特集 2020年4月24日

わたしにはファッショニスタのお姑さんがいる

「ファッショニスタ」英語:fashionista
主に、ファッションの動向・流行に敏感な人、ファッションに気を配っているオシャレ上手、といった意味で用いられる語。「-ista」はスペイン語をはじめとする西欧言語において「~の人」という意味を付与する接尾辞。
(Weblio辞書より引用)

わたしの夫の母、つまりお姑さんはファッショニスタだ。意味は上記のとおり。そして、嫁であるわたしはファッションに疎い。ファッショニウトニスタとでも呼んでもらいたい(ダサいと言われると傷つくので)。
 
ほぼ同居している姑と嫁でありながら、まるで陰と陽、水属性の犬と油属性の猿と同じくらい対照的なわたしたち。さぞ女同士のメラっとした修羅場があるんでしょうねとめちゃコミックスの電子広告のような気持ちになるだろうが、いまのところそんなものはない。
わたしにとって、マウントどうこうとは別次元の、魅力的かつ未知のものだらけだからだ。ただただ面白くてカッコいい。そんな身内自慢。
 

1986年生まれ佐世保在住ライター。おもに地元の文化や歴史、老舗や人物などについての取材撮影執筆、紙媒体のお手伝いなど。演劇するのも観るのも好き。猫とトムヤンクンも好きです。

前の記事:前略、地上136mの塔の上より~針尾無線塔とともに暮らす男たち

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外でも家でも服であそぶ

お姑さん(以下:なつえさん)の家は、わが家から徒歩10秒ほどだ。近い。

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なので取材(?)時のわたしの格好はこんな感じだ。決して先方にケンカを売っているわけではない

家を訪ねる前に、それぞれのベランダを見比べた。ピーカンの青空に、ヒマラヤ山脈のタルチョよろしく、赤や黄色といった元気カラーの洋服がはためいている。なつえさんの家だ。
対して、胃に優しそうな食材の色をした洋服が静かに垂れ下がっているのが我が家だ。太陽を浴びて旨味がギュッと凝縮されているような気がする。

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なつえさん(60代)

わたしのお姑さんのなつえさんだ。日々オシャレを楽しんでいる。年齢の割に、という言い方をあまりしたくはないのだが、日本の最西端の地方で暮らす同年代の女性と比べると頭二つ分ほどファッションが抜きんでている。適当な格好できたことを少し後悔したが、妊娠中ということで大目に見てもらえたようだ。たぶん。

今日はお出掛け着ではなく“おうちで服遊び”してみたという。イメージはミレーの『落穂拾い』だ。

「よし、さっそく写真撮りましょう!」
さっそくわたしはカメラを構えた。

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わたしはこうして、なつえさんのコーディネートを写真として記録している。

ちなみに先日は、中世ナースウェアをイメージしたワンピーススタイルだった。

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ワンピースは多くのパターンを取り入れて縫製した手作り。裾の動きがかわいいし靴はナースシューズだ。かわいいし機能性が高く、リーズナブルさが魅力。蛍光イエローのバッグはフライングタイガーで購入したナップサックをリメイク。かわいい。ファッション語彙力がないわたしは既に「かわいい」を三回言っている
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撮影時に孫が乱入してくることもあるので、たわむれつつ

記録を終えたので、クローゼットを見せていただこうと自室へお邪魔した。

ときめいたから、麻薬王

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寝室の半分に衣装をハンギング

衣装は基本ハンギングで陳列するのがなつえさんのモットーだ。もちろんこのスペースだけでは足りないので、隣の4.5畳の部屋はすべて洋服部屋となっている。しかしそれでも足りないという。

さて、ここでなつえさんを何系のファッショニスタかと断言するのは難しい。特にウトニスタのわたしの数少ない語彙力では正確に表現しきれないので、ここでは避けておく。ただ、これまで見てきた中で特におもしろいと感じたアイテムを厳選したい。まずは、なつえさんが中国の通販アプリ「Wish」で購入したこちらのTシャツだ。

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“金か、銃弾か”の文字が躍る麻薬王パブロ・エスコバルTシャツと、5年前にNetflixにかじりついて見ハマった人気海外ドラマ『Breaking Bad』に登場するキケンなフライドチキン店のロゴTシャツ。

そういえば、シーズン5までの全話を数日で観終わってしまうほどハマっていたと聞いていた。わたしも主人公・ウォルターがすこぶる豹変していくさまをドキドキしながら続きを追っていたのでとても分かる。ダークヒーローものがお好きなようだ。それにしても麻薬王とは、かなりスパイシーすぎないか。ちなみに今は同サブスクで配信中の『タイガーキング』のジョー・エキゾチックに興味津々だ。
 

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Breaking Bad Heisenberg 1/6スケール  ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア
息子にもらった誕生日プレゼント。とにかく服のディテールがすごいそうだ

