ついに作品展開催の日
果たして来てもらえるだろうか?
招待状は送ったが、誰も来てくれなかったら
どうしよう⋯。
一抹の不安がよぎった。
生前親しくしてくれていたとはいえ、素人が作りまくった荒々しい土器を、わざわざ見に来てくれるだろうか。
しかも師もせわしなく走り出す師走だ。
もし誰も来てくれなかったら⋯⋯。
この2週間の労働は、ただうまいビールを飲むためだけだったということになる。(それでもいいけど)
が、
その時
ピンポーン
来た!来てくださった!
ありがたいことに、招待状を受け取った方々が続々集まった。
作品の数に度肝を抜かれた様子の皆様。
「独創的!」
「個性的!」
「なんかわからんけどすごいわ」
感嘆の声をあげながら真剣な眼差しで、母の土器にじっくりと見入っている。
やったね!大好評だよ、おっかさん⋯
みんな食い入るようにお母さんの作品を見つめているよ⋯
(昭和40年代生まれのため興奮すると昭和の言い回しになることをご了承ください)
実はそれには理由がある。
この作品展、ただの作品展ではない。
とある仕掛けがしてあるのだ。
先ほどの招待状をもう一度見ていただきたい。
気に入った作品は持って帰ってもいいというシステム!出血大サービス!持ってけドロボー!
マダムたちの目が光る。
そして……
この世に二つとない、唯一無二の作品たち。しかも無料だ。
持って帰りたいものがあれば悩むよりも素早く手中に納めるが勝ち。
活気づくマダムたち。
皆様お気に入りを見つけてニッコリ。
しかし、それだけでは終わらなかった。
「外にもまだあるでー」
「なんやて!?」
一人のマダムが号令をかけると皆わいわいと玄関の外へと移動した。
長年雨ざらしで泥だらけになり埋もれていたので、まさか欲しい人がいるとはおもっていなかった。
多分宝探しの気分で楽しんでいただけたのだろう。
家に持ち帰ってから冷静になり
「あれ?なんでこんなのもらっちゃったんだろう」
と夢から覚めたりしないことを祈るばかりだ。
終了
親戚、民生委員の方、母の陶芸仲間の方、ご近所のマダムの方々⋯10数名の方たちに来ていただき、大好評で母の作品展を終えることができた。
本当に本当にありがたい。
思い出がいっぱい詰まった母の命ともいえる作品たち。それをこんなに大判振る舞いしちゃって本当によかったのか?
答えはYES!だ。
私たちの手元に置いておくにも限度がある。
いつか必ず手放し処分しなければならない時が来るだろう。
それならば、母が親しくしていた方々の、玄関にリビングに床の間にどこでもいいから置いていただき
時々母のことを思い出してもらえればいいと思った。
母にとってもこんな幸福なことはない。
忘れられない母との思い出
母が施設に入所した後も私ら姉妹はよく母を連れ出し食事に行ったり買い物に行ったりしていた。
近所のホームセンターを訪れた時のこと。
陶芸コーナーの土売り場を通りかかると車椅子に乗っているにも関わらず母は身を乗り出し、おもむろに土をバンバン叩き出したのだ。
「ええ土や!ええ土や!」とイキイキとする母。
母は高齢であるということと股関節の手術を受けたことから6〜7年ほど陶芸から遠ざかっていた。
しかし大好きで夢中になっていたことは絶対に忘れることはできない。体に染み込んでいるのだ。
足が自由に動けなくなっても、認知症が進行したとしても、母にもう一度、大好きな土と戯れさせてあげたい。
また自由に壺やら皿やらを作らせてあげたい。
私らはそう願った。
しかしその願いは叶うことはなかった。
だけど、こうして母の作品展を開催することができた。母よ、これが私らの精一杯の親孝行なんやでぇ!
この記事は読者投稿でお送りいただいた記事です。
編集部より寸評
端的に言ってものすごくいい話なのですが、感傷的な「いい話」のトーンで語られておらず、むしろワクワクするような楽しい書き口である点が素晴らしかったと思います!
故人を振り返る後ろ向きなトーンでなく、お母様を偲びつつもあくまで二人の活動を主役としてエピソードが語られているんですよね。
そんな主役の二人が終始ポジティブで楽しそうであることも大変印象的でした。(編集部・石川)
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