グランドスーパーカートに乗る
旧高千穂駅で高千穂あまてらす鉄道が運営している「グランドスーパーカート」は、往復約5kmの道のりをオリジナル車両で運行するアトラクションである。
カートの運転席を見ると殺虫剤が3本も置いてあった。気になったので聞いてみると蚊やハエなんかの小虫が大量発生するときに使うとのこと。運転席から殺虫剤を振りまく絵面を想像するとおもしろい。
昔の高千穂駅から岩戸駅を通過し、かつて鉄道橋として日本一の高さを誇った高千穂橋梁まで、往復30分の小さな旅である。途中まで運転士がアナウンスしながら走らせる。
「ケータイを外に落としたら取りに行けないので諦めてください」
「今から鉄橋に向かいます。高所恐怖症の方はしばらく我慢してください」
風に舞っていくシャボン玉を見て、同乗していた人たちは「映える映える」と喜んでいた。僕も場の空気にのまれてカメラを構えた。
理想のボタンが押し放題!
旧高千穂駅構内に残る車庫の一室は展示室になっていて、実際に使われていた券売機などの機器類を見学することできる。
僕はボタンを押すのが好きだ。
それもシリコンゴム製じゃなくて、昔ながらのプラスチック製の硬いのがいい。押し込みは深ければ深いほどよくて、部品がカシュッとこすれるような音がするやつが最高だ。押したあとの反応や電気の流れには関心がない。ボタンがあって、ただ押せて、ただ音がなる。それだけでいい。
最近は利便性の問題なのかどこもかしこもタッチパネルになっているのが悔やまれる。利便や合理を突き詰めた先に本当の幸せはあるのか。
とくにこれが良い
この券売機の「まとめ買い」ボタンは理想に適う最高のものだった。バネの反発が軽いわりに深くまで押し込めるのと、古典的なカチカチ音が鳴るのがいい。しかし古典的ってなんのことだ。
まとめ買いボタンの下にある切符購入ボタンにはあまり心が動かなかった。押し込みきったときに音がならないくせして反発も重かったのだ。
そういうわけでまとめ買いボタンだけを押しまくった。切符100枚はゆうに買えるくらいくらい押した。ここでは切符代も払わなくていい。心の底から楽しかった。
日頃触る機会がなかったので意識から漏れていたが、レバーもいい。力を入れてグイッと引く運動がおもしろい。動物としてのプリミティブな衝動を突き動かされている感じがする。
これら機器類の説明がこの展示室にはまったくないのだ。自発的に調べでもしない限り役割を知ることはできない。そこが逆に押し付けがましくなくて、ただ目の前にあるボタンに集中することが許されているようで居心地がいい。
ボタンを押すのは気持ちいい
物理ボタンを押すことの楽しさをすっかり忘れていた。
今これを書きながらも好みの感触のものを触りたくてウズウズしている。券売機は手に入りそうもないので、手始めに知育玩具の「いたずら1歳やりたい放題」を買おうかどうか迷っている。