特集 2019年10月21日

ポケベルの葬儀に参列した

1990年代にブームとなった無線呼び出しサービスのポケットベル(ポケベル)。そんなポケベルが9月30日にひっそりサービスを終了した。

サービス終了前日の29日、東京・秋葉原では「みんなのポケベル葬」がしめやかに行われた。

え、何それ。

生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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ポケットベル(ポケベル)は特定の手順によって、電波で小型受信機(通信機器)に合図を送る通信機器で、1990年代にブームを迎えた。

実物を見たことも触ったこともない私は、ポケベルは“過去の遺物的なアイテム”だと思っていた(ごめんなさい)。なので、いまだにサービスが続いていたことにまず驚いた。どうやら関東のみで1500回線が主に医療関係の現場で最近まで使われていたのだとか。

そして、2019年の9月末にその役目をひっそり終えた。この記事は、ポケベル葬に密着したレポである。

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「ポケベル葬」当日。

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東京・秋葉原のビルの下で、プラカードを持って立っているメイドさんと出会った。秋葉原でメイドさんはよく見る光景ではある……が、持っているプラカードの文字がおかしい。「みんなのポケベル葬」と書いてある。「みんなのポケベル葬です。どなたでも献花できますのでどうぞ」と誘導されるままビルの方へ向かう。

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階段を上るとビルの下にテントが立っており、中には葬式で見る黒と白の鯨幕がかかっている。かなり違和感を覚える光景だ。

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テントの中を覗いてみると、そこにはにっこりと微笑む遺影が……なんてことはなく、「1141064(愛してるよの意味)」が表示されたポケットベルの画像が。なんということだ。私の知る世界には電化製品を弔う文化がない。私は、夢でも見ているのかもしれない。

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勧められるままに献花を行う。白いカーネーションというのは、献花の際によく使われる花なのだそうだ。白いカーネーションとメイドさんの黒く塗られた爪のコントラストが印象に残る。

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献花を終え、故人(ポケベル)を偲ぶ。何これ????????????????

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献花を終えた後はメイドさんが手紙をくれた。なんだろう?

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葬儀のお礼の挨拶とおきよめの塩だ! すごくちゃんとしている。それにしても普通の告別式でこんな浮かれた構図で写真を撮ることがまずないから本当に何これ? きよめの塩を受けとった後は、メイドさんからコーヒーをもらった。

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秋葉原のど真ん中で行われていた式に、通りかかった方々も「なんだろう?」と近づき、次々と献花をしていった。今回、私は開催の2週間ぐらい前に秋葉原で「みんなのポケベル葬」のポスターを見かけ、事前に知っていたので辿りついた。だけど、仮に知らなかったとしても絶対気になって近づいていたと思う。それぐらい異彩を放っていた。

誰が何のためにやったんだこの式は……。

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鳥越葬儀社の渡邊幸次さん

東京都葬祭業協同組合の青年部で今回の「みんなのポケベル葬」の担当、渡邊幸次さんにお話を伺った。渡邊さんの本業は葬儀屋さんである。ちなみに渡邊さんはポケベルは馴染みのある世代ではないそう。「葬祭」と「秋葉原」と「ポケベル」。全く結びつかなかったので、まずは素直になぜこのような式を秋葉原でやろうと思ったのかを聞いてみた。

 

何故ポケベルを弔おうと思ったか

――電化製品を弔うという発想が自分にはなかったのですが、率直に何故ポケベルを弔うことになったんでしょうか。

渡邊さん:9月30日にポケベルのサービスが終わるのですが、自分たちの業界っていうのは、常に連絡が取れないといけない業界なんです。出先でも電話は繋がってなきゃいけない。“待機している状態”といいますか。葬儀業者ってそういう業種なので、ポケベルが出た時も皆さん早めに使用されてました。

――不幸は突然に起こるものだし、考えてみるとそうですね……。

渡邊さん:出先ではポケベルを持っていて、ポケベルが鳴ったら公衆電話ですぐ折り返すという使い方をしていて、業界としてたくさん使わせて頂きました。そんなポケベルに私たちとして何か恩返しできる事はないかと模索した結果、私たちは葬祭業者なので「葬儀で皆さんとお別れする場を設けよう」ということになりました。

――ポケベルと葬儀業者って、意外と縁が深かったんですね。

渡邊さん:昔はずっと会社内にこもっていなきゃいけない業種だったんですが、葬祭業者が外に出かけられるようになったのはポケベルがひと役買っていただいたんですね。携帯電話普及後はみなさんそちらに移行しましたが。

ポケベルを偲ぶ場所も電化製品の街秋葉原がいいよねとなり、アキバならメイドさんに協力してもらおうとアキバ絶対領域(メイド喫茶)さんにもご協力いただきました。今回のこういう機会を通じて、きっと献花をするのが初めてな方もいらしてるでしょうし、葬祭業者として日本の葬儀の文化に触れてもらえばという気持ちもあります。

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アキバ文化と日本の葬祭文化が融合した結果が目の前の光景。白と黒を基調としたメイドさんは、不思議とこの葬儀の雰囲気にマッチしていた
 

私は献花の機会ははじめてだった。まさかこんな形で献花を行うとは……。

あとはメイドさんたち可愛らしいし、弔う対象が電化製品とはいえガチで「葬儀」の雰囲気を作り上げるとどうしてもムードが重くなってしまうのを、メイドさんが程よく打ち消す緩和剤になっていた。メイドさんってすごい!

 


わかったこと:メイドさんってすごい

ポケベル葬は2時間半で約300人が参加したそうだ。みんな、ポケベルと存分にお別れすることができただろうか。今当たり前のように使っているスマホも、ポケベルの時のようにより便利なものが生まれて使わなくなる時が来るのかもしれない。電化製品を弔うという発想は今まで自分にはないものだったが、「スマホ」というものとお別れする時が来たら自分は何を思うのだろうと少し考えてしまった。

 

取材協力:東京都葬祭業協同組合

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