彗星が見えると聞いて
今年9月の後半くらいから、明るい彗星が見え始めるという話を聞いていた。
2023年に発見された「紫金山・アトラス彗星」という名前の彗星である。8万年周期で太陽の周りを回っているのだとか。
ということは今回を逃すと次に見られるのは8万年後というわけだ。申し訳ないが化石になってる。これはなんとしてでも今回見ておかなくてはならないだろう。
夕暮れ時の西の空に見えると聞いたので、日没の直前から、西の空が見える場所で張り込んだ。
この日は全体にうっすらと雲がかかっていたが、空気が乾燥していたので遠くの山並みまでスカッと見えていた。これならば彗星が現れたとしても見逃さないだろう。
そう思っていたのだが、今のところそれらしきものは見えない。
この季節、日が暮れてくると関東でもそこそこ冷える。僕は走って来たので最初は汗だくだったのだけれど、日が沈み、風が出てくると汗が冷えて足がガタガタと震えた。これから見に行く人はぜひとも温かい服装で行ってください。
彗星を見に来たのだろうか。暗くなるにつれ、周囲にギャラリーが増えてきた。
みんな携帯やカメラを片手に彗星が出ると言われている西の空を凝視しているが、いまのところ誰も何も見つけられていない様子だった。
日没からすでに30分以上が経過してあたりはすっかり暗くなった。もうライトがないと足元も見えない。彗星が出てくるのと同じ西の空には、金星がまぶしく輝いていた。
ところで彗星というのはどうやって現れるのだろうか。
時間になると地平線から上ってくるのか、それともすでにそこに存在していて、暗くなるにつれて徐々に見えてくるのだろうか。目に見える速度でどこかから視界に飛び込んで来たらおもしろいなと思ったが、天文の分野でさすがにそれはないだろう。
だとしたら暗くなった今、見えないということは、今日はもう見えないのかもしれない。
寒いしもうあきらめて帰ろうと思い、最後にiPhoneで写真を撮ったら勝手にナイトモードになって、シャッターが切れるまでに3秒くらいかかった。
なんの気なしに撮れた写真を見て驚いた。
富士山のシルエットの左上の方に、うっすらと明るい線みたいなものが写っている。これ、彗星なんじゃないの?
あわてて彗星らしきものが写っていた場所を肉眼で探すと、あった!うすぼんやりだが、かなりの長さで尾を伴って光る星が。彗星だ!
見えたぞ!紫金山・アトラス彗星
間違いなく紫金山・アトラス彗星である。
日没から30分くらい過ぎた後、夕暮れの名残がぜんぶなくなり、あたりがしっかり暗くなった頃から、彗星はぼんやりとその姿を見せ始めた。
流れ星みたいに速い速度で流れてくるわけではなく、空が暗くなるにつれてその場で徐々に明るさを増していき、いつの間にか肉眼でもはっきりと認識できるくらいに見えてくる。
そんな奥ゆかしい登場だった。
彗星を見つけるコツ
場所がわかっていれば肉眼でも見えるのだけれど、最初はカメラや携帯で撮影した方が見つけやすいかもしれない。
西の空を広い範囲で夜景モードで撮影してみる。きっとシャッタースピードがすごく遅いので、ブレないように三脚かなにかで固定した方がいいだろう。僕は三脚を持ってきていなかったので交通標識にiPhoneを押し付けて撮った。
撮れた写真を確認すると、うっすらと彗星らしきものが写っているかもしれないので、そのあたりの空を改めて目力で凝視するといい。最初は写真で確認しないと見逃してしまうくらいの淡い光だったが、一度見つけてしまえばすんなりと見えるようになる。
彗星を一生懸命に探していたら、子どもの頃に見に行ったハレー彗星のことを思い出した。
見るなら今週
子どもの頃にハレー彗星がやってきた。当時は父親にせがんでオペラグラスを買ってもらい、明け方に丘の上まで行って必死で探したのだけれど、見ることができなかった。
次にハレー彗星がやってくるのは76年後である。次までぜったい生きて見てやる、と半泣きで誓ったのを覚えている。
今回の紫金山・アトラス彗星だと8万年後。今回見逃すとあきらめるしかなくなって悔しいと思うので、見えるうちにぜひ見ておいてください。10月20日ごろまで日没後に見られるらしいです。