様々なジャンルの食品が製法をアピールしている
スーパーの棚を丹念に回り捜索したところ14種類の食品パッケージに「〇〇製法」という表記が見つかった。
印象としては、飲料と飴に多い。ただマヨネーズ、ジャム、インスタント麺などからも発掘され思った以上に多岐な食品ジャンルが製法をアピールしていることがわかった。
製法で訴求するのは食品を売るうえではかなり正攻法ということなんだろう。
製法自体がおいしそう、というまさか
では、なぜメーカーは製法で推すのか=なぜ私たちは製法に魅力を感じるのかを、調達した食品を見ながら考えていきたい。
普通に考えたら私たちは食品を買うときに作り方を重要視することはないんじゃないか。
おいしいものが欲しいのであって、「こういう作り方をした」ということに魅力を感じるものなのか……。
という疑問をさっそうと取り払ったのがこれだった。
う……うまそうじゃねえか……。
おっと、つい、このひと山賊なのかな? みたいな荒れた言葉づかいになってしまった。発話が山賊になるくらいおいしそうな製法だ。
私たちはいつだったか居酒屋でわざわざオレンジやレモンを自分で絞ることにありがたみを感じたころがあった。
製造過程において何らかを生で抽出することに我々はめっぽう弱いのだ。まさにその過程を製法としてアピールしたのがこの「生オレンジ抽出製法」だった。
同様に、この商品の製法もわかりやすく美味しそうだった。
製法うんぬん以前に、カレーのふりかけあるのか……という「へえ~」が際立つ商品だが、スチームでオーブンというのは、なるほど調理工程として美味しそうさが強い。
調理工程ですでに「美味しそう」だと感じさせる工程がそもそも存在するのだ。
製法がおいしいと叫ぶ
なるほど製法自体がおいしそうであればパッケージに載せる意義はありまくりだな……と思ったところで、それ以上においしさについて饒舌な製法もあった。
製法がおいしそうだったのから一転、製法名でおいしいと伝えてしまうパターンだ。
製法に名称を付けるということにより、製法自体がこれはおいしいですよと語りだした。そんなのありか。
こちらもそれに近い。
香ばしくてリッチな味わいになるように作っています、ということだろう。
それがどんな製法なのかは説明せず、結果を伝えてしまうのだ。
しかし確かにこうして「香ばしリッチ製法でやらさせていただいてます!」と言われると、メーカーさんも日々努力なさってんだろうしなあ、うまいことやってんだろ、と納得せざるを得ない。
それが何かは言わないが加速する
説明せずに結果だけをバーンと伝える製法になるほどと思わされ頼もしさを感じたところで、さらにいよいよ説明がないパターンも見ておきたい。
何も教えてくれないのだ。
純粋なはちみつを固形化した。特殊な製法でだ。どんな製法かはお前は知らなくていい、おれに任せておけば大丈夫だという、これはもう圧倒的な自信と言っていいだろう。
自信のある人のところに人は集まる。そういうことだと思う。
こちらは状態をそのまんま「製法」として伝える、というパターン。
商品名でもそのまま真ん中にマヌカハニーが入っていることが大事なようだし、とにかく中に入れた! ということを言いたいのだろう。
よきように作っておきました! という、うまいことやっといたぞ、ということが、なるほどビシビシに伝わる。
わからないけどなんか美味しそうな製法
さてもう一度、出発地点であった、製法自体がおいしそう、とうところに視点を戻したい。
生オレンジから抽出する、スチームオーブンで焼いた、というのはやっていることとして想像しやすく、美味しそう! というイメージにつながる製法だった。
そんなわかりやすい美味しそうさを残しつつ、ちょっとした手の届かなさ押し出す製法がいくつかあった。
レンジで温めるとすぐに食べられるパックの白飯だ。どうやら二段階で加熱して作っているらしい。
よくは分からない、が、なんだかすごそうだ。
「よくわかんないけど」という私に優しく丁寧な解説もあった。おお……なるほど……。ここまでやったら美味しそうだ。
そうだ、これがそもそもの「〇〇製法」としてのアピールの本質ではないか。
家ではできないすごいことを工場でやってる! というわくわく感がここにはある。
ご飯でそうなのだから、鰹節のようなどうやって作ってるか分かっているようでわからないものはいよいよ気を吐いていた。
熟成させるのだ。しかも普通の温度じゃない。氷温で、だ。
これも製法特許を取っており、氷温というのは鰹が凍る直前までの温度帯なのだそうだ。なるほど。そんなこと、絶対家じゃできない。買いだ。
フルーティー×なんかすごい
なんだかすごいことをしているようだぞというのを効率的に知らしめるのが製法表記だった。その存在理由を十分に感じたところで、フルーツに目を向けよう。
美味しそうさはフルーツに宿る。
一番最初に紹介した「生オレンジ抽出製法」にも痛感したフルーツの強さ、そこに「なんだかすごいことをしているようだ」がプラスされた製法がちょうど二つあった。
かなり小さな表記で瓶にはこれ以上のことが書いていなかったため検索してみた。
アヲハタのサイトに発売時のリリース文があり、そこに詳細がかなり詳しく書いてあった。
それによると、香り戻し技術、酸素濃度低減技術、総加熱量低減技術の三つが組み合わさったものを「ファインフルーティー製法プラス」と呼んでいるそうだ。
……すごい!
