特集 2019年5月22日

ファミレスで伝票を入れる透明の筒を3Dプリントする

これを作るまでの話。

ファミレスのレシートを入れておく、なんか透明なちっちゃい筒があるじゃないですか。あれ、改めて見るととてもよく出来ています。

厚みのあるアクリルで、超透明。表面滑らか。あんなにちゃんとした物で視界にも入ってるのに、見えてない。寸法とか厚みとか知ってますか?ちゃんと見たことありますか?

そういう物をちゃんと見ていきたい。なので、作ってみることにしました。お得意の3Dプリンターで。

あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:3Dのようで2Dな少し3Dな3Dプリンター

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 アキラ先輩の家で作ってるやつ

『紙兎ロペ』というアニメがあります。紙で出来てる兎のロペとリスのアキラ先輩の会話が面白いアニメなんですが、その中で『ファミレスのレシートとか入れておくなんか透明なちっちゃい筒』の話が出てきます。


筒の話は1:29くらいから。

数年前に動画を見て以来『ファミレスのレシートとか入れておくなんか透明なちっちゃい筒』が気になっていました。

これです。

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ガストの『ファミレスのレシートとか入れておくなんか透明なちっちゃい筒』
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正式名称は、伝票立て

名前が長くて打つのも読むのも大変ですね。正式名称を調べたら『伝票立て』という名前なのだそうな。なるほど、意識したことなかったけどストレートな名前ですな。

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買うと1個300円~900円くらいするみたいです。なかなか高級。

店によって形が違っていたりします。下の写真はデニーズの伝票立て。 

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デニム、じゃなかった、デニーズのはガストと比べると、少し細くて背が高い。

ガストとデニーズのサンプル数1なので全店で同じ伝票立てを使ってるかは分かりませんが、とりあえずガストは低め、デニーズは高めとしておきましょう。

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作りたいので正確に測る

実際にどのくらいの寸法なのか、お店に行って測ってみました。測る際に部位に名前がついていないと不便なので無理やり名前を付けます。命名は大事。 

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斜めに切られている高いほうが衿、低い方を喉と命名しました。

筒の外径と内径、衿と喉の高さを測れば形が決まります。 

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デジタルノギスを持っていって測りました。0.1mmまで測れます。超便利。

ガストの伝票立ては、外径55mm、内径49mm、衿の高さ70mm、喉の高さ50mmでした。 

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デニーズでも計測。

デニーズの伝票立ては、外径50mm、内径44mm、衿の高さ74.5mm、喉の高さ42mmでした。 

やはりガストのよりスレンダーですね。

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ガストで食べたミックスグリルランチ。ハンバーグ、チキン、ソーセージという子供の夢みたいなメニューでした。超うまい。
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デニーズの抹茶白玉ミニパルフェ。抹茶アイスが甘すぎなくていいが、ミントは合わないので要らない。
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作っていきましょう

寸法が分かれば作るのは簡単です。3DCADを使えば5分で形になります。

はい。

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今のCADは簡単なので誰でもすぐ立体を作れます。すごい。
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ついでなので空に浮かべてレンダリングしてみたらマグリットっぽさ(マグみ)が出た。

ガストのとデニーズのを作って、プリンター付属のスライサー(CADで作ったデータをプリンター用のデータに変換するソフト)に読みませます。

で、フィラメントを熱する温度とか造形速度とかを設定する。 

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3Dプリンターの造形範囲に伝票立てを配置する。
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材料

材料は『フィラメント』という、樹脂を針金状にして巻いたもの。これを熱したノズルから細く出して積層していきます。

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クリアカラーのフィラメント。素材はABS樹脂で、太さは1.75mm。フィラメントを使う3Dプリンターは、大抵1.75mmのフィラメントに対応しています。
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下から造形されていきます

 フィラメントを使う3Dプリンターは『ステージ』と呼ばれる土台に、モデルの下から積層していって物を作ります。

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土台に下から出来ていく。上に育っていくイメージ。

大体3時間半くらい待ったら完成。

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2個で3時間半なので、1個なら1時間半ちょっとですかね。

うむ、白い

分かってたけど、白い。到底『ファミレスのレシートとか入れておくなんか透明なちっちゃい筒』ではありませんね。 ホワイトベース(ガンダムに出てくる宇宙船)より白い。

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白いなー、白い。クリアカラーのフィラメントでもこの白さ!

