特集 2019年4月5日

「石ころ拾い」がこんなにたのしいなんて

「石ころ拾い」が予想以上にたのしい

そのへんに転がっている石を拾う。それが、たのしい、おもしろい。ということをご報告もうしあげたい。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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「石ころ拾い」がおもしろいらしい

いい感じの石ころを拾いに 』(河出書房新社)という著作がある、ライターで旅行エッセイストの宮田珠己(たまき)さんが、石ころ拾いがおもしろいという。

しかも、鉱物という視点で石を拾うのではなく、自分にとって「いい感じ」の石を拾うのがおもしろいのだという。

ぼく自身、ずいぶんいろんなものをおもしろがってきたつもりだが、石拾いはおもしろがれるかどうかちょっと自信ない。

でも昨年、国会議事堂に行って、使われている石材をいちいち調べる(というか詳しい人に聞いた)のはちょっと楽しかった。

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「石材に注目して国会議事堂を見学する」

だから、石をめでる楽しさはわからなくもない気はする。しかし、石ころ拾いがそんなにおもしろいのかしら。という疑念も拭いきれない。まだ半信半疑である。

石ころを拾うことに、おもしろさを見出してくれそうな、当サイトのウェブマスター・林さん、デイリーポータルZライターのべつやくさん、加藤まさゆきさんとともに、宮田さんの石ころ拾いについていくことにした。

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右から、西村、宮田さん、べつやくさん、林さん、加藤さん
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最初は石に目が行かない

茨城県の大洗町にある海岸にやってきた。

当初、多摩川の河川敷あたりで……ということであったが、宮田さんが大洗の海岸のほうが「いい石」が多いというのでこちらに決まった。

宮田さんが言うには「あ、いいかも」と思った石はとりあえず拾っておく。そして、あとで1軍と2軍に分け、じっくり吟味して、本当に持って帰る石をより分け、持って帰る。ということらしい。

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いい石の基準は自分で感じろ!(意訳)

いい石の基準は、自分がなんかいいなと思うもの。それだけらしい。

それは、手触りや、色、形など、なにか面白さを自分で見つけろ、ということだろうか。

カンフー映画の老師みたいなものいいだ。

しかし、やはり石ころ拾いでは素人、ついつい石ころ以外のものに目が行ってしまう。

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なんなんだこれは?

木の棒だ、とおもってひょいと持ち上げたところ、ゴムのようにしなった。うぁ、なんだこれ、と思わず声をあげたら、加藤さんが「あ、それはカジメ(海藻)ですね」とこともなげに教えてくれた。さすが、現役の理科の先生である。

そんな加藤さんが、「西村さん、こんなのありましたよ」と変な石をみせてくれた。

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ほらこれ
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うわなんだこれ!

うわー、ミミズの化石みたいな石だ。なんですかこれ。

「ケヤリムシですね、環形動物といって、こういう管をつくるやつがいるんです」へー。すごい、いいなー。いや、いいなーじゃない。石さがせよ、おれ。

ちなみに、加藤さんは、ケヤリムシの石は教え子に見せるからもって帰るといい、カバンにしまっていた。

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加藤さん、スーツでやってきたうえに、ビジネスバッグみたいなカバンにそのまま石をゴロゴロいれていた
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だんだん石にめざめる

最初こそ、石じゃないものに気をとられていたものの、そのうち、各々が海岸にちらばりはじめ、黙々と石ころを拾いはじめた。

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各々が海岸に散らばりはじめた

そのへんに落ちている石ころを見つめてみる。

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石ころだ
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でかいな

白くてちょっとだけ透き通っている、きれいだ。きれいだけれど、大きさがちょっとばかり大きい。これは2軍だな。

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ちいさいな

黒っぽくも見えるけど、濃い茶色にも見える。石ころというよりも、石つぶと言ったほうがいいかもしれない。これぐらいの大きさになるとかわいさが出てくる。

ドラえもんで、石に塗り込むと石がイヌみたいになる「ペットクリーム」という道具があった。その道具で、のび太がペットにした石が、こんな感じの黒くて小さな石だった。

子供の頃は、イヌみたいになったとしても、石なんかかわいいと思えるわけないだろうと思っていた。でも、今や海岸に這いつくばって石を探している。人生どうなるかわからない。

