週末の刑務所文化祭は明日への希望である
ツアーの最後には出所券を出して出る。中、大変そうだな……という思いが残る。そしてつぎにつづくのは明日からは真面目に生きようという思いである。
これか。これを目当てにみんな毎年プリズンアドベンチャーに行ってるのではないだろうか。おおっぴらには言えないが、少しだけ前向きな気持ちになれるアドベンチャーツアーである。
府中刑務所の文化祭ではパンが人気だという話は聞いていたが刑務所見学ツアーもあるらしい。その名も「プリズンアドベンチャー」だ。冒険だ。
一気にアトラクション感が増してきたろう。ビッグサンダーマウンテンとホーンテッド・マンションの間にあってもおかしくないだろう。
名前のミスマッチさだけで行ってきた。
東京拘置所の矯正展にDA PUMPが来てすごい騒ぎになったらしいよとか府中刑務所の文化祭はパンが大人気らしいよとかちらほら話は聞いていたが行ったことはなかった。
開始30分が経った10時半ころに来たがかなりの人数がいる。毎年1万人くらい来るらしい。何かお目当てものもが買えたのか、もう帰ってく人もそこそこいる。
刑務所の文化祭ということだが何年も開催されていてこの人気、内容も充実している。
消防や警察、ミニ動物園などの子供向けアトラクションはあるし、ステージでは有名人が来たりする。基本的には刑務所の紹介なので刑務所作業品の屋台がたくさんあったり展示もある。
なかでも人気なのが刑務所内で焼かれたパンと、刑務所内と同じレシピの麦飯弁当。パンは2個で100円と破格だが、弁当は800円と駅弁みたいな価格帯である。
お弁当だけ先に買っておいて、お目当てのプリズンアドベンチャーを見に行くことにした。文化祭が行われている場所は官舎の前であって刑務所の中ではないようだ。
奥に、奥に、と進んでいくと行列ができていた。ざっとかぞえてみると500人以上がプリズンアドベンチャーを今か今かと待っている。
こんなに多くの一般市民が休日に刑務所体験をしに行ってるのか。そして自由に選択をした仕事に戻る平日へと戻っていくのだ。
行列の先には受付があり、名前を書くとチケットがもらえる。チケットには「出所券」そして「帰りの出所券となっています、捨てないでください」と書いてある。
扉から入場すると中に分厚いコンクリートのぶ厚い壁。井の頭公園のリス館も逃げ出さないように二重扉になっていたなと思い出す。しかしここは高さ4mくらいあるコンクリに囲まれている。これだけ高いコンクリに囲まれた場所というのはそうそうない。格闘マンガに出てきそうなぶっそうな場所である。
ツアーのアナウンスが始まる。スピーカーから声が聞こえてくるが、反響で聞き取りづらい。音楽を聞かせるような目的では使われてないものなんだろう。
「出所券」と書かれた入場券についても「大切なものですのでなくされないでください」と説明があった。「みなさまが出所される際に」と「出所」の言葉が出たときにドッと笑いが起こった。
「また万が一なくされた場合は…」とつづき、みんな息を飲む。なくしたら投獄もありうるかもしれない…と恐々としたが、実際は「身分証のコピーをとり手続きがありますので…」とちゃんとめんどうなことになるという別の恐怖だった。
ゴゴゴゴゴと前方の扉が開く。大きな空間が広がっている。
ちょっとした別世界がここにある。こんなところにこんな世界があるのかという仮想世界に入ったような感じだ。
しかしここで暮らすんだなという気になってみればすぐに「狭い」という感覚がわく。脱獄ものの映画の冒頭がこんな感じだ。
あらゆる装飾が簡素で物が少ない。これぞ殺風景という印象だ。いい天気な分対比でよけいに感じる。
「運動会できるんだー」と声が上がってる。運動会の写真が飾ってある。顔がわからないようにぼかしがかかっている。
非常ボタンがあんまりこんなところにないなという位置にある。いや、そもそも日常に非常ボタンはそんなにないか。
順路にしたがって歩いていくと、第四、五工場に入っていく。ミシンがある。ここで作業品を作っているようだ。床はリノリウムでつるつる。机は年季が入っててるしどこも装飾がない。
「今できることを一生懸命がんばろう」と張り紙がしてあって、ツアー客はそこを口に出して読んではウケている。標語の重みがちがう。同じ張り紙がここの他の工場でも貼ってあった。
「無事故で社会復帰」とも書いてある。工場の定番標語にひと味刑務所テイストがたされている。運動休憩と書かれた札が他にあんまりないものでリアルである。
トイレの個室にも窓があって見えるようになっている。そういえば刑務所の中はだだっ広くて見通しがよく、見えないところがないようになっている。
工場の他には浴場や体育館の見学がある。浴場には受刑者用にルールが書かれている。体を洗う湯水は一人12杯までと書いてあったりもみあげの剃り方まで。
ツアー途中には刑務官がいて、参加者はめいめい質問をしている。みんな興味津々でモチベーションが高い。どの刑務官にも質問者がいるほどだ。モチベーションが高すぎる!
刑務官が受刑者を「中に入られる方が」という丁寧な言い方をしている。中に入ると怖いんだろうなと逆に感じる。
体育館を出ると「将軍の孫」という像がある。3歳の子供が祖父の将軍のヘルメットをかぶったユーモラスな像だ。「前は入り口のところにあったんだけどこんなとこに来ちゃったのね」と来場者が言ってる。……どうやらプリズンツアーのベテランがいる! 一回知ったらまあいいか、という世界ではないのか。
体育館には防災用品の展示があり、水や電気を自分たちでまかなうための装置だった。何が起こってもここからは出せないのだろう。
Paix2というアーティストのポスターが貼られていた。刑務所慰問を中心に活動している人たちがテレビで取り上げられていたが、この人達だ。
体育館を出た中庭の植栽が手入れが行き届いていてきれいだった。そして地面にゴミが極端にない。ゴミを落とすこともなければ、掃除をする時間はたくさんあるのだろうなと思う。
他には自動車を整備する工場だったり、仮釈放が決まったあとで過ごす一般生活に近い棟だったりを見る。しかしふだん暮らしている「居室」というのは見せてもらえない。一番見たいのはそこだ。
ツアーの最後には出所券を出して出る。中、大変そうだな……という思いが残る。そしてつぎにつづくのは明日からは真面目に生きようという思いである。
これか。これを目当てにみんな毎年プリズンアドベンチャーに行ってるのではないだろうか。おおっぴらには言えないが、少しだけ前向きな気持ちになれるアドベンチャーツアーである。
来週にはいよいよきたろうさんも出るコント公演がはじまります。稽古に来てくれたんですが草野球にプロの4番が来た感じでした。
明日のアーvol.4『観光』
11/22~25@VACANT(原宿)
■出演:
大北栄人(明日のアー主宰)
桑原美穂(左右 Vo.Gt)
7A(モデル・ラジオDJ etc.)
花池洋輝(左右 Vo.Ba.)
張江浩司(ハリエンタル/来来来チーム Dr.)
藤原浩一(デイリーポータルZ 編集部)
宮部純子(俳優・五反田団/青年団)
八木光太郎(俳優・GERO)
吉田靖直(トリプルファイヤー Vo.)
よシまるシン(イラストレーター)
■ゲスト出演:
きたろう(俳優・シティボーイズ)
【チケット発売中】
http://t.livepocket.jp/t/asunoah_kankou
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