 道路で轢かれてた長ネギの白いとこより白い。

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轢かれてたネギ。
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とても白い。

レシートを入れてみたけど、レシートの紙よりも白い。 

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白いとイマイチさまにならない。

光造形3Dプリンターを導入

フィラメントを使うタイプの3Dプリンターでは透明な筒を作れない事がわかったので(というか判ってた)、違うタイプの3Dプリンターを導入しました。

光造形です。 

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光造形の3Dプリンター。海外の通販サイトで、本体だけだと$450くらい。材料のレジンは1リットル$70くらい。

光造形の場合は、底に透明なフィルムを張った『バット』に紫外線で固まる『UVレジン』という樹脂を入れて、下から紫外線を当てて造形していきます。 

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材料は液体で、紫外線で硬化させます。

造形物はステージにくっついて、コウモリの様に天井からぶら下がって育っていきます。スライスされたデータを一層一層重ねていく原理は同じです。

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プリント開始直後。ステージがレジンに沈みます。
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出来上がるとこうなります。天井から生えてますね。

 下から見上げるとこんな感じ。これは何を作ったのかと言うと、鼻笛です。

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これを剥がして洗浄して磨くと完成。

ちょっと違う色ですが、後処理をすると下の写真みたいな鼻笛になります。フィラメント式より圧倒的にキレイなものが作れます。 初めて作った時はジーンと感動しました。

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クリアレジンと赤レジンを合わせて作ったツートンカラーの鼻笛(鼻で吹く笛)。

光で伝票立てを造形

伝票立てを光造形していきます。

見せてもらおうか、光造形の3Dプリンターの性能とやらを!

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光造形の3Dプリンターで伝票立てを作ったという事実は、古今例がない。

自分で印刷指示を出しておいてなんですが、実際に光造形で出来上がってみると笑いました。なにこれ強すぎる。

後処理

光造形の場合、造形してそのままではレジンがベタベタしてたり色々問題があるので後処理をします。 

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まず、ステージから外す。壊さないように慎重にやります。

ステージから外したらイソプロピルアルコール(IPA、飲めないアルコール)で洗浄します。

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付着したレジンを洗い流します。洗浄用とすすぎ用のアルコール槽を用意してレジンが残らないようにします。アルコールの入れ物はポリプロピレンかガラスがいい。

未硬化のレジンが残っていると、このあとの処理で変なとこが固まってしまうのでよく洗います。

洗ったらUVランプで2次硬化。

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2分紫外線を当てます。

はい、こんな感じになりました。

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いまいち透明感がないですね。色は、まぁこんなもんです。

2次硬化させたら磨き。400、1000、1500番のサンドペーパーで磨いていきます。

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表面に柔らかい層があるので、それをサンドペーパーで削り落とします。わずかにある積層跡もこれで大体消えます。

面倒くさいって思うじゃん?でも造形物のキレイさがすべてを贖うので、慣れれば面倒ではなくなります。 むしろ楽しい。

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透明感が出てきました。

濡れた状態だと透明感がありますが、乾くとすりガラスみたいになります。

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すりガラス的な見た目。

コンパウンド(細かい粒子のペースト)を使って更に磨き、鏡面仕上げにしてもいいのですが、スプレーを掛けて透明にするのが簡単です。 

UVカットの透明光沢スプレーを使います。

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レジンは紫外線に当たり続けると変色するので、これで変色も抑えます。
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ダンボールの上で塗装していきます。少しずつ重ねていくのが肝要。

 はい、出来ました。

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ちょっとムラがありますね。あと、乾燥待ちで少し変色しました。

認めたくないものだな、自分自身の塗装の未熟さ故の過ちと言うものを。 

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出来ました、ファミレスの伝票立てレプリカ。

 レシートを入れてみました。

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良い、とても良い。分かりますか、この嬉しみ。

ああー、良いですね。思ってた以上に良い感じです。家でこれが出来るなんて、ニヤニヤしてしまいます。

こっちはデニーズのやつ。 

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これは良いものを作ったわい。

こんなのも作った

 変色で色がくすんでしまって残念感があるので、最初から赤いレジンで色付きの伝票立てを作ってみました。

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これを使うと会計が3倍高くなります(ダメじゃん)。

 

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普通のザクと、赤いザク。

え、ザク?

本物と比べる

で、出来たものと本物を比べてみました。

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ピッタリ合って笑う。

寸法を計って同じ様に作ったんだから同じ大きさなのは当たり前ですが、なんかこう、笑います。

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ナスとほうれん草のミートソース。おいしい。

料理が運ばれてきて、伝票は僕が作った方の伝票立てに刺さりました。

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すみません、それ、僕のです、って謝った。

紛らわしいことしてすみません。

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この伝票立ては!いいものだ!

光造形の3Dプリンターはとても良い

要するに、光造形最高かよという話です。とても買って1ヶ月の素人が作ったとは思えないクォリティのものが造形されます。もう、笑う。なんなの、これ。

フィラメント積層型の3Dプリンターも楽しいけど、光造形は3倍くらい楽しいのでみんな買おう。

光造形は伊達じゃない!

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