特集 2023年3月18日

こんなこと人がやっていいのかと思うことがある~演劇の舞台演出というお仕事

ステージに同僚がいる

石川:明日のアー見に行ってさ、毎回藤原さんが出てくるじゃん。いつも「ステージに同僚がいる!」って思うんだよね。

大北:毎回12人ぐらい出るうち、6人〜8人は藤原くんみたいなプロの役者じゃない人なんですよ。半分以上。

石川:あ、そうか、藤原さんだけ素人なわけじゃないんだ。

大北:そう。でももうこれ9年目なんですよ。9年目やから、まじでそのへんの役者より全然場数踏んでる状態で。その上でまだ素人ヅラしてるからめっちゃめちゃモヤモヤする(笑)。

石川:(爆笑)

大北:「いやいやいや、大学出て3〜4年演劇やってる人より全然場数踏んでますよ」っていう状態。もう甘やかしちゃいかん状態ではあるんですよね。

石川:たしかにそうだわ。藤原さんどうお考えですか。その辺りは。

藤原:いろんなところでやりましたね。

大北:あいちトリエンナーレとかでもやりました。

石川:場数踏んで成長したなって感じはありますか?

藤原:昔の自分の映像を見ると、マイク壊れてるのかなって思うぐらい声が小さくて、そこは多少マシになったかなっていうのは。

石川:声張れるようになったと。

大北:みんな1回見に来たほうが良いと思うんですけど、藤原くんとか、7Aちゃん、よシまるさんとか、役者じゃない人はめちゃ面白くなってるんですよ。不器用なまま、声がでかいとか、人に伝える表現力だけめちゃくちゃ上がってて。体硬いままめっちゃダンスしてくれる人とか見たいじゃないですか。

石川:いびつな成長をしてるんだ…!

7A(ななえ)さんはモデル等で活躍中。(プープーテレビ特別編『Windows Updateは突然に』より)
よシまるシンさんはデザイナー。これはよシまるさんデザインの2016年の公演のチラシ。今回のチラシも、よシまるさんによるもの。

 大北:体硬いまま、表現力だけ上がってるから伝えてくる。絵って下手でも書ききると良い絵になるじゃないですか。ヘタウマというか。他ではこんなやつおらんなっていうのがたくさん見れます。

石川:育った部分はわかりやすいんだけど。素人くささが残ってる部分はどのへんなの?

大北:抑揚が不自然だったりとか。実際に体が硬かったりとか。あと舞台上で役者さんはそんなことはしないっていう振る舞いを平然とやるんですよ。まっすぐ歩かないとか、不文律みたいなものがあって。

石川:ルールというか作法というか。

大北:まっすぐ歩かないでグルーっと回ったほうが舞台上でよく見えますよね、みたいな。そういうのを一切守らないということなのかな。演技にもいろいろな流派があるので一概には言えないですが。

石川:どこの流派にも属してなくて我流でやっている人たち。

大北:あんまり他者になりきらないんですよ。

石川:あはは。だから藤原浩一役(※)なんだ。

※藤原浩一役…藤原さんは架空の人物に扮しないで、常に本人役として出演している

大北:何をやっても藤原くん。体硬いから。そこがいい。

石川:でもすごく評判良くない?著名人の評を見ても褒められてるのをよく見かける。

大北:藤原くんもよシまるさんも評価されてて、普通に役者さんが「すごくうらましい」っていう言い方をする。ああなりたいっていうよりは、「そういうふうに舞台にいたい」みたいな感覚じゃないかな。私そのままでどーんといる、みたいな。

石川:それが許されるのも『明日のアー』独特というか。

大北:それって、デイリーポータルZに通じる部分があるなと思って。

石川:たしかに、デイリーもそうだよね。

大北:アマチュアリズムっていうのを信頼して。ライターはアマチュアのままずっと書いてるじゃないですか。

石川:ほとんどの人が副業だもんね。

大北:てにをはが間違ったまま延々来てるっていう状態。ああいうのに近いんじゃないですかね。江ノ島くんとかずっと素人っぽいこと言ってるけど、けっこう年季入ってるよ。場数で言えば全然プロのライターぐらい踏んでるんじゃない?

石川:2014年から書いてるからね。構造的に似てるところがあるんだ。

藤原さんが主役、ホームセンターのコントを動画でどうぞ

『明日のアー』で手に入れた感情スイッチ

石川:藤原さん本人としては、長くやってみてどう思ってますか?

