特集 2021年3月8日

短い「おそと時間」は、いい香りの街路樹をかいで季節を感じたい

外で活動する時間が短くなり、自然に触れる機会が仕事の行き帰りと、買い物のついでくらいしかなくなってしまった。わずかなグリーティングチャンスを逃すまいと「今日は木を見るぞ」などと念じてから外出する日々である。

ひときわありがたく感じるのが「香りのいい花」。まもなく殺伐とした都会にも春がきて、街路樹が花を咲かせるだろう。その楽しみ方について考えてみた。

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの花屋。花を売った金で酒を買っている。

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いい香りの花=回復スポット

筆者が仕事に疲れるとよくやるライフハックがある。それは「通勤路をちょっとだけ変えること」。

いつも通らない道を行くと、見たことのないような植物が繁っていることがある。そういうときは、前を通った瞬間に花を観察して、息を深く吸い込んでみる。

いい香りがしたらしめたものだ。その道は明日からあたらしい通勤路。私はいい香りの花が植えてあるスポットを「回復(セーブ)ポイント」と呼んでいる。

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アクションゲームのキャラクターも、謎の回復薬じゃなくていい香りのお花で回復してたら面白い。

人に植えられ、車や電車が往来するなか頑張って育ち、せっかく咲いた花である。ともに季節のおとずれを祝福してやらねばなるまい。

なかでも香りのいい花は、五感のうち二感も使って楽しむことができ貴重である。香りをたどって見つけやすいし、花の香りで季節を感じるなんて風流ではないか。

 

この記事では、筆者が路上や公園でふだん目にするいい香りの街路樹のなかで、特に遭遇率の高いものと、遭遇率はやや低めだが「香りがよすぎるからみんな見つけてくれ」と願っているものについて紹介する。

実際に見つけていただきやすいように、季節ごとに分けて見ていこう。

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春の香り(3〜5月ごろ)

3月のはじめごろ、路上で花の香りを感じると「長かった冬が……やっと……!」と感極まってしまう。春は街路樹にも野草にも香りのいい花が多いが、筆者の行動範囲内でよく目にする(鼻にする?)ものがこちらである。

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路上を歩いていて、急に強い香りに襲われ「どこからだ!?」と追ってみたらジンチョウゲだったことがたびたびある。香りを追って迷子になったこともたびたびある。

香木の沈香のような香りに、スパイスの丁子の形に似た花が咲くことが「沈丁花」と書く名前の由来らしい。

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他の花と比べてやや高いところに咲くため、風に乗ってきた甘く上品な香りで気が付くことが多い。小学校の近くによく植わっているイメージ。

独特の形の実がなり、小学生時代の筆者は「わさび」と呼んで民家の壁ですりおろしていた。

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河川敷や公園など、サクラが集まっている場所はセーブポイントになりやすい。品種によって香りの強さが違うため、当たったらラッキーな香りガチャとして楽しむのも一興かもしれない。余談だが、桜餅の芳香成分の名前は「クマリン」というらしい。くまりん……。

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いわゆる「桃の花」。サクラとの見分け方は、花びらの先端が尖っている(割れていない)ことと、花の根元から枝までの距離が近いことだそう。

桃の節句ことひな祭りが有名だが、かつては「桃花酒(とうかしゅ)」といって、清酒に桃の花を浮かべて飲むならわしがあったそうな。風流〜!