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無心になってきた

石ころをひとつずつを拾い上げ、しげしげと見てみると、それぞれ違った特徴があることに気づく。
世界に一つだけの石である。

さらにおもしろいのは、みんなそれぞれ違うのだけれど、色や形や大きさで似通った石があるところだ。
違ってるのに同じところもある。

そんなところを探しながら石を一つずつみていくとだんだん無心になってきた。

手をつけてない原稿がまだあるとか、8ヶ月前から毎月1万円払ってるのにまだ一回も行ってないスポーツクラブがあるとか、そういうごちゃごちゃしたことを、しばらく忘れることができるのだ。

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はちまき石が欲しくなる

べつやくさんが、白い輪っかがついたかわいい石をみつけてみせてくれた。あ、それの色がまったく逆のやつ、ぼくも拾ったんです。

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右がべつやくさんがひろった石、左が西村のひろった石

石ころ業界では、こういう石を「はちまき石」という。堆積した成分が層になったり、岩の割れ目に別の成分が入り込んで線状になったりして、石になったとき、ちょうどはちまきのような輪っかのような模様をつくるからそういうらしい。

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はちまきがまっすぐな石! すごい

加藤さんは、はちまきの輪っか部分がまっすぐな石をみつけていた。

こんな定規で引いたような真っ直ぐな線ができるの? すげー。ひとが見つけた珍しい石に対し「いいなー」と思いはじめる自分に気づく。

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濡れてる石がいい

あなぼこが空いている石もおもしろい。

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軽石だろうか? 異常に軽かった

小さな穴がびっしり空いている石があったかと思うと。

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一つ目小僧のような石だ

中途半端な大きさの穴がひとつだけポツンと空いている石もある。

宮田さんによると、こういう石は、くぼみに小さな石が挟まったかなにかで、波に洗われるうちにこすれて穴があいてしまったのではないかといっていた。

そんななか、加藤さんがでかいのをもってきた。

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うわーすごい

あなぼこだらけだ。蓮の実なんかが苦手な人はちょっと厳しい感じの模様だが、ぼくは「いいなー」と思ってしまった。これは泥岩というタイプの石で、貝が開けた穴らしい。

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なんかいい感じの石ありましたか?

宮田さんになんかいい感じの石ありましたかと聞くと、白くていい感じの石をひろっていた。

西村「きれいじゃないですか、大きさもそこそこだし」

宮田「おそらく、メノウですねこれ」

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(たぶん)メノウらしいです

メノウって、高い石なんじゃないか? と思うが、宮田さんによると、こういった場所でとれるメノウは値段がつくようなものではなく、普通の石ころと同だという。

しかし、なんだかツヤがあって、他の石ころよりはきれいにみえる。

宮田「大洗のこの海岸はメノウがよくとれるんです、これはちょっと微妙だけど、たぶんメノウだと思います。メノウって、なめるとわかるらしいんですよ」

西村「味が違うんですか?」

宮田「いや、具体的になめてどうだったらメノウなのかはわかんないんですけど」

西村「わからない……」

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こちらは、加藤さんが拾った、確実にメノウの石。すきとおっててきれいだなー

宮田「やっぱり、石は濡れてるやつを拾うとテカっててふつうよりきれいに見えるんですよだから、波打ち際のやつをひろったり、わざと濡らしてみたりするんです」

西村「濡らすんですか?」

宮田「そうそう、でも乾くとそうでもないなってのがありますけど」

そう言われて波打ち際まで行ってみる。

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濡れている石

確かに、濡れてる石はツヤがあってきれいだ。濡れることによってかっこよくなる石。濡れるか濡れないかでこんなに違うのはしらなかった。

加藤さんがまたいい感じの石を拾ってみせてくれた。

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黒くてツヤツヤでかっこいいぞ

濡れてると色の黒いのが強調されたうえ、なかの白い模様がもやもやーっとなってるところが雷雲みたいにみえる。これいいな。

さっきから人のひろった石をうらやましがることしかしてない。人のものがすぐうらやましくなってしまう、幼稚園児だろうか。

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集めた石を品評しよう

休憩をはさみつつ、2時間ぐらい海岸にへばりついていい感じの石ころを拾い集めた。このまま拾っていてもキリがないので、あずま屋に移動し、石を並べて品評会を行うことにした。ここで、1軍、2軍の石から、さらに家に持って帰るスタメンの石を吟味しつつ品評したい。

