悶え疲れるぜ!
この本たちの何がすごいって多くの場合、自分には全く関係ないことなのだ。たとえば美幌町のことを、九州生まれで東京に住んでいる私が知っても披露する場なんてないのだ。でも、それがいい。そこに悶えてしまうのだ。

博物館や資料館というものあがる。その地域の歴史や産業などが展示されている施設だ。大きな博物館もあれば、もっと地元に寄った展示の郷土資料館などもある。その地域のことを知ろうと思ったらぜひ訪れた方がいい。
そんな博物館や資料館が独自に出版している本がある。だいたい受付のあたりで売っていて、非常にマニアックなものが多い。出版社が出す本よりも地域密着型だったり、テーマがニッチだったり。それを紹介したい。
基本的にはどの地域にも博物館や郷土資料館があると思う。総合的な博物館に行けば、その地域の自然の展示があり、出土した土器などの展示があり、生業の展示などがある。その地域の成り立ちを知る大切な場所だ。
もちろん見るだけでも楽しい。それは間違いない。知識が増えていく感じがするのだ。自分とは全く関係ない地域の息づかいのようなものも感じることができる。そして、もう一つの楽しみが本なのだ。
博物館や資料館が独自に出版している本があるのだ。絶対に全国の本屋には並ばないような地域密着型の本だったり、専門的な本だったりする。好みにもよるが、私はこれがストライクもストライクで、買わずにいられない。それを紹介したい。
博物館や資料館はいろいろな本を出している。基本的にどの博物館も出しているのが「総合案内」や「図録」だろう。その博物館の展示物の写真と説明が詳細に書いてあるものだ。遠い場所だともう一度行くのが難しいからつい買ってしまう。
もちろんこの本だけを見ても完結しない。詳しくはなるけれど、やはり実物を見る感動には及ばない。だから、現物を見た後に買ってしまうのだ。現物を見た感動を家でも思い出したいから。映画のパンフレットと同じだ。
その地域の文化財を紹介した本もよく売っている。これは教育委員会が作っているパターンなので博物館や資料館の独自の本ではないけれど、買ってしまう。「るるぶ」にも、「まっぷる」にも載っていない、地元の人でも知らないかもしれない歴史があるのだ。
まず紹介したいのは遠野市立博物館の本。日本で初めての民俗専門の博物館だ。そのため、私の好むタイプの本だらけで、全部欲しい、全部読みたいとなっていた。特別展の本だったりするので、今は展示を見ることはできない。せめて本だけでも、となるのだ。
オシラ神は東北地方を中心とした民間信仰の一つ。柳田國男の「遠野物語」に登場しているので知っている人も多いだろう。そんなオシラ神をまとめた1冊。オシラ神の研究についての文章があり、各地のオシラ神の写真がたくさん載っている。
オシラ神は地域性があり、遠野物語の影響か、家の神や養蚕の神というイメージがあるけれど、火の神だったり、目の神だったりもする。そんないろいろなオシラ神をこの本で見ることができる、しかもカラーで。悶えるでしょ。
藁が日本にやってきた歴史から始まり、藁を育てる様子や、藁を使った道具や信仰の紹介など藁だらけ。藁細工の写真がカラーで載っているのだけれど、もはや芸術である。
遠野市立博物館は展示もよかったし、本もよかった。本当によくて散財した。上記の本、2000円とかするのだけれど、買っちゃうのだ。長年の歴史や知識がその値段だと考えると安い。めちゃくちゃ買った。生活が厳しくなったけれど、母が本は買いなさいと言っていたから、仕方ない。
どの本も悶えるのだけれど、その中でも悶えてしまうものを紹介したい。先に紹介した本でも悶えているし、これから紹介する本でも悶えてしまう。ちなみに私はカラーブックスでも悶えているので、本が悶えるポイントのようだ。
私は競馬が好きだ。ギャンブルとしてではなく、馬や競馬場の風景が好き。そして、広島にも以前は競馬場があった。今はない。そんな在りし日の姿がまとめられている。広島競馬の歴史も記されているし、競馬場のあった場所のその後も書かれている。
広島と言えばカキとノリ。それぞれの生産が始まった頃からの図版や写真が掲載され、使われていた道具の写真、養殖法などが記されている。私はカキが大好きで、歴史や生産現場を知りたいので、とてもためになる一冊だ。