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桜の季節に咲いている、ムーミンのニョロニョロみたいなやつ。小さな白い花が集まっていて非常にキュート。風にただよう可憐な芳香はスイートでやや青く、THE 春の香り。

全然関係ないけれどニョロニョロって本当は「ハティフナット」さんて名前らしいですね。本当に意外です。

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風に乗ってきた香りで植物の存在に気づくとき、「香りのニュータイプだな」と思う。

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夏の香り(5〜9月ごろ)

春の花が甘酸っぱく可憐な香りを持つのに対し、夏の花には勢いがあり、全力で殴ってくるようなものが多い気がする。さっそく紹介していこう。

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観賞用、園芸用としてよくホームセンターなどに出回るが、街路樹としてもりもりに植えられたクチナシを見つけられたらラッキーだ。ジャスミンにやや似たエキゾチックな香りは、「ガーデニア」の名前で香水にも広く用いられている。

花が咲く頃には、ほぼクチナシしか食べないというふしぎな生態の蛾、オオスカシバを観察することができる。成体のオオスカシバはとんでもなくオシャレな姿をしており、筆者の推し虫(おしむし)である。

ちなみにクチナシの花言葉は「とても幸せです」らしい。誰視点なんだ。

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躑躅←これはツツジ。蠟燭←こっちはロウソク。

街路樹としての遭遇率がとても高く、密集して咲くため香りのチャンスタイムが多い。筆者の主観だが、学校のプールみたいな匂いがすると思う。

小学生時代はツツジの蜜を吸おうとしてうっかり蟻を吸っていた。

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画像はハゴロモジャスミン。エキゾチックで甘い、特徴的な香り。

ジャスミンの街路樹はあまり多くないが、市街地で柵に巻きつくハゴロモジャスミンをよく目にする。こちらも目の前を通るたびに、何かに攻撃されているのか?というくらい強い香りに襲われるが、梅雨の長雨で散ってしまい儚い。

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ミカン、ハッサク、ユズ、レモンなど。果実よりも柔らかく、みずみずしい香り。

住宅街を夏に歩いていて、風に乗って爽やかな香りがしてきたら、だいたい柑橘のなんらかである。なぜか夜のほうが香りが強い気がする。

余談だが、民家の庭になっている柑橘の多くが収穫されずに放っておかれているのはなぜなのか、ずっと気になっている。ピンポーン!すみませーん!あの夏みかんみたいなやつもがないんですかー!?もらってってもいいですかー!?だめですかー!?

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秋、冬の香り(10〜2月ごろ)

秋〜冬はメインターゲットである虫が少ないからか、香りの強い花が少ない。この季節は視点を変えて、紅葉を眺めたり、落ち葉を踏んだりして春を待つのもいいかもしれない。

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秋の花といえばこれである。黄色い可愛らしい花が無数に咲き、遠目から見てもなんだかゴージャス。その上風に乗って家の中まで香りが届く。

年中この香りを楽しみたいという方には、中国茶の「桂花茶」がおすすめ。なんとキンモクセイの花100%のお茶である。そのまま飲んでも、好きなお茶にブレンドしてもいい香りが楽しめる。

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漢字で書くと蝋梅。花びらのツヤが蝋をかけたようであることや、旧暦の12月にあたる臘月(ろうげつ)に咲くことが名前の由来らしい。ただし、

ロウバイ→クスノキ目ロウバイ科
ウメ→バラ目サクラ科

でウメとは別物。ややこしいやつめ。

個人的にはジャスミンをもう少しスモーキーにした香りと思っている。

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ウメには花の観賞を目的とした花梅と、実の収穫を目的にした実梅があり、実梅の花の開花は春頃だそうな。おまえもややこしいのかい。

3月はじめのようやく寒さがゆるんだ頃、住宅街を歩いていると突然いい香りに襲われ、振り向いたらウメだった…ということがよくある。近くでかぐと梅特有の甘酸っぱい香り。

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できるだけスマートに観賞したい

いい香りを存分に楽しみたい気持ちはあるが、路上である。

街路樹にずっと顔を埋めている人がいたら心配になるし、公共の植物をひとりじめするのはよくない。

街路樹を観賞する際に筆者が意識していることを、心得としていくつか挙げておこう。

 

