エスカレーターのパントマイムがある。板の後ろで徐々にしゃがみながら進むことで、エスカレーターで降りているように見せるものだ。僕はあれをやらずに大人になってしまった。いまこそ、あれをやりたい。ズルでもいいから。
エスカレーターのパントマイム
エスカレーターのパントマイム、分かりますか?見たほうが早いので動画を載せます。こういうやつです。
やり方はわからないけど、板の後ろでとんでもない体勢になっていることは想像がつく。板の後ろを見たい。
エスカレーターのパントマイム、周りの人に聞くと、多くの人が子供のころやったことあるらしい。しまった、僕はやらずに大人になってしまった。
Twitterで聞くと、「やったことある」が69%。思ったより多い。これはもはや義務教育だったのかもしれない。再履修しなきゃ…。
大人の再履修
エスカレーターのパントマイムをするためにDPZ編集部の会議室にお邪魔した。
カメラのセッティングをする人々。左からWebマスター林さん、筆者、編集部の石川さん。
Webマスターの林さんが「こういうのいいですね、子供の頃やり忘れたことを大人になってからやるの。」と言っていた。
そう。これは大人の再履修である。いままでやってこなかった「エスカレーターのパントマイム」を今日ここで成功させることで、明日から「エスカレーターのパントマイムをやったことがある人」として、胸を張って生きていける。
だからこそ、やるからには絶対成功させたい。ズルをしてもいいから…。
段ボールに紙を貼り付けて見栄えを良くしようとする3人。早くパントマイムに取り掛かりたかったので雑に貼り付けようとしたら紙がずれた。林さんが「工作ってのは、器用さじゃなくてどれだけ焦らずにできるからしいですよ」とフォローしてくれた。かっこいい…。僕もかっこいい大人になりたい。
やります。人生初のエスカレーターのパントマイム
「ほりさん今日はエスカレーターのパントマイムやるらしいですけど、昔そういうのやってたんですか?」
「いや、全然初心者なんですけど、が~まるちょばの映像見て予習してきたので大丈夫です。」
「なるほど、動画にやり方が載ってるんですか?」
「いや、プロは板の向こう側を見せてくれないので、なんとなく自分の想像でやってみます。」

会議室に「コイツ大丈夫か?」という空気が漂う中、記念すべき人生初のエスカレーターのパントマイムをやる。
中途半端なリンボーダンスみたいになってる。
「あー…」「なるほど…笑」やばい。会議室の空気が重い。大の大人がエスカレーターのパントマイムに失敗すると空気が重くなる。やはりこういうのは子供の頃にやっておくべきだったのだ。大人には変なプライドがあるからやっかいだ。
それから20回ほど練習して、だいぶマシになった。
結構いい感じじゃないですか?さっきのに比べると成長がすごい。
ただしきつい。リングフィットアドベンチャーのスクワットのやつよりきつい。今日はリングフィットアドベンチャーはやめておこう。
ここで編集部の石川さんから提案が。「僕、昔やったことあるんですよ。」
石川さんによるエスカレーターのパントマイム講座
「僕が成功しちゃうと記事的にまずいですかね?」と言いながら堂々と一発成功する石川さん。え、うまい。ふつうにうまい。大事なのは背中を徐々に丸めることらしい。なるほど。僕はもともと猫背なのでこれは都合がいい。
石川さん伝授の猫背作戦の様子。まさか猫背が役立つなんて…。
うーん。序盤はいいんだけど、後半、すごい勢いで下がってしまう。失敗だ。
林さん「人類の進化の図を逆再生してるみたいだね。」
背中を丸める作戦は丸めすぎると変な感じになる。ちょうどいい塩梅が難しい。
板の向こう側はこんな感じ。正解が分からないのであくまでも自己流です。プロの人のやりかたと全然違ってたらウケる。
ここまで正攻法でエスカレーターのパントマイムをやってきたが、早くも限界を迎えつつある。特に難しいのは一定速度を保つことだ。前向きのムーンウォークのような滑らかさが求められる。なんとかせねば。
ズルをします。
前述の通り、ここからはズルをします。板の向こう側でズルをしてもいいじゃないですか。どうせ見えないんだし。僕にはいろいろ策がある。
まずはキャスター付きの椅子を用意した。座面の下にあるレバーを引くことで背の高さを調整することができる。キャスターで動きつつ、レバーを引いて徐々に背を低くすればエスカレータっぽく見えるのではないかという見立てだ。
