餃子の具も感謝を伝えたかった
いろいろと試してきたが、一番きちんとやさしさをお返ししていたのは餃子の具だった。
今まで伝える機会がなかっただけで、いつも感謝の気持ちは持っていたのかもしれない。いい奴だな、餃子の具。
今後は定期的に餃子の皮を具で包んで、日ごろの感謝を伝える機会をつくっていきたい。なぜなら、めちゃくちゃ美味しかったから。

昔、マッサージ師をしている知人が、自身も体のケアのために定期的にマッサージを受けていると言っていた。心理カウンセラーの方も、ときどき他の人にカウンセリングをしてもらうと聞いたことがある。
どちらも他人の痛みや苦しみに寄りそうお仕事。
愛とかやさしさというのは、いつも与えてばかりではすり減ってしまう。たまには自分もやさしさに包まれなければやっていけないのだ。
餃子の皮、大丈夫かな。
マッサージ師や心理カウンセラーがときどき自分をケアしている一方で、餃子の皮はいつも具を包んであげてばかりだ。
「餃子の皮」という名で存在している以上、具を包むことは運命だ。
だとしても、いつも包んであげてばかりでは心が悲鳴をあげてしまう。本当はときどき自分もやさしく包まれたいと思っているのではないだろうか。
母の日、父の日、勤労感謝の日。日本には、いつも頑張っている人をねぎらう祝日がある。ならば今日は「餃子の皮の日」だ。いつも包んでばかりの皮を、具でやさしく包んであげよう。
さっそく、こちらのレシピをもとに餃子の具をつくった。
しかし、レシピ通りに進めるのはここまで。ここからは、いつもと立場を逆転させていく。
ホフッというやさしい音が聞こえた。
ひき肉をベースにした餃子の具が、その粘りをいかして皮をゆっくり丁寧に包みこむ。皮の側からすると、まるでやさしく布団をかけてもらっているような心地だろう。
見ているこちらも安らかな気持ちになるような包みこみ。
気づけば僕も、包んだ具の上を箸でポンポンとやさしくたたいていた。小さい子に布団をかけてあげた親御さんがやるやつだ。
中にいる皮はどうしているだろうか。
真っ白だった皮はほんのり茶色くなっていて、具の肉汁がしみこんでいることが分かる。良かった、しっかり愛情を注いでもらっている。
そして味はというと、
笑っちゃうほど美味しい。
中の皮に味が染みこんでいることは食べても分かった。それに、ハンバーグのような肉の中に皮のモチモチした食感があるのも面白い。
そして何より、今回は包んであげる側の具が、その肉々しさをここぞとばかりに発揮している。肉のジューシーさに、ニラやニンニク、ごま油や醤油の味も合わさって、おかずにもおつまみにも最高の味になっている。
よく考えてみれば、具は今までやさしさに包まれてきた一方で、皮1枚へだてた味しか伝えることができなかった。こうやって本当の自分を伝える機会を、具も狙っていたのかもしれない。
こうして、餃子の皮に一時のうるおいを与えてあげることができた。
きっとこれで明日からまた頑張って具を包んでくれるはずだ。餃子の未来が保たれた。
しかし考えてみると、いつも包んでばかりなのは餃子の皮だけではない。
この3つもそうとう疲れているはずだ。どんどん包んで、癒しを与えていこう。
まずはロールキャベツ。
切ってみると、絶対に割ってはいけないものを梱包するかのように、キャベツが具を何重にも包んでいた。
守るというタイプのやさしさ。これはなかなか労力のかかることだろう。
そんなキャベツを包んであげるため、こちらのレシピをもとに、ゆでたキャベツと具を用意。
餃子のときと同じく、具がひき肉の粘りをいかしてキャベツをやさしく包みこんだ。よし、これでキャベツにも愛情を注いであげることができたぞ。
と思っていたら、
煮ている間にひき肉がポロポロと崩れてしまい、できあがりではキャベツが少し外にはみだしてしまった。
残念ながら、ロールキャベツの具はそのやさしさを最後までキープすることができなかった。やはりどこかで、本来包まれるのは自分というおごりがあるのかもしれない。
一方で味はというと、中に包まれているのがキャベツということから、餃子のとき以上に肉とコンソメスープの味が染みこんでいて美味しい。
包みこむやさしさは完璧、味も最高だっただけに、最後にボロが出てしまったことだけが悔やまれる。
やさしさ :★★★
おいしさ :★★★★★
詰めの甘さ :★★★★★
続いてはオムライスの卵。
普段は、そのフワフワさと色合いで最上級のやさしさを提供している。チキンライスはさぞ幸せなことだろう。でもその陰で、卵にはきっと無数の気苦労があるはずだ。
そんなオムライスの卵は、これまでのひき肉を使った料理とは違うやり方で包んであげる。
完成したものの断面を見ると、卵はしっかり包んでもらえているし、見た目もきれいだ。
ただ、問題なのはそれを作る課程。チキンライスを掘りかえして卵を詰めるのは、包んでいるというより埋めている感じがして、なんだか悪いことをしている気持ちになる。
穴をほり、そこに押しこみ、そして埋める。チキンライスと卵とはいえ、暗い山中でやっていたら捕まりそうな行為だ。
やはりお米は主食のドン。自分を包まない卵なんて用なしだと考えていそうで怖い。
味はというと、卵とチキンライスを一緒に食べられたら、卵がかたまりで口に入ってくるので、その味が強くなってリッチな気分になる。
一方で、普通のオムライスと比べてバランスよく食べることが難しく、チキンライスだけで食べることになる部分も出てくる。
チキンライスももちろん美味しいのだけど、今回はその状態になるとなんだか外れた気分になる。
やさしさ :★
おいしさ :★★★
罪悪感 :★★★★★
最後は大福。
断面を見てみると、はちきれんばかりのあんこを薄い餅がピッタリと包んでいる。餅はまるで、ライブ会場の最前列の警備員のよう。日々はげしく体力を消耗していることだろう。
包んであげよう。
ネットリしたこしあんを使ったことが功を奏して、餃子やロールキャベツの時のようにやさしく包むことができた。
ただ、食べてみると、
餅を丁寧に包みこむことを優先した結果、あんこの量が多くなり、しびれるほど甘くなってしまった。
あんことしては、日ごろの感謝を最大級のやさしさで返したかったのだろう。ただそれが裏目に出てしまった。やさしさも、過剰になると毒になるのだ。
ちなみに今回できあがったものは、伊勢の名物「赤福餅」に似ていた。
今まで何度も食べたことがあるが、同じように餅をあんこで包んだものでも、その甘さにしびれたことはない。
あんこの甘さや、餅とのバランスなど、絶妙な調整がされているのだろう。赤福すごいな。
やさしさ :★★★★★★★(過剰)
おいしさ :★★
赤福は奇跡 :★★★★★
いろいろと試してきたが、一番きちんとやさしさをお返ししていたのは餃子の具だった。
今まで伝える機会がなかっただけで、いつも感謝の気持ちは持っていたのかもしれない。いい奴だな、餃子の具。
今後は定期的に餃子の皮を具で包んで、日ごろの感謝を伝える機会をつくっていきたい。なぜなら、めちゃくちゃ美味しかったから。
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