心得その1. 植物のメインユーザーは虫 

香りを楽しもうとするとついつい顔を近づけてしまうが、路上の植物に近づく際は注意が必要だ。花の香りは人でなく虫を呼んで、花粉を運んでもらうためのもの。つまり想定しているメインユーザーは虫である。季節によっては刺したりかぶれたりする虫がいることがあるし、自分が思わぬアレルギーを持っていることもある。なにより、花や葉を傷つけてしまわないように、注意深く観賞しよう。

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こいつら以外にもいろいろいるから気をつけよう。

心得その2. ある意味一番怖いもの→通報 

香りの良い花は庭木としても人気が高い。花の時期は目の前に立ち止まって深呼吸したくなるが、人んちの庭木は人んちのものである。家の前にずっと立ってる人がいるな……と不審に感じさせてしまわないよう、気をつけたいところだ。

 

心得その3. 「花かぐ人注意」の標識はない 

後ろを確認せず、路上で急に立ち止まると危ない。「お花の香りをかいでたら轢かれました」なんてエレガントな事故は絶対に避けたいところである。

「花の香りをかぐ」のロマンチックさをどうにかしたい

普段から街路樹観賞をエンジョイしている筆者も、花の香りをかいでいるところを人に見られたらと思うと、なんだか恥ずかしくてためらってしまう。堂々とかげばいいはずなのに。

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自意識としてはこういうふうに見られているんじゃないかと不安である。

「花の香りをかぐ」という行為の謎のロマンチックさはなんなのだろう。もっと自然で気軽な動作として日常に落とし込めないだろうか。花のスマートなかぎ方について考えてみた。

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開き直ってロマンチックなポーズでかいでみたら恥ずかしくないのかと思ってやってみたら、普通に恥ずかしかった。
※真冬に撮影しているため、想像上の花の香りをかいでいます
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ロマンチックなポーズは5m離れるとロマンチックじゃなくなる
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「かがむ」的な、普段あんまりしない動作が入るから違和感があるのかな
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足元に犬ちゃんでもいたらいいのにな

逆に、日常的な動作から離れてしまえばいいだろうか。

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日常であんまりしない角度

うーん

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日常であんまりしないポーズ

?????

むしろ怪しいな。

そうだ。小心者に必要なのは「擬態」だ。
何か他のことをしているフリをして、さりげなく花の香りを楽しめば良いのだ。

ゲームに熱中している人風

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あ〜チコリータってなんでこんなに捕まらないのかな〜!あ〜〜!(大きく息を吸いながら)

これなら「歩きスマホは危険かと思って!道の端に立ち止まってゲームをしています!」という大義名分ができる。誰に対しての大義名分かというと、自分に対してである。

スマホでゲームをしないという方に、こちらはいかがだろうか。

イヤホンが見つからない人風

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イヤホンないな〜〜
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あれ〜〜鞄に入れたと思ったんだけど〜(スーーーーーー)

実際イヤホンが見つからなくて路肩によること、あるから。

視覚的にも花を楽しみたい場合はこれ。

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#季節を楽しむ #ファインダー越しの私の世界 #いまめちゃくちゃ深呼吸してます

なんとなくだが、「花の香りをかぐ」と「花の写真を撮る」では、後者の方がハードルが低いような気がする。嗅覚よりも視覚のほうが、季節を楽しむ器官として普遍的なのだろうか。

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やっぱり、別に恥ずかしいことじゃないぞと気付けるのがいちばんいい気がする。

「花見」という言葉があるくらい、花は視覚的に楽しむことを意識されがちだ。この記事を書きながらも「香りに焦点を当てて花を楽しむこと」にあたる、ちょうど良い言葉を知らないことに気がついた。みんなが少し立ち止まって、花の香りを楽しむようになってくれたらいいのにと願うばかりである。

まばたきをしているうちに春がくる。限られたおそと時間、いい香りの花を追いかけながら歩いてみてはいかがだろうか。

あなたの地域に咲いているいい香りの花も、ぜひ教えていただきたい。

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