特集 2020年5月15日

「顧客が本当に必要だった物」のジオラマを作る

ジオラマの極北へようこそ。

ふだんテーマパークや遊園地になどめったに行かない自分だが、自粛期間が長引くにつれ、そういう場所も恋しく思えてくる。

せめてそういう遊び場のジオラマを作って、恋しい気持ちを昇華できればと思うのだ。

たとえそれが「顧客が本当に必要だった物」だったとしても。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:超簡単にペン回しできる指輪を作る

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10パターン制作の呪い

「顧客が本当に必要だった物」などといきなり切り出してしまい申し訳無い。そういう、IT業界のシステム開発案件における「あるある」を風刺したイラストが存在するのだ。まずはその風刺画の説明をしよう。

私が目にしたのは10年くらい前だったか。面白いし、よくできてるなぁと、定期的に見たくなる絵だ。今回調べて初めて知ったのだが、元ネタはもうすでに70年代からあるという。元は、アメリカ産業界あるあるネタを風刺したイラストだったもよう。

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これが「顧客が本当に必要だったもの」の基本イラストだ!(ニコニコ大百科より)

私もアルバイトで数年間ではあるがIT企業にいたことがあり(開発には関わらず)、上記のような雰囲気は部を横断してなんとなく感じられた。

ざっくり言えば「要件のまとめきれてない顧客と、その本当の要望をすくいきれずおのおの勝手な思い込みで走り、瓦解していく開発チーム」といったところだろうか。哀愁を禁じ得ません。

ところで私はその内容もさることながら、この絵の雰囲気が大好きだ。牧歌的なタッチでありながら、示す内容はそこはかとなく狂気をはらんでおり、そこに人気(ひとけ)のない光景が広がって、いっそう不気味に見える。いい。

なのでどこにも行かれないゴールデンウィークに、この原っぱをジオラマにして、せめて外出気分を味わおうと思ったのである。テーマパーク「顧客が必要だったものランド」の建設だ!たぶんここまでで論理の破綻はしてないはずだ。

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作るぞー、粘土で。
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大きさは、A4に出力した参考画をそのまま踏襲することにする。まずは骨組み。
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骨組みに粘土で肉付け。平易なイラストから立体を想像するのは頭使う。

 

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生き写し、というわけに行かなかったがまあ、こんな感じかな。

まさかこの粘土細工を、計8本弱(イラストは10パターンだが木が登場するのは8パターンですね)作ると思っちゃいませんね?シリコーンで型をとって、レジンで複製するのです。

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妙に余白をとっているのには理由があります。
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枝のさきっちょまで樹脂が注げないので、通路を作るためでした。

根っこは構造的に空気が入ってしまったが、他はだいたい成功した。これは8本型取りしたあと、裁断や彩色などしておこう。

葉っぱはどうしよう。フェルト原毛?やっぱり粘土?うーん…と迷う合間に、小道具をちまちまと作っていく。

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昔の記事用に買ったアイスの棒200本がまだまだ売るほど残ってたのでこれを使おう。
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これはブランコ部分。縮尺をなるべく合わせて、ちまちまちまちま…

 

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でもドールハウス作ってるみたいで楽しいわ♫ …。
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タイヤをどうしようか悩んだが、工具箱に良さそうなものが!
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余っていたワッシャー3枚重ねたら大きさぴったし!これでいいや。
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座り心地の良さそうなソファはオーブン粘土でなんとかした。

さて問題の葉っぱ部分だが、全ての木に統一感を出したかったので、粘土で作って複製することにした。幹と一体型成形で良かったのかも…

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また参考図を見ながらあーでもないこーでもない。
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シリコーン型また作るの面倒なので「おゆまるくん」で型とって石粉粘土でポコポコ複製。

 