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あずま屋のテーブルで石ころの品評会を行う

「西村さんの石なんですかそれ」

宮田「縄文系だ」

べつやく「道具ですかそれ」

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握り心地を重視しました

西村「いや、これね、にぎり心地を重視したんですよ」

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にぎり心地で選抜された石たち

細長くて、にぎり心地がいい石を選んでいったら、自然とこうなっていった。この細長い石は、スタメンである。

西村「宮田さんのお気に入りはどれですか」

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宮田さんのラインナップ

宮田「これなんかいいですよ、月面みたいで、月面感ありませんか」

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月面石

「あぁ、たしかに、クレーターがあって、白っぽくて、月面ですね」

西村「あー、星っぽい石いいですよね。ぼくもイトカワみたいな石があったんで拾ったんです。これ、ドアップで(写真を)撮ると本当に小惑星っぽくなりません?」

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ドアップでみると小惑星?

宮田「あと、これはなんらかの地図にみえません?」

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なんらかの地図

西村「なんらかの、古地図ですかね、間違ってもゼンリンとかではないですね、古地図ですよね、おもしろいな」

べつやく「わたしこれ、地球みたいだなとおもってひろってきましたよ」

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地球っぽい?

西村「形がずんぐりしてますけど、模様がね、白い雲があって、薄目でみるとそれっぽくみえるかも」

薄目でというところがポイントだ。地球の写真を思い浮かべつつ薄目で見ると地球っぽく見える瞬間がふぁっとやってくる。

なんで拾ったのかわからなくなってきている

しかし、こうやって、ズラッと並べると、中にはなんでこの石を拾ったんだろうと疑問に思う石もけっこう混じっている。

加藤「この石、なんで拾ってきたんだろうってやつありますけど、水で濡らすときれいですね。拾った理由が思い出せますね」

そういい出すと、みんな自分の石を濡らしはじめた。

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濡らしたらなんかちょっと緑色できれいな石

「ニスだ、ニス塗ればいいんじゃないですか」

図工で工作すると、なんでもかんでも最後にニスを塗らされてテカテカにさせられたものだが、石もそうかもしれない。

宮田「これも濡らすといいんじゃない、パイオニアが撮ってきた金星みたいだ」

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濡らすと金星になる石

金星の表面のモヤモヤっとした感じと色が似ているといえば似ている。

石はつまり岩石だから、最終的には星と考えても差し支えないのではないか。つまり、わたしたちは星のかけらを集めている。

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ブルーチーズ石

べつやく「これなんかブルーチーズ感ありますね」

西村「緑がすごいなあ、緑色はなんなんでしょうね」

加藤「緑は緑の成分でしょうね、かんらん石とか、孔雀石の成分がちょっと入ったやつとか」

「これなんかも濡らすとなんかメッセージみたいなの出てきますよ」

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メッセージかいてあるような石

宮田「あ、すごいこれ」

べつやく「すごい、なんだろうこれ」

「なんかの絵がかいてあるみたいにも見えますね、こんなふうな」

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こんなふうな

西村「とつぜんなんですか?」

「こんなポーズとってる人が立ってるように見えません?」

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ん〜んん〜、雲龍型(土俵入り)かな

西村「どこがどの部分に対応してるのかちょっとわかんないのであれですが……雰囲気はなんとなく」

浮き出る模様に何を読み取るかは、自由だ。こういった石の模様が、偶然風景みたいになっている石は、風景石といって貴重であり、売っているものを買うとかなり高い。

しかし、石に人の形が浮き出ると、正直なところ、不気味という感情が先立ってしまうのは否めない。

べつやく「この石、濡れてないときの輝きのなさ、すごいね、白っぽいだけだし」

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濡れてないとパッとしない

西村「石って、濡らすとぜんぜんちがうな、石を濡らすのって、SNOWで自撮りするぐらい違いますね」


石は濡らしてみるとよい

そんなわけで、各自ひろった石のなかから10個程度に絞った石を持って帰った。

当初は半信半疑であった石ころ拾いであったけれど、思っていた以上におもしろかった。

「いい感じの石ころを拾うぞ」と、言い聞かせて石を拾い出すと、目の前に落ちている石すべてが宝の山のように見えてくる。

きれいな石だけではなく、模様のある石、いろんな色が入った石、変な形の石、触り心地のいい石、大きさがちょうどいい石……と、自分の基準次第で「石のおもしろいところ」がどんどん増えるのもたのしい。

そして、もう一つ大切なこととして、石は濡らして見ろ。ということである。

濡らすと、かっこよさ、きれいさ、おもしろさが、いずれも5割増しぐらいにはなる。

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