そういえば、なつえさんは以前、スーパーマンのオールインワンもWishで購入していた。たしか自身のサイズ(Sサイズ)を注文したところ、パッと見180㎝ほどの大物が届いたという話を聞き、さすが中華だご愛嬌だぜと思っていたのだが。

「一度リメイクしてサイズあわせをしたけど、着心地が悪かったので捨てたわ」だそうだ。

着心地がわからないのは、通販の大きな壁だ。しかも海外サイトだと判断が難しいこともある。詳しく聞いてみると「汗も水も吸わなくて肌触りが悪かったから」とのことで、たしかにそれは全裸の方がマシかもしれない。

実用性・耐久性<ときめき

なつえさんがときめくもののみが、その存在を許される。そこには第三者の目やお財布事情などは一切存在しないのだ。

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日本だということを忘れそうな空間。かわいい
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カラフルでポップなカラーを恐れず着る。いかに自分を目立たせなくしようか常に考えてしまうわたしとはやはり真逆だ
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リメイクもの、創作もの。階段のディスプレイスペースに並べてみると、もはや服の迷宮だ

なかでもバッグは、彼女の遊び心がビカビカに光っている。こんなことを言うと怒られるかもしれないが、むかし文具屋でワクワクしながらくじを引いた、超精巧なおもちゃの消しゴムのことを思い出す(文字がとても消しにくい)。だからわたしは大ファンなのだ。

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もとは服だったものをリメイクしてつくったものや、缶BOXにベルトを接着したシンプルなもの、IKEAのショッパーバッグを二重にしてトートバッグにしてみたり
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肉柄バッグ(左)。容量はスマホ、折り畳み財布、ハンカチぐらい。右のバッグは・・
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ルチャリブレ(メキシカンスタイルのプロレスリング)で使われるマスクを改造したバッグでした。こういうリブレさ(自由さ)が好きさ
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ケーキを買ったときのテイクアウト用バッグ。あまりに丈夫な素材で捨てるのがもったいなかったので、そのままアジア米の袋を貼り付けてバッグにしました
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こっちは手元にファーをつけました
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アジア米(ジャスミンライス)が入ってた袋だけど、かわいかったので取っ手をつけたよ
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水1ダースを包んでいたビニルでつくりました。耐久性?知りません(裏地はついている)
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「『Wish』で購入したスパンコールのタンクトップに金魚のワッペンをつけてみたらこんなバッグになった」とのこと
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海外の露店で見つけたチャームをね、つくった布箱に縫いつけてみたりね

作り方や素材については割愛させていただく。
なぜなら、聞いてもわからないからだ。目で見て感じてくれれば万々歳である。お判りの通り、大半は容量や耐久性など度外視である。“ときめくものに勝るものはない”のだ。ときめくものを手に入れるには、自分で作った方が最もな近道。手間暇など惜しんではいられない。ただし外観に妥協はしない。

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フライングタイガーで買った傘をああしてこうしてエプロンに。撥水性抜群。

それにしても、すべての工作系ライターさんにも思うことだが、「自分でつくる」というエネルギーがすごい。わたしには到底真似できそうもないし、不器用さを上回る情熱もない。
このなつえさんという人物は、それをかれこれ50年以上も続けているひとなのだ。

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服をつくる以外にも、家具の塗装や庭仕事などなんでもやる。もちろんコーディネートも大切だ(右に立っているのはわたしの夫です)

物心ついた時分から、女性の誰もが洋裁店を駆け回りマイミシンを駆使してあらゆるものを手作りしていた時代。
当時のミシンの振動で、日本の地盤が変化したとかしてないとか。って言いたくなるほどミシンの本気の振動ってすさまじいと思う。わたしは糸を通す段階で心が折れるし、起動して針が動き出すと逃げ出したくなるほど怖い。

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相棒のミシンでズダダダだ
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GIジョーが見守っている

それにしても、この独特なセンスと創作意欲はいったいどこからきたのか。何にインスパイアされたのだろうか。僭越ながら、なつえさんの少女時代について聞いてみた。

いったん広告です

『anan』創刊に衝撃だった1970年。佐世保米軍基地のアメリカ文化は超身近なお手本に

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成人式にて。ファーと着物姿の同級生があふれかえるなか、父親に頼んで花柄のスーツをラビットファーとベレー帽で着こなした(写真左)。30年は手つかずだが、スーツは大事に取ってある

少女なつえさんは、『女学生の友』(小学館)を愛読。その後創刊された『anan(現在はan・an)』(平凡出版/現:マガジンハウス)に猛烈にのめり込み、ファッション知識を寝食を忘れて取り込んでいったらしい。
ファッション、アート、文学、すべてがセンセーショナルかつアングラで感性がグサグサ刺激された。その後じょじょに雑誌の方向性は変わっていったが、なつえさんはセンセーショナルな感覚を抱いたまま、日本の第一線ではなく第二線の文化をガツガツと取り込んでいった。ビートルズではなくモンキーズ、アンビエントではなくラテンにラップといった具合にだ。