ちょうど良い椅子だ。
先ほど「板の向こう側は見えない」と言ったが、板に入る前は見えちゃう。椅子に乗り前進する様子が見えちゃう。そこは目をつぶっていただきたい。
うーん。足で移動しながらレバーを引くのが難しい。一定速度で移動することに集中するあまり、レバーがおろそかになって急降下してしまう。しかしこれは想定済みだ。一定速度で動くために、紐で引っ張ってもらえばよい。
「我々は何をやっているんだろう?」と我に返ることがある。これは我に返ったら負けのやつだ。
椅子に紐を括り付け、石川さんに引っ張ってもらう。こういう企画に嫌な顔一つせず付き合ってくれる石川さんはとても優しい大人だ…。
紐を引っ張る石川さんが映りこんでいますが黒子役ということで大目に見てください。
うーん。そもそも背の高さ調整はそんなに上下に移動しないのですぐに限界を迎えてしまう。椅子が下がりきった後は自力で姿勢を低く見せる必要があるのだが、椅子に座っているせいで腰より上でやりくりするしかなく、不自然になってしまう。もっといい方法はないか…。
スケボーに乗る
こうなったらもう、スケートボードに乗ります。危ないのでできれば乗りたくなかった。人生で一度もスケボーに乗ったことがないが、それは「あぶなそう」と思っていたからだ。いい年して、こんなことで怪我をしたくない。でもまぁ今回は床がカーペットなのでスケボーがつるっと滑ることもない。たぶん大丈夫。
この会議室にスケボーが持ち込まれたのは今日が初だろう。
いまから人生で初めてスケボーに乗る。エスカレーターのパントマイムとスケボー。今日は人生初めてを2個もやったことになる。子供の頃って毎日何らかの「人生初めて」があったと思う。なんだかなつかしい。
加速したスケボーに乗るだけで危なっかしいが、そのうえでしゃがむ。ちょっとこわい。しかも全然うまくできてない。
スケボーに乗ってしゃがむの、客観的に見てあまりに滑稽すぎる。だが椅子作戦よりは可能性を感じる。でも現状、下がカーペットなので減速が早くていまいちだ。となると、やはり紐だ。スケボーの裏に紐を括り付けて引っ張ればいいと思う。
最後の作戦。スケボーに乗り紐で引っ張る。
いよいよ、最後の作戦だ。スケボーを紐で引っ張る。
石川さん、今日は変なことに付き合ってもらってばっかりで本当にすみません。
さて、事前に用意してきた作戦はこの「スケボーに乗り紐で引っ張る作戦」が最後だ。これで失敗するともう術がない。弾切れだ。なんとかここで成功させたい。
スケボーを引っ張った状態で待ち構える石川さん。僕がスケボーに乗った瞬間に引っ張ってもらう。
高校物理の授業で出てきそうなシチュエーションだ。台に乗った人間を紐で引っ張るシチュエーションは、本当に存在する。
いよいよやります!
どうだっ。
お、これ結構よくないですか?若干降下のタイミングが遅かったかもしれませんが、成功といってもいいんじゃないでしょうか?いままでで一番よい。やったー!成功!!終わりです!!!
撮影した映像を確認し「いいと思う!」「けっこういいですねぇ」という編集部の橋田さん、石川さん。うまくいってよかった~。
ちなみに板の向こう側はこんな感じ。
最後ふたりが近づいてちっちゃくまとまっているの、なんともいえない地味さがある。パントマイムの裏側は、地味だ。
というわけで、大人の再履修「エスカレーターのパントマイム」は無事修了とさせてください。ズルかったけど成功したので満足。
先ほどの道具無しバージョンと比べてみる。
うーん、改めて見るとこれはこれでいいなぁ。ズルとは何だったのか。でもスケボーを使ったほうが一定速度で前進できていると思う。みんな、エスカレーターのパントマイムをするときはスケボーを使えばいいと思う。
未履修科目はまだある。
今回、「誰もが子供のころやったはずのエスカレーターのパントマイムをしてこなかった」というコンプレックスを解消できてよかった。でもそういう未履修科目はまだ他にもある。僕はピカピカの泥だんごを作ることなく大人になってしまった。そういえば妻は「新聞紙をぎちぎちに丸めて細長い剣を作るのをやらずに大人になってしまった」と言っていた。(僕は作ったことがある。)
このように、人それぞれ未履修科目が一個か二個はあると思う。大人になった今こそやってみると案外楽しいかもしれないです。次は泥だんごです。
板の向こう側、真顔で椅子を引っ張る石川さん。ありがとうございました。