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なんだか全然作業終わらないんだけど。

大きさも抑えたし、簡易な形だしとタカをくくっていたのだけど、やることが多すぎて全然完成が見えてこない。作業時間が長いと、我に帰る瞬間が多くなる。「『顧客が本当に必要だった物』ランド?なんだそりゃ!」と新鮮にハッとしつつ、このへん作業しておりますよ。

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時間がなくなってきたので遊具の線路はもう紙でいいや。
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全てのパーツが揃って、やっと最終施工。

これがまた対象が小さいもんだから、接着や固定など大変である。そんな中で再現力高く制作するドールハウスやジオラマ職人の方は本当に尊敬する。

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葉っぱ部分は、枝に刺す穴までは複製できなかったので、1本1本向きを想像して穴開けて取り付けるのがたいそう難儀であった。大ブレーキと言っていい。

作っても作ってもまだまだ終わらぬ。10パターン分の光景、甘く見ておりました。

しかしようやく大道具小道具が出揃い、箱庭感覚の敷地建設が始まるのだ。

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静かなるあの光景をいつでもお手元に

うちにあった素麺セットの木箱の蓋を利用して、大地を作ろう。

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まずは各アトラクションの場所を決めてバミる。
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ボンド使う時間もないので強力両面テープを敷く。
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木々を貼り付け、上からジオラマ用の草をふりかける。楽しい。
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背景の空の雲の配分も悩んだ。この時期、最高に贅沢な悩みだとは思う。
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おっと、「営業の表現、約束」の光背はぜひ作らないとな!透明プラ板に着色。

 そしてやっと、テーマ(が残念な)パーク「顧客が本当に必要だった物ランド」がここに開園したのだった。

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もうすでに不安な感じ。
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エントランスはここかー。今日は遊ぶぞー。
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最初のアトラクション「顧客が説明した要件」かー。この無茶な要件、どうなっていくんだろう、ワクワク。
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元ネタ「顧客が説明した要件」

 

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「プロジェクトリーダの理解」。ブランコがすでに機能してないぞ、本部にクレームだ。
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元ネタ「プロジェクトリーダーの理解」

 

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「アナリストのデザイン」は乗れないこともなさそうだけど…次いってみよう。
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元ネタ「アナリストのデザイン」

 

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「プログラマのコード」、これ壊れてんの?周りにスタッフもいないしわからないなー。
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元ネタ「プログラマのコード」

 

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「営業の表現、約束」これは乗りたいね!大人気だろうなー。
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元ネタ「営業の表現、約束」

 

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「プロジェクトの書類」はただの原っぱかー。ここでお弁当だな。
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元ネタ「プロジェクトの書類」

 

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「実装された運用」、これはお客が諦めの境地でのぞむアトラクションだな。
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元ネタ「実装された運用」

 

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おおー、「顧客への請求金額」が天高く屹立しているな。
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元ネタ「顧客への請求金額」

 

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「得られたサポート」、これは単なるベンチかな?
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元ネタ「得られたサポート」

 

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こんな隅っこの目立たないエリアにメインアトラクション「顧客が本当に必要だった物」がひっそりと!この施設、動線がおかしいぞ。
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元ネタ「顧客が本当に必要だった物」

 

こうしてうちのリビングに「顧客が必要だった物ランド」が出現し、いつでも年パスでじっくり堪能できることとなった。

ひとけもないので、ソーシャルディスタンスもばっちり確保だ。

ひととおり回ったあとの虚無感も他では味わえないポイントだと思う。

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動物や人のミニチュアも配してみたが、牧歌というより廃墟感が増すこととなった。

まとめ

ビジネス系トピックでもあるので「カバンにしまえる大きさのジオラマ」を意識してみたが、アトラクションが過密気味となってしまった。

あの呑気で不気味な雰囲気を再現するには、もっと広い土台が良かったかもしれない。展示などする際は作り変えようと思う。その時は表示板も多言語対応だ。ゆくゆくはカリフォルニアやフロリダにも支店を出したい。

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