特集 2023年12月18日

絵本をほぼ「消しゴムはんこ」で作ったので苦労話を聞いてください

お久しぶりです。
こちらで記事を書くのがすっかりご無沙汰だったのは、全て「絵本」の制作作業にかかりきりだったからでした。人生初の絵本が11月に出たんですよ。驚いたねこりゃ。
よって本当に手前味噌もいいとこなんですが、今回はその顛末を少し書かせていただこうと思います。
実は、ほぼ全て「消しゴムはんこ」で作ったんですよ。そら大変でしたわ。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:マンホール盆栽のすすめ(デジタルリマスター)

> 個人サイト 妄想工作所

ザ・昔とった杵柄

これがその絵本「アブないニャン!」でございます。
珍しい、タテ開き。

IMG_1294.jpg
1ページ目から危機。

このピンクのネコが何度もアブない目にあうのですが、どれも華麗に切り抜けます。

3.jpg
上へ下への大立ち回り。

しかし本当の危機はそのあとにやってきます。
思いがけない形で。

IMG_1271.jpg
UFO大国ニッポンにはおなじみの光景。

やおらUFOが現れて、ネコをアブダクション。アブ…そう、「アブないニャン!」のアブは、アブダクション(誘拐)のことだったのだ。このためのタテ開き仕様、というわけなのでした。

前半は普通のアクションものかと思いきや、異界からの敵が出現してしまうという構図は、映画「プレデター」に通ずるといえましょう。

IMG_1273.jpg
大スペクタクルの融合シーン。

UFOの中でネコが大暴れして、プラズマか電磁波か相転移かわかりませんが何かが起こり、UFOとネコが融合してまたひと暴れ、そして無事地球へ帰ってくるというお話です。どうだ、荒唐無稽に過ぎるだろう。

いったん広告です

元は、2年前に作り始めたソフビ人形「アブニャン」というのがありまして、それを旧知の編集者さんが知るところとなり、「これをテーマにした絵本なんてどうですか?」とオファーいただいたのが始まりです。

IMG_3428 2.jpg
怪光線ごとキャラクターにしたら面白かろうと思うてな。

さて、この制作の様子を自分で語るのはなんだかそれこそ独りよがりになりそうなので、ここで主役のネコを相手に進めていこうと思います。

neko3.jpg
ネコです。
otsu.jpg
この度はお疲れ様でした。それと、せっかく「〜ニャン」という題名ですし、語尾を「ニャ」にするのはどうです。

では制作のあれこれを、どんどん私に聞いてくださいよ。
neko3.jpg
ストーリーはおいといて、あニャた、絵は初心者なはずでは。
otsu.jpg
はい。でも頑張って描きました。最初はラフをiPadで描いたり、やはり手描きの味がいいのかなと画用紙にポスカとかで。
IMG_1275.jpg
最初の最初にポスカで描いてみた1ページ目の構想。これは不採用。
otsu.jpg

しかし、やがて編集者さんから「乙幡さんらしさを出したい」と要望が。乙幡といえば工作とか、なんか変化球でいきたいなと。
で、昔やってた「消しゴムはんこ」はどうですかということになって。

neko3.jpg
地獄の釜のフタが開いたニャ。
otsu.jpg

「それは大変そうだ…でも、特色が出ていいかも!」と、腕まくりしてそのアイデアに乗ることにしました。それが、のちにあれほど大変とは…

いったん広告です

彫る彫る、押す押すの日々

さておき、ストーリー進行やページ割、そして下絵が固まると(そこも紆余曲折ありますがここでは割愛)、本の大きさより少し小さいくらいのサイズでモノクロプリントします。

IMG_1276.jpg
はんこトレース用の下絵と、写し取ったトレーシングペーパー。ペーパー枚数はこの数十倍に及ぶ。

同時に、消しゴムはんこ用の、大きい消しゴム板の調達です。大きいと言っても、最大でハガキサイズのしか売ってません。

neko3.jpg
消しゴム板がどんだけ必要になるか、予測できるもんかニャ。
otsu.jpg
いえ、全然。なので少しでも節約をと、100円ショップの消しゴム板をネット通販で調達です。50枚くらいだったかな…
IMG_1278.jpg
警察の押収品みたいに並べてしまったが、これが彫った全はんこ。

