駆けだったのか…。

本物の4DXを僕は体験したことがないので本物がどんなものなのか分からない。でも、ある程度は自宅で再現できるのでは?と思う。モーションは回転・高さ調節可能な椅子を使えば代替できるし、エアーは手持ち扇風機でいける。ミストは霧吹き。これは、4DXを自宅でどれだけ再現できるかの記事だ。

自宅4DX構想

自宅4DX構想がこれだ。今回、これを「僕なりの4DX」と呼ぶことにする。

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絵が絶望的に下手なのはいつものことだが、今回は伝わる気がする。

体験者にVRゴーグルをかぶってもらい、その中でYouTubeの映像を見てもらう。(映像は2Dでよい。) そして、周囲の協力者が映像に合わせて霧吹き・手持ち扇風機を操作する。また、椅子を回したり高さを調整したりする。

他にも、保冷剤を首に充ててひんやり感を演出したり、アロマディフューザーを使っていい香りを出したりする予定だ。自宅でできることは最大限に生かしたい。

唯一の欠点は、一人でできないことだ。自宅4DXは協力者を必要とする。小道具係と椅子操作係の、最低でも2人ほしい。呼びかけたところ、5人も集まった。

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一番左が筆者。その他集まってくれた友人4人と、この写真をカメラで撮影している妻で、計6人。1人の体験者に対して5人の協力者がいる。過剰な人的リソースだ。

これが僕なりの4DXだ。

僕なりの4DXにたどり着くまではいろいろ大変だったのだが、まずは完成形をお見せしたい。

 

全然伝わらないと思うが、体験してみると結構すごい。伝わらない部分について今からちゃんと説明させてください。

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僕なりの4DXを自宅で上映するまで

まず、何よりも大事なのはどんな映像を上映するかだ。一般的な映画は2時間前後あるが、それでは周囲の体験者がへとへとになってしまう。また、映画には緩急があるため、「特に何もすることのない時間」が長いと体験者も協力者も飽きてしまう。

そこで目を付けたのがYouTubeに公開されている、映画のオフィシャルトレーラー(予告映像)だ。2・3分程度の短尺で映画の見どころを凝縮している。当然、アクション映画ならアクション要素が凝縮されており、これを4DXで体験すれば凄まじいことになるのではないか。

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YouTubeで「Official Trailer」と検索するとちょうどよさそうな映像がたくさん出てくる。

「2019年に公開された有名なアクション映画」という漠然とした基準で、映画の予告映像を事前調査した。せっかくの4DX、詰め込めるだけ体験要素を詰め込みたい。そこで、エクセルに体験要素を並べ、整理した。

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筆者がYouTubeの予告編をひとつひとつ丁寧に調べ、〇をつけた。体験要素の一つ、「温もり」についてはあとで説明します。

事前調査の結果、スターウォーズとスパイダーマンが体験要素が6個で同率一位になった。特に、スパイダーマンはクモの糸で飛び回る際に回転が多く発生するため、回る椅子で再現しやすい。上映映画はスパイダーマン(の予告編)に決定した。

 

冷却と香りに〇がついていないので、保冷剤とアロマディフューザーの出番がないのがちょっと残念。その分回転がすごいので、椅子をたくさん回していきたい。

台本作り

次に重要なのは台本作りだ。映像と4DXを人力で同期させるための台本を作る。

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5人の協力者をフルに活用するため、5つの係を設けた。

重要なのは「その他係」。予告映像には主人公がハイタッチをしたりハグをしたりするシーンがある。今回、実際にハイタッチをし、ハグをする。本物の4DXにはない、「人間の温もり」を再現する。

念入りな準備と練習

台本が完成したらあとは念入りに準備と練習をするだけだ。

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厳正なるあみだくじにより役割を決定。

筆者は扇風機係になった。スパイダーマンが飛ぶタイミングに合わせて扇風機の風を当て、臨場感を出す役割だ。一番簡単な役だ…。

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左モニターに映像、右モニターに台本を表示。
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用意した小道具たち。臨場感を高めるため霧吹きは2本用意した。左右から攻撃する予定だ。
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練習の様子。練習なので霧吹きから水は出さず、出すふりだけ。
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扇風機で風を当て、椅子を回す。

練習だが映像に合わせてやっているので、ほとんど本番に近い環境だ。リハーサルみたいなものだと思う。見ての通り、リハーサルから本気である。

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小さいモニターに集まる協力者たち。なんだこの団結感は。

本番は一発で成功させたい。というのも、体験というのは一回目が一番衝撃的に違いないからだ。そのため、協力者たちはチェックに余念がない。僕も扇風機のタイミングを間違えないよう、「30秒、1分36秒、1分43秒」と心の中で復唱し、数少ない出番を間違えないようにした。

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いよいよ本番、僕なりの4DX

そして、本番。いよいよ、僕なりの4DXの上映が始まる!

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体験者にはVRゴーグルをかぶってもらい、周囲が見えないようにしてもらう。イヤホンもしてもらう。また、霧吹きの水で服が濡れないよう、僕の自宅にあったジャケットを着用してもらう。これにより体験者の服のコーディネートが一気にダサくなってしまった。

VRゴーグルの中ではYouTubeの映像が2Dで流れる。今回は手元のモニターと同期は取っていない(やろうと思えばできるが…。)ので、「スタート」の合図でVRの中のYouTubeと手元のモニターのYouTubeの再生ボタンを同時に押す。

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スタート。僕なりの4DXが始まる!