藤原:大北さんの笑いの作り方というか理屈が、だんだんわかるようになってきた気はします。コントの際に、最初は怒ったり泣いたりする演技を指導された記憶があるんですね。

大北:ここをこうやってとか、泣いてとか。

藤原:その差が面白いんだって。怒ったり泣いたりしたことがないので。何が正解なんだろうって思ってやっていたんですけど。

石川:「怒ったり泣いたりしたことがない」はなかなか言えないセリフだな。

大北:壊れたロボット。

藤原:やって、ウケたりすると、なるほどっていう。

大北:怒ったり泣いたりしたほうが面白いよっていうのがあって、稽古場でそういう話をしたりするので。だんだんわかってくるなみたいな、

石川:『明日のアー』を通して感情を取り戻してきてるみたいな、そういう話じゃないですか。

大北:そこまでセラピー的なことはないよ!

藤原:そういうスイッチが入るようにはなった感じはします。

石川:感情スイッチをね。

大北:シミュレーションでちょっとやっとく、と。

ステージで陽気にリコーダーを吹く藤原さんと、それを見る八木さん(これは明日のアーの公演ではなく、記事「退席のススメ」より)

次回公演の告知

石川:じゃあ、ここで満を持して講演の告知をお願いします。

明日のアーの新喜劇
『親切な寿司屋が信じた「3000万あるんですけど会ってもらえますか?」』

作・演出:大北栄人

出演:八木光太郎、高木珠里(劇団宝船)、よシまるシン、山村麻由美(青年団)、7A、藤原浩一、金井球、警備員(ハチカイ)
スタッフ兼出演:栗田ばね、張江浩司、トチアキタイヨウ

会場:木馬亭(〒111-0032 東京都台東区浅草2-7-5)

日程:2023年3月28日(火)〜30日(木) 全5回公演

公演スケジュール:
3月28日(火)19:30
3月29日(水)14:00 19:30
3月30日(木)14:00 18:00

もっと詳しい情報はこちら

 

チケット取扱い:
▶︎ローソンチケット https://l-tike.com/asunoah
▶︎LivePocket https://t.livepocket.jp/t/ahnoshinkigeki

大北:普段『明日のアー』がやってることがマジ新喜劇なんじゃないかって思い始めて。

石川:急に。

大北:俺だんだん真面目になってきてて、もう42歳じゃないですか。笑いっていうものに真面目になっているんですよね。これも『明日のアー』がふざけて新喜劇やるの面白いねワハハじゃなくて、やってみたらどうなのか普通に知りたくて。

石川:探究心なんだ。新喜劇っていうのはいわゆるよしもと新喜劇があるじゃないですか。あの様式を完全にやるっていうこと?

大北:最初に「新喜劇なんじゃないの」って思ったのは、よしもと新喜劇。そこからいや、待てよ。松竹新喜劇もあるなと思って。見たことある?松竹新喜劇って。

石川:見たことあるの前に、知らなかった。

大北:藤山寛美さんっていう名物のおじさんがいて、その人が全部笑いを持ってくるんですけど、登場人物が全員親切で、優しくて。お金がない藤山寛美さんに、君大変やろ、これ持っていったらどうや?って、親切するんです。それで寛美さんが泣いて、ありがとうございますって、延々60分ぐらいずっと親切。何この世界。

石川:いい話ってこと?

大北:登場人物全員親切。『アウトレイジ』の真逆。いま全員悪人みたいな物語がけっこう多いじゃないですか。こっちは全員善人。

石川:そういうのを今回は踏襲していく?

大北:我々がやるのはギャグなので親切というところからは離れるんですけど。タイトルに親切のお寿司屋さんっていうのが入ってたりしていて、そういう要素を入れたいなと思ってやってます。

石川:いつもとはだいぶ違う印象だね、チラシ見た感じでも。

大北:やることはほぼいつものギャグで、前にやったギャグを新喜劇のシステムで見せるベスト版みたいなことになってるんですよ。

石川:じゃあ今まで見たことがない人は入門編として、凝縮されたものが見れると。ベストアルバムが聴ける。

大北:聴けると思います。

石川:なるほど。ここまで読んでくれた人は『明日のアー』に全員行きましょう。僕も見に行きます。
 

 

生放送「記事の森」やってます

この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。


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