ベーゴマを現代風にアレンジしたベイブレードというおもちゃがあるが、最近のベイブレードには本物の火花が出るようなギミックが搭載されているそうだ。
ゲーム的な視覚効果が確実に現実世界を侵食しているのではないか。
最近のゲームはすごく派手だ。
スマホゲームやテレビゲームにはゲームエフェクトと呼ばれる「視覚効果」がふんだんに使われ、いやが上にも気分は盛り上がる。
しかし将棋などのアナログなゲームには当然ことながらそれはない。
アナログなゲームにもかっこいいゲームエフェクトを追加できないか。
僕は学生の頃には寮に住んでいたのだが、その寮ではゲーム機の持ち込みが禁止されていた。
必然的に将棋とかトランプといったアナログな遊びをせざるを得なかった。
その後、レポートを書くためのパソコンは寮内に持ち込めるようになりパソコンゲームはできるようになる。
それまでの将棋やトランプとは違い、パソコンのゲームは華麗なグラフィックや視覚効果(ゲームエフェクト)で彩られ、とても感動したのを覚えている。
さて時は流れゲームエフェクトがなければ満足できない体になってしまったので、アナログな将棋などのゲームにもエフェクトをつけられないだろうか。
「将棋などのアナログな遊びに視覚効果を付ける」はかなり以前から温めていたが、具体的にどうすればいいかまでは思いつかなかった。
そんな折、近所の電子部品店の店員さんに教えてもらったのがワイヤレスLEDだ。
上の写真の通り中央のLEDは周囲の線とは繋がっていないのに光っている。スマートフォンなどのワイヤレス充電と同じ原理だが、実際に手に取ってみるととても不思議で、まるで魔法のようですらある。
しかもこの様にたとえ発光ダイオードとコイルの間に木の板などを挟んでも大丈夫。(磁界を遮断する金属などはNGだった)
これを使えば、最新ゲームのような派手なエフェクトに彩られたアナログなゲームも作れるのではないか。
今回将棋でやってみようと思う。なぜなら材質が木だったのと、光らせると絶対かっこいいからだ。
ということで、早速将棋の駒から作ることにした。
まず立ちはだかるのはあの文字である。
表の楷書はともかくとして、裏の草書はフリーハンドは難しそうだ。そこでここからはデジタルの力を借りる事にした。
下書きした文字をスキャンして取込、パソコン上で始筆、止め、跳ね、払いを追加する。これを将棋の駒に使われるすべての文字に対して行う。
勢いのまま作り始めたが、これもしかして滅茶苦茶大変なやつでは?
という予想は残念ながら当たっていて、これだけで一週間くらいかかってしまった。
しかしさすがはデジタル。僕の字はこんなに綺麗じゃないがフリーハンドで字を書くのと違って、いくらでも書き直したり全体を見渡しながら調整することができる。なかなかいい感じになった。
習字が難しいのは一発勝負だからだな。
最初は裏の文字が何かさえ分からなかったが、一週間ずっと将棋の文字とにらめっこしていると「銀」→「桂」→「香」→「歩」に行くに従い、「金」の文字を徐々に崩している様に見えてくる。
調べてみるとそういう説もあるらしく、つまり「歩」の裏の「と」は、「と」ではなくすごく崩した「金」という説もあるそうだ。(諸説あり)
閑話休題、次にデジタルの世界から再びアナログの世界へ。作った文字を木材に削って駒を作る。
それにはこのCNCフライス盤という機械を使用する。
ハンコ屋さんなどで名前を彫る時もこういった機械が活躍しているらしい。
3Dプリンタも便利だが、この機械も一家に一台あればご家庭で将棋の駒を削る時やハンコに名前を彫る時に便利である。
ものの数十分ほど待つと将棋の駒(らしきもの)が完成。
紙やすりで軽くなでるとささくれが取れてとてもいい感じに。
ちなみにこの「玉将」の文字の凹みのところは本当にギリギリまで薄い状態だ。
そこに乳白色のレジンを流し入れる。
このレジンは紫外線をあてると固まる性質があり、太陽光をあてるとものの数秒でカッチコチに固まった。
反対側から表面の薄皮をヤスリで少し削ると「玉将」の文字が現れる。
文字が現れる瞬間はまるで化石の発掘のようで、なんとも感動的だ。
文字の所だけ光を透過する将棋の駒の完成である。
裏面は木工用ボンドで薄い板をはってふさぐ。
思ったよりいいものが出来たんじゃなかろうか。でも本来将棋の駒は先(上)に行くに従って薄くなっている。そこまでやるのは難しかったので勘弁していただくと言う事で。
完成した駒をコイルに近づけた瞬間、ピカーーーン!と文字の部分が光りだし覚醒する。
たぶんかっこ良くなるだろうと見込んではいたが、目の前で文字が光る玉将は想像以上のかっこよさである。「漢字」と「光る」組み合わせはすごくいい。
駒のめどが立ったので、つづいては将棋盤を作っていく。 当然将棋盤もかっこいいエフェクトが使われるべきである。ということでテープ型の発光ダイオードも用意した。
しかしここでちょっと想定外だったのは将棋の駒がコイルから少しでもずれると一気に暗くなってしまうことだ。
ちゃんと将棋盤がすべて光るようにつくるには将棋盤9×9マスの81個のコイルが必要になる。そこまで用意していなかったので、あくまでもコンセプトデザインということにして2×2マスのみ作る事にした。
配置を変えながら試行錯誤していく。
まるで魔法陣のような光をまとうちょっと小さい将棋盤が完成した。
置いた瞬間にピカーンと文字部分が光る。
思った通りのものができたが、アナログゲームにゲームエフェクトを追加したというより…なんか、これゲーミング将棋?と思ってしまった。
ゲームをするための専用パソコンのことをゲーミングパソコンといい、ゲーミングパソコンの多くがカラフルに光るイルミネーションを搭載していることから転じてカラフルに光るものを「ゲーミング〇〇」と呼ぶミームがある。
結局僕が作ったのはゲーミング将棋ではないか。アナログな将棋をテレビゲームやスマホゲームの様にしたかったのだからゲーミング将棋で合っているものの、将棋自体がそもそもゲームの一種と考えればでゲーミング将棋とは奇妙な言葉である。
ベーゴマを現代風にアレンジしたベイブレードというおもちゃがあるが、最近のベイブレードには本物の火花が出るようなギミックが搭載されているそうだ。
ゲーム的な視覚効果が確実に現実世界を侵食しているのではないか。
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