竹芝にもよく分からないものがあった
そう言えば竹芝のデッキには、舟へんの漢字のタイルが散らばっているゾーンがあった。
空港は、飛行機に乗らなくても楽しめる場所だ。テーマパークのように何でもある。
では船乗り場はどうだろうか。乗り場そのものを楽しめるだろうか。東京の大きなフェリーターミナルである、竹芝客船ターミナルと晴海客船ターミナルを楽しんできました。
飛行機に乗る用事がなくても空港は楽しいところだ。飲食店が充実していてターミナルを一望できるデッキがある。羽田空港にはプラネタリウムまであるらしい。
たくさんあった。飛行機にただ乗るための場所ではないぞ、という気持ちが伝わってくる。みんな空港が大好きである。
空港はいいところだ。間違いない。
では、船乗り場はどうだろうか。空への玄関がいい場所なら、海への玄関はどうなのだろうか。船移動に縁遠いので本当にぼんやりしたイメージしかない。
東京の大きなフェリーターミナルである、竹芝客船ターミナルと晴海客船ターミナルに行って船に乗らずに楽しんできました。
伊豆諸島、小笠原諸島への玄関口である竹芝客センターターミナル。山手線の浜松町駅から少し歩いていくとある。アクセスが良くてなんだか混乱する。
空港に行くと、空とターミナルの様子を眺めるけど、船の場合は見える限りの海を眺めることになる。気の利いた感想を言おうとすることができなくなり、ひたすら「海だなー…」と思う。
海への感想なんてない。だってレビューサイトに「海」があっても星なんかつけられないだろう。「開放感はあったけど少し匂いがきつかったです。次への期待を込めて星3つ」とか言える人がいたら、その人は相当ハートが強い。
デッキを堪能したら待合所の中に入ってみる。
船乗り場は空港ほどテーマパーク的ではない。もっと人の生活に寄り添った場所なのだ。併設されているビルにレストランはたくさん入っているけど、待合所はバス停のように朴訥としている。
来たタイミングが船の発着のない時間だったのか、イスに座り放題であった。僕は空いたイスが多い場所が好きだ。デパートでも電車でもイスがたくさん空いていると、いつでも座れるぞ、という安心感から気持ちが落ち着く。
「あー、イスが空いてるなー…」と思うのだ。
海を見る時と似たような気持ちで、たくさんの空いたイスを見た。
竹芝のターミナルで楽しみにしていたものがある。べっこう寿司である。
伊豆諸島の家庭料理で「島唐辛子と醤油で魚を漬け込み、刺身がつややかなべっこう色に染まることからその名前がつきました」とのことである。(お店の箸置きに書いてあった説明より)
立て続けに5回読んだ。こんな隅から隅までおいしそうな説明があるか。
野菜のポトフとトマトの天ぷらがつく。はしゃいでビールも頼んでしまった。
こんなにテリテリながらあっさりした味で、島唐辛子で食欲が刺激されてスイスイ食べられちゃうお寿司だった。魚のおいしさが生ハムみたいにギュッと圧縮されていた。
島唐辛子と醤油なんかに漬け込むからこんなすごいことになったのだな、と思った。
べっこう寿司は本当にいいものでした。
待合所にはおみやげ屋さんが二つあり、片方には伊豆諸島、小笠原諸島みやげが売っていて、もう片方には東京みやげが売っている。
サイダーを飲む目の前で、老夫婦が海の方を指差しながら穏やかに何かをしゃべっていた。散歩でここに来たのだろう。
「すこやかフレーバー」が気になって買った。後日飲んでみたが、香ばしくて優しい香りのするお茶だった。匂いを嗅いで「すこやか!」と思ったことがないので「これがすこやかなフレーバーか!」と学習できた。
竹芝を堪能したので、続けて晴海客船ターミナルへ向かう。晴海のターミナルは国内外の豪華客船が行き来する乗り場らしい。
着くと、赤い棒が何本も立っていて、その奥に大きな階段と建物があった。
文字にすると夢の中の映像みたいだが、実際にそうだったのだ。こちらも混雑のタイミングとうまくずれたのか人が全然いない。パキッとした情報しかない幾何学的な景色が広がっていた。
「バスを降りると赤い棒が何本も立っていて、その奥に大きな階段と建物があります。階段を登ると海が見え、そこにあなたを待っている人がいます。それはどんな人ですか?」そういう心理テストみたいだ。待っている人は、あなたが理想とする人物です。
イスがたくさんある。たくさんの人が座ることを想定したスペースに誰もいない。
あとで調べたら、イベントがある時や船が発着する際は混雑するらしい。そのタイミングを外して行けば、どくさいスイッチを押しまくったのび太みたいな気持ちになることができる。貴重な経験ができるお出かけスポットである。
小さいビッグサイトは近づくとこんなものだった。説明がどこかに書いてあるのかなと思って探すが何もない。ただ四角錐が静かに下を向いている。「なんだこれは」と思うのだが誰もいない。
この日は設備のメンテナンスで行けなかったのだが、この建物から埠頭の方まで行くと「風媒銀乱」というオブジェがある有名な撮影スポットがある。夕暮れ時が狙い目らしい。
人のいなさに動揺して注目し損ねたが、東京オリンピックの選手村の建設の様子も見れたりする。「村」を作っているとは思えない大規模な工事が見られる。
空港では、こんなに広々とした場所で写真を楽しめるところはなかなかないと思う。
「風媒銀乱」見たかった…。人のいなさもすごいけど真正面から写真を撮りに楽しみに来るのがいい。冬の平日は夕方に施設が閉まってしまうので、夜景を撮りたい方は注意してください(施設外なら23時までいられるみたいです)。
まとめると、竹芝客船ターミナルはべっこう寿司がおいしくてデッキが広い船乗り場で、晴海客船ターミナルは(タイミングがよければ)人のいない最高の写真撮影スポットだった。散歩なら竹芝、写真なら晴海がいいと思う。
竹芝客船ターミナル
晴海客船ターミナル
家に帰り、空港が楽しいところだと強く認識している妻に船乗り場の良さについて説明してみた。
「珍しさで言ったら晴海はいいけど、無難に楽しみたいと思ったらやっぱり空港がいいよね。でもべっこう寿司おいしそうだね…。」
このあとは自分のスマホでべっこう寿司について黙々と調べていた。写真が趣味でない人の反応はこんな感じである。
確かに空港にはなんでもある。無難に楽しめるだろう。しかしあの心理テストみたいな風景は、晴海客船ターミナルにしかないのだ。
そう言えば竹芝のデッキには、舟へんの漢字のタイルが散らばっているゾーンがあった。
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