 

otsu.jpg
あとから数えたら、約500個くらいはんこ彫ってました。一番小さいのは4mmくらいのはんこ。もう「お前たちを全部はんこにしてやるぞ」という勢いで。やっぱりはんこのタッチが必要だったので、できるだけ彫ろうと。
neko3.jpg
願掛けでもしてたらとっくに願いがかなってそうな数だニャ、500個はんこ彫り。
otsu.jpg
まぁ彫るのはぶっちゃけ、まだ楽でした。絵さえ消しゴムに写し取れば、あとはその絵に沿って彫るだけだし。単純作業化されて、無心で彫れる。 
neko3.jpg
安いのと高いの、消しゴム板ってどう違うニャ。
otsu.jpg
高い板は厚さが1cmくらいなんですが、100円のはその半分、5mmなんですよ。なので高いのより保管時にかさばらないんですが、押す時がね…
IMG_1304.jpg
デカい+薄いととにかくムズイ、というのは想像できますでしょ。
otsu.jpg
浮世絵みたいに木版とかだと、大きな版を下に置いて、インクつけて上から紙を置いてバレンで色付け、ってやるけど、それならあまりズレないでしょう。でも数あるはんこを、狙ったところに押すのは…
neko3.jpg
(ネコ、想像してみる)…超たいへんニャ!
otsu.jpg

まぁ、曲げられるくらい薄い分、楽な箇所もありましたけどね。でもあなたみたいに「地の色(ピンク)」+「輪郭線(黒)」という構造になると、狙ったとおりの位置に押すには息止めて慎重に慎重に…と。最初はずっとそんな感じで、これ果たして終わるんかと思いましたよ。

いちおう治具なんかも簡易的なのを作って、木版画よろしく正確な位置決めができるよう努めたんですが、なんかそれでもズレるんだよね…。

neko3.jpg
治具(じぐ)って何ニャ。
IMG_1295.jpg
ありあわせの材料で作った治具。消しゴムと同じ厚さのパネルを切って、鏡像印刷した下絵を置いて、位置合わせを確実にしようとしたが、なんかズレる。
 
IMG_1280.jpg
15cmくらいのが最大。4mmくらいのは「カラスの雛の汗」用。
​​​​​

できるだけ1ページを1枚絵で作りたかったので、おいそれと失敗できないわけです。 

IMG_1304.jpg
1版目のピンク色を押したあとに輪郭線の2版目をズレないよう乗せる、この瞬間の緊張感よ伝われ。

 

IMG_1305.jpg
当時の再現だったが、わりとうまくいった!少しのズレはとにかく「味」属性で押し切る。
いったん広告です

 一方、インクにはそんなに遮蔽性はないので(遮蔽性=地の色が透けないこと。インクの種類によってあるにはあるが、濃い紙の上に薄い色は見えにくくなるなど、限度がある)、背景が黒とか青の画用紙なんかだと、どうしても色が見えなくなるのがあって。

考えた末、はんこのタッチだけは生かそうということで、別紙に押したものを切りとって貼るという手を使いました。それからあとはけっこう楽になった。どんどん切り絵メソッドを使って、絵を仕上げていけました。

411079678_690826552832874_3942831189473593293_n.jpg
原画。このページは切り抜きなしの一発勝負。
410709411_291834509994197_3230693994212626122_n.jpg
切り絵につぐ切り絵を施しました。半分は「切り絵本」だったかも知れぬ。
otsu.jpg
そうしてなんとか形になった「アブないニャン!」、どうぞ見かけたらお手にとっていただければ幸いです。
neko2.jpg
絵柄の呑気さと裏腹の工程で作られたらしいネコの活躍を、どうぞよろしくニャ。

「アブないニャン!」
発行:あかね書房
価格:1,540円 (本体1,400円+税)
判型・頁数:A4変型判/20×20cm/36ページ
対象年齢:就学前から

アブないニャン!

※このリンクからお買い物していただくと運営費の支えになります!


告知

思いっきり宣伝させていただいてしまいましたが、そのまたさらに宣伝の上塗り!シャーッ!

・京都文学フリマに「妄想工作所」として出ます。「アブないニャン!」他、自作絵本も少し持っていきます。
2024/1/14(日) 11:00〜16:00 入場無料
京都市勧業館「みやこめっせ」(京都府)1F 第二展示場

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