太地町立くじらの博物館で買ったこの本。博物館ではなく太地町が出している本だけれど、博物館で買ったのでセーフとしたい。この本の素晴らしいのは、昔の写真と同時に今の写真が載っていて、同じような場所から撮っているので変化がわかることだ。
唯一の問題はカレンダーをめくるように読まなければならないことだ。慣れていないので、若干読みにくい。それをカバーできるほどの内容。変化がたまらないのだ。時代が変わっていく様子がこの本だけでわかってしまう。
徳島といえば「阿波木偶(あわでこ)」が有名。これは人形(にんぎょう)だ。そこから始まり、祓いや呪いに使われる人形(ひとがた)の紹介へと続いていく。誰もが人形と人形について考える。その違いとはなど、それがわかるのだ。
ビワマスについて書かれている。サケ類は基本的に川で産まれて海に降りるのだけれど、琵琶湖の固有種「ビワマス」は海に降りない。その代わりに琵琶湖に降りるのだけれど、一部は河川残留型もいたりするなど、タイトル通り、ビワマスの謎が解決していく内容になっている。
参勤交代や参詣、湯治の旅の様子が記されている。各地の風景や、旅に持っていく道具の写真など、あたりまえだけど、今とは違う当時の旅の様子を知ることができる。当時のガイドブックとかも載っていて、ガイドブック好きとしては嬉しい。
絵本のような感じで、野崎さん、美子ちゃん、ポチが登場する。基本的に説明は彼らのセリフとなっており、そのセリフはLINEのような感じでデザインされている。内容は北海道・美幌町の歴史。古い写真もいっぱいで読みやすく満足のいく一冊だ。
大山街道は江戸時代に整備された脇往還で、江戸に物資を運んだり、庶民が歩くために使われたりした。本書は大山街道の今の地図が載っており、そこに当時の名残がわかるものの写真や、見ることのできる動植物が記されている。この本さえあれば大山街道を楽しく歩けるのだ。70キロくらいあるから歩かないけどね。
参勤交代でのお土産、昭和のお土産、今のお土産などがまとめられている。パッケージがたくさん載っており、歴史を感じるデザインやフォントに悶えることになる。古いものだけではなく、今のお土産や、現代のツーリズムについての記述などもある。
フォッサマグナミュージアムに私は行ったことがないので、おそらくもらったものだと思う。でも、素敵な本だ。翡翠の町「糸魚川市」にある博物館ならではの1冊だ。翡翠の歴史もあれば、翡翠の拾い方まで書かれている。翡翠よりも珍しいコランダムにも出会えるかも、とある。行ってみたい。
斜里町立知床博物館はとても素晴らしい。所狭しと展示物があり、刊行物も多い。私は予定と予定の間に寄ったのだけれど、時間がない、ここに住みたいとなるような素晴らしき博物館だった。上記の本も忘れさられようとしているアイヌ語地名を中心に紹介されている。
「地名探訪しゃり」、「斜里・知床近代文化遺産」は共に郷土学習シリーズ。シリーズで20冊あるのだけれど、全部欲しい。北海道はやはり違うのだ。農業にしても北方圏農業で本州の農業とは異なる。植生も違う。このシリーズで勉強したい。絶対に実用的な知識を得られると思う。
知床の森で見ることができる122種の樹木の葉っぱが載っている。基本的には葉っぱしか載ってない。この辺りを歩くには全国のものが載っている図鑑よりもいい。どれだろう、と悩む必要がないのだ。知床の森で見られる樹木しか載っていないのだから。トドマツとか本州にはないしね。
この原稿を書きながら紹介した本を読み返しているのだけれど、その度に悶えるので悶え疲れてきた。ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思う。企画展などの度にすでに訪れた博物館でも新たに出版されるのでキリがない。ずっと悶えられるのが、この本たちなのだ。
この本たちの何がすごいって多くの場合、自分には全く関係ないことなのだ。たとえば美幌町のことを、九州生まれで東京に住んでいる私が知っても披露する場なんてないのだ。でも、それがいい。そこに悶えてしまうのだ。
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