森だけ、は森だった
箱もコーヒーもなく、ただ森を歩いてみましょう、という時間もあった。もちろん森はカルディではなかった。
これで原稿が終わったらきれいなのだけど、逆VRをやりたくて箱をかぶった訳ではなかった。これからそこに至るまでの迷走を書きます。
最初はカルディの話だった。コーヒーと輸入食品のお店、カルディ。
たくさんの商品がぎっしり陳列されているカルディだが、圧迫感もなく落ち着いて店内を巡回できる。じっくり眺めていたらそのうち欲しいものが見つかった、という経験が何度かある。
コーヒーが飲めるからだと思ったのだ。コーヒーのおかげで、冷静にじっくり込み入った場所を楽しめる。入り組んだ場所にはコーヒーなのだ。
コーヒーを飲みながらだと落ち着いて森を見られる。間が持つ。セミを見つけたがまごまごしている間に逃げてしまった。
森はそもそも良いものだ。コーヒーがなくてもじっくり観察できるものがたくさんある。
カルディほど込み入っていないのがしっくりこない原因かもしれない。もっと狭い通路であって欲しい。目の前に色とりどりの何かがびっしり並んでいて欲しい。それを見ながらコーヒーを飲みたい。
これをかぶれば目の前にカルディみたいなものが現れる。それを見ながらコーヒーを飲めばいいのだ。
「込み入った場所でもコーヒーがあると落ち着く」って言っていたと思う。いつの間にか「森でカルディを再現したい」にすり替わっている。
顔を覆うと感覚が閉ざされて森にいないみたいだ。すぐ目の前やすぐ横に陳列棚が見える。そしてコーヒーを飲むとコーヒーの味がする。カルディ的な要素がそろった。
でもさ、やっぱり「飲めましたよ!」じゃないんだよ、とも思う。
隙間から森が見られる。これで今までの登場人物「森」「コーヒー」「箱」が共存できる。共存できてどうする。
うっすら思っていた。ここまでの行動を一言で表現するなら「自暴自棄」である。箱に紙を貼った時点でうっすらとあった「こういうことじゃないかもな」という気持ちを無視し続け、後戻りできない場所まで来てしまった。
足りなかったのは勇気だ。「最初から考え直そう」という勇気。今からでも遅くない、全部なかったことにしてやり直そう。勇気だ、勇気を出すんだ。
無力感に包まれながら箱の隙間から見た森には現実感がなかった。そう、まるで仮想現実。
箱もコーヒーもなく、ただ森を歩いてみましょう、という時間もあった。もちろん森はカルディではなかった。
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