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1964年創刊、一世を風靡した雑誌『平凡パンチ』の表紙イラストを手掛けていたイラストレーター・大橋歩さんが描いたパンダが印刷された記念トランプ。パンダは『anan』創刊時からのトレードマークだ
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わたしがふれた最新の『an・an』。あと連想するのはカワイイ猫と占い、男性の美ボディだ。とてもじゃないがこのお話を聞いているタイミングではなつえさんにお伝えできない

また、佐世保は米軍基地が置かれている街ということもあり、アメリカ文化が間近にあった。食や遊びに加えファッションも例外ではなく、目の前でまぶしく輝くアメリカ少年少女たちのアイビールックやTシャツファッションなどをお手本にした。
1966年に創刊された10代少女向けファッション月刊誌『mc Sister(エムシーシスター) 婦人画報社(現:ハースト婦人画報社)』は、もっぱら実用書となった。

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アメリカンなコーディネートもまだまだ好き

「服がない人生は、ほぼ死よ。わたしが服を選ぶのを面倒臭がったり同じ服を連続で着るようなことがあったら、認知が入ったか死に向かっているかということだからよろしく」と語るなつえさん。そんなのよろしくない。

“服を脱ぎ捨てれば、素の自分が現れる”というイメージを抱いていたが、彼女にとっては服そのものがアイデンティティなのだ。そのため、対人関係では自分との相性の良し悪しの判断としてかなり大きな割合を占める。

身内は分身のようなものなので

そんなわけで、わたし(嫁)のファッションについてはどう思っているのだろうか。

「悲観するほど悪くはないけど、もっと明るい色の服を着ましょ。あと、頼ってくれるのは嬉しいけど、およばれ着の相談を当日一週間前に言うのはやめなさいね」

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昨年、親族の結婚式に参列したとき。ドレスはなつえさんの私物。中世ファンタジーでいうところの、ドワーフ族自慢のミスリル製だ。GoPro片手に撮影係をやったこともあって、変な意味で目立っていた。ちなみに最初は黒いフォーマルなドレスで済ませようかと思っていた

ーえっ、一週間前って遅いんですか。

「遅い!招待状が来た時に言うの。身内はわたしの分身みたいなものだから。フォーマルな場所では当然ビシッと、センス良くしてもらわないと」

ーはひー、わたしが身内で分身。思いもよらぬ嬉しいお言葉。ちょっとジーンときちゃいました。息子さんとお付き合いして間もない頃、なつえさんと三人でGUに閉店ギリギリまで居座って全身コーデしてもらったのが良い思い出です(当時は緊張で死にそうでした)。今後とも宜しくお願い致します。

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父親が遺したオーダージャケットや着物に袖を通す。背丈が似ていたのが幸いして、直しもなくピッタリだ。もちろんそれらも“ときめく”から手にしたもので、立派なDNAの1つとして息づく

好きなものをしたためたスケッチブック

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なつえさんが高校生の時、手帳代わりに使っていたスケッチブックからしばらく目が離せなかった。街の風景や歩く人々、ファッション、食べたもの、印象に残った一コマがイラストや文章で記録されている。そのどれもが当時の空気感をまとっているのに、ちっとも古いと感じない。まるで真空パックされたかのようだ。そしてどれもが少女の目線を通されておりかわいらしいのだ。

うらやましかった。高校生のわたしのスケッチブックには、自分のサークル名とPN(ペンネーム)のサイン、そして妄想をもりもりに詰め込んだ二次創作キャラクターたちがあふれていた。誰にも見せられるはずが、ないじゃないか。
 

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ふと気まぐれで描いた梅図かずお(風)

365日違うコーディネートで過ごせる自信があるというなつえさん。女性誌の一週間着回しコーナーもびっくりだ。
そんな彼女の1度きりコーデを、わたしはこれからも記録していく。わたし自身に反映される日もきっといつかくるだろうとにわかに期待しつつ、世の嫁さん姑さんにこんな楽しいコミュニケーションもあるんだぜと伝えたい。

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あのZOZOスーツも、柄がかわいいので普通に着る
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ダンスで鍛えられた脚の可動域がすごい
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踊ることもある
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かっこよすぎるジレ。「パーティーでしか着れないよね」と本人は言うのだが社交にも疎いわたしにはマリオパーティーしかピンとこない

なつえさんの手づくりアカウント「十七番倉庫」、コーデを記録したアカウント「ファッションに疎い嫁がファッショニスタのお姑さんを撮る」。ぜひ見てみてください~

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