この後の映像が、先ほどお見せした映像である。スパイダーマンの予告編と合わせて再掲するので、見比べてほしい。

 

 

後ろから撮ったバージョンもあります。

 

ここから、見どころシーンを解説していく。

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序盤のハイタッチシーン。体験者に自分から手を出してもらう必要がある。僕なりの4DXの渾身の差別化ポイント、「人間の温もり」である。
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ハイタッチのすぐあとにある、ハグ。「(タイミングが)ちょっとずれた~」と言っていた。
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次の展開に備え、各々待機する様子。最高の4DXを楽しんでもらいたいというおもてなしの精神がそこにはある。
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映像の中の人物が首元を撃たれるシーンに合わせ、実際に体験者の首元を指で突く様子。「うわぁっ」と声が上がる。本物にはない繊細な体験要素だ。
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容赦なく降り注がれる霧吹きの水。そして風。
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凄い速さで回転する様子。

 

アクション映画の予告編は総じて後半にアクション要素が詰め込まれていることが多く、後半は協力者が忙しい。しっちゃかめっちゃかである。

感想を聞いてみる。

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「前半は若干ずれてるんだけど、最後の方はシーン全体がアクションだからわりと合ってた。何より、知らないところで揺れたり水掛かったりするのがこわい!指突かれるのもこわい。」

再生ボタンを押すタイミングがずれたのか、少しずれがあったっぽいが、だいたいはうまくいっていたようだ。楽しんでもらえてよかった。

協力者側の感想としては、一人の体験者に喜んでもらうためにチームでおもてなしをするというのが、妙に団結感がうまれ、また、終わった時の達成感もある。文化祭でクラスの出し物が成功した時の雰囲気に近い。これ、協力者側も想像以上に楽しいのでは…?

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僕なりの4DXを僕が体験する

せっかくなので僕も4DXを体験したい。役割を変わってもらい、僕が体験者になった。

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おおお、ハイタッチが来ると分かっているのに、それでも来ると感動する。
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ハグが来ると思っていてハグが来ると、笑いがこみあげてくる。あと温もりがすごい。なんだこの絵は。
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首を撃たれるシーンは本当にぞわっとする。これはよい。全国の本物の4DXは映像に合わせて指を突くスタッフを用意するべきだと思う。
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めっちゃ楽しかった!

自分で選んだ映像、自分で作った台本。台本を作るのに何十回も再生した映像なのに、「僕なりの4DX」を体験するのは非常に新鮮だった。VRゴーグルをかぶるせいであんまり表情が写らないが、実際かなり面白かった。伝われ!

みんなにも体験してもらった

僕なりの4DX、かなり良い。みんなにも体験してほしい。まだ体験していない協力者の人たちにも順次体験してもらった。

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VRゴーグルのせいで表情が写らないですが、現場はかなり白熱しています!

みんな「すげーっ」「こわい」など、直感的な感想が多くて良い。直感的な体験を外部から与えているので、感想の語彙が不足しがちなのはある意味成功だと思う。僕なりの4DXは語彙力を削ぐ。

回を増すごとに協力者の動きが上達し、最後の上映会はかなりクオリティの高いものとなっていた。

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体験者「においもやりたい。」

わかる。においもやりたい。ただ、においは難しい。なぜなら、においは充満するのに時間がかかるし、消えるのにも時間がかかるため、映像と合わせにくいからだ。ハンカチにアロマオイルを垂らして鼻付近に持ってくればできると思う。(サスペンスドラマで犯人がクロロホルムを染み込ませた布を嗅がせるシーンみたいだ…。)

においってどういうシーンに合うんだろう。僕がいろいろな予告編を見てエクセルでまとめたときも、「香り」に〇が付く映画は一つもなかった。本物の4DXはどうなっているんだろう。

そもそも、においに限らず他の体験要素も含め、本物の4DXはどれほどのクオリティなのだろうか。僕は僕なりの4DXを体験したが、本物の4DXを体験したことがない。実際に体験してみた。

本物の4DXで僕なりの4DXの答え合わせをする

見たい映画を4DXで上映している映画館を求め、調布に来た。

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いまさらだが、アナと雪の女王2の4DXを見ることにした。
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無料のコインロッカーが併設されていた。ここに荷物を全部預けて、全身全霊4DXを体験する。特殊効果のアイコンがかっこいい。

本物の4DX、結論から言うとすごく良かった。まず、椅子がとても快適。「激しく揺れ動く椅子に2時間近くも座ってるのは、きついだろうなぁ」と思っていたが、実際はその逆で、揺れはそこまで激しくなく、むしろ適度な揺れもあってリラックスできた。座り心地も最高。上映終了後もずっと座っていたいと思える椅子だった。僕なりの4DXは激しく回転する座り心地最悪の椅子なので、そこは大きな違いだ。本物の4DXは、やさしい。

においも良かった。主人公たちが森に入るシーンでは森を感じるさわやかな香りが漂っていた。どこからともなく一瞬香りを感じた後、すぐに消えた。シーンが切り替わっても対応できるようになっていてすごい。

アナと雪の女王2には水や吹雪のシーンが多く、風や水しぶきが結構来た。これは僕なりの4DXでも力を入れた部分なので互角と言える。ただ、本物の4DXは長時間ということもあり、首回りが結構寒い。体感としては、春先のちょっと寒い中ちょっと我慢しながらお花見をするのに近い。

最後に、本物の4DXと僕なりの4DXの比較表を作ったのでもしよければ参考にして頂きたい。ほとんど参考にならないかと思いますが。

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僕なりの4DXは、劇。

僕なりの4DXは楽しい。体験者も協力者もハッピーになれる最高の取り組みだと思う。ただし結構疲れる。映像を探し、台本を作り、道具を準備し、仲間を集め、入念に練習し、そして本番。これはもはや、やっていることはほとんど劇団の運営に近いのではないか。逆に劇団の人に協力してもらったら、もっとすごいクオリティの「僕なりの4DX」が体験できるのかもしれない。いつか出来たらいいなぁ。

 

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