「なんかすごい」が100点だ。
お時間のある方はぜひリリースを読んでみてほしい。企業努力に次ぐ企業努力の感である。
フルーツの勢いは止まらない。さらにこちらも。
ファインフルーティー製法も、フルーツクオリティ―製法も、一見なんも言ってないような「フルーツはいいぞ!」みたいな「がんばるぞ!」みたいなネーミングのように読めてしまったが、内容をよく知るとめちゃめちゃに仕事をしていた。
おそらく、フルーツ本来のよさを引き出し加工するのに工夫のやりしろが大きいのではないか。
製法はどうやら思ったよりも雰囲気だけのものじゃないようだ。「なんかすごい」にしっかりとした裏打ちがある。
「なぜ我々は製法に魅力を感じるのか」を調査していたが、製法を調べることにより普通にぐんぐん製品のすごさを知ってしまっている。
ミイラ取りがめっちゃめちゃミイラになってるパターンだ。甘んじてミイラになっていこう。フルーツに並び、乳製品にもこの傾向は見られた。
ミルクの良さを最大限に引き出し飴化せんとする気概が伝わる。そして「エクストラ」という部分に注目だ。ちょっと必殺技っぽいと思いませんか。
この必殺技っぽさが拡張するとこうなる、というのが次の項だ。
「なんかすごい」が極まって必殺技レベルに
実は個人的には製法表記界のエースはここまで紹介してきたようなものではない。
「何言ってんだかいっこもわかんないやつ」
それが私の思う製法表記の醍醐味だ。このタイプは総じてかなりかっこいい。
たとえばこれ。我が家ではケース買いして切らす前に次を補充するくらい愛飲している豆乳の製法がかっこいいんだぞ。
なんだろうな、それは。
しかし分からないからかっこいい。ヒートダメージを可能な限り抑えたという畳みかけも外資系の会議みたいな分からなさで最高なのだ。
「エマルション」を検索したところ「分散質・分散媒が共に液体である分散系溶液のこと」と出た。
完全に授業についていけてない感じになってきた。良い。
「チリング」も「エマルション」も聞いたことなさがすごかろう。
「二段階加熱製法」くらいだと、ああ、二段階で加熱しているんだなあというのが分からないなりに伝わるが、スーパー・チリングまでいくと何もわからない。
ただ高鳴るパッションだけは伝わる。
どれも調べると確かな技術の粋の集まりを感じさせる製法であるのには間違いなく、難しい方法で作っているというのがことのほか購入者を奮わせるものなのかもしれない(私が奮った)。
おなじみ商品の文字の小さな必殺技
ここまででおおむね、企業側が製法をアピールし購買者が製法をアピールされる意義が見えてきた。
・製法自体がおいしそう
・製法名がダイレクトに「おいしいです」と訴える
・家ではできない手の込んだ作り方をしていることを知らす
・いかに果物をがんばって加工したかを知らす
・かっこいい名前ですごいことをしていると知らす
といったところだろうか。
最後に、おなじみの超定番商品が気づかないところで製法をアピールしているパターンを2つ見つけたのでご紹介して終わりたい。
こんなとこにも製法が! と思っていただけたら幸いだ。
超定番で飲む人は味を疑うことなく淡々と飲んでいるであろう「午後の紅茶」。
もはや「午後の紅茶」であることを訴える以上になにか言う必要もなさそうだが、それでもかなり小さく製法が書いてあった。
マイクロ・ブリュー製法。かっこいい。
もし手元に「生茶」があったら見てみて欲しいのだが、心霊写真くらいよく見ないと見えない小ささで書いてある。
最初見つけたときは「ヒッ」と声が出てしまった。
製法としてどんなに小さいフォントになっても言っておきたい一言だったのではないか。
製法はおいしそうだしかっこいい
パッケージに製法名が書いてあるなあとは常々思っており、でも考えてみたら作り方が書いてあるのって必要? などとうがった姿勢で品々を見た。
作り方自体が美味しそうだったり、かっこいい名前ですごさを伝えたりと手法もさまざまで(読めないくらい小さい文字で書いてあるものまであるとは)思った以上の見ごたえだ。
結果じゃない、過程が大事なんだ! みたいな言い方がよくある。結果こそもっとも大事だろう食品においても過程に心奮わされるの、文脈に重きをおいていていい傾向だと思った。