特集 2021年10月22日

脂身の生ハム「ラルド」が自作できたので好き放題に食べよう

半年の熟成期間を経て、自家製ラルドの完成です。完成したんですよ。

半年前、豚の背脂に塩をまぶして冷蔵庫に放り込んでおいた。

その顛末は「脂身だけの生ハム「ラルド」は自作できるのか」という記事にしたんだけど、今回はいよいよ漬け込み半年を経たラルド(自作バージョン)がちゃんと完成したのか?というご報告である。

結果から言っゃうと、それなりにラルド感のあるラルドができていたのだ。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

前の記事:レンガを積んでソーセージ1本が燻せるスモーカー作り

> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

ラルドのおさらいと、作るまで。

改めて「ラルド」とはなにかを説明しておくと、まさに前回記事のタイトル通り、豚の脂身だけを塩漬けして作った生ハムのようなもの、である。
イタリアやスペインではそれなりにメジャーかつ庶民的な(そりゃ脂身だけだしな)食べ物で、ロシアでも同様のものが「サーロ」と呼ばれて親しまれているそうだ。

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こちらが本場で作られた、野良じゃないラルド。なかなかお高い。
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基本的に、食べるときには薄くスライスする。やっぱり脂身なので、溶けやすくしてやらないと食べづらい。

庶民的とは言っても、日本に輸入された最高級品「ラルド・ディ・コロンナータ」は50gあたり800円。なかなかのお値段だろう。
そして、薄くスライスしたものを少しだけ加熱して食べると、塩気の中に脂のじゅんわりとした旨味と熟成感があって、たまらない。

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個人的に大ヒットだった、刻んだラルド+白飯の組み合わせこと“ラル丼”。バカみたいな見た目でバカみたいに旨い。

甘味と組み合わせても良し、刻んで白飯に載せても良しと、相当に“強い食べ物”だったのだ。
とはいえこの値段ではガツガツと食べるわけにもいかない。
じゃあ自作すればいいんじゃね? よし作ろう、というのが前回までのあらすじ。

そして半年後、我が家のラルドができたのだ

塩やスパイスをまぶした背脂を大理石のケースにいれて涼しい洞窟に置き半年以上漬け込む、というのが本場での作り方のようだが、そこは大幅に簡略化。

ジップ袋に塩漬けした背脂(それぞれ塩の比率を変えてある)を入れてポンプで減圧。これを冷蔵庫に放り込んで半年待つだけ、という簡単システムにしてみた。脂身の劣化は主に酸化が原因だろうから、空気を抜いちゃえば大丈夫なはず。

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ジップ袋に入れたまま冷蔵庫で半年待機の塩漬け背脂たち。放置しててごめんな。

いちおう1ヶ月ごとに様子を見ていたんだけど…うーん、まったく様子に変化がない。
肉の塩漬けであれば、細胞組織の塩漬脱水によって透明感が増したり、というのが見て取れるんだけど、脂身にはそもそも脱水するような水が無い。
とりあえず外見的に腐敗や酸化した様子はなさそうだけど、ちゃんと漬かってるのかどうか分からないのが不安っちゃ不安なのだ。

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毎月写真を撮るつもりだったけど、あまりの変化の乏しさに途中で飽きた。
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こちらが完成となる半年後の写真。一緒だなー。

しかし、実際に食べてみないことには話も進まないし。ということで半年経過したいま、度胸を決めて開封してみた。
本場のラルドのように皮付きではないので、雰囲気はちょっと違うけど、ひとまず悪い雰囲気は感じられない。たとえ熟成が進んでいなかったとしても、単に塩味の脂身ができただけ、と考えればまぁ問題はないはず。

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肉の塩漬けは表面の塩粒が水分で溶けてるものだけど、脂はほぼ仕込んだそのままの姿。拭ってやらないとダイレクトに塩辛い。

おお、なんかラルドっぽい味はするぞ!
単に塩をまぶしただけの脂身じゃない、熟成された感のある旨味もする。
もちろん以前食べた最高級品とは別物なんだけど、具体的な差は、主にスパイスの量かなー、ぐらい。その辺りの風味がやや足りてないだけで、「これラルドですよ」と言われたら「ほほう、そうですか」と食べちゃうぐらいには、ちゃんと旨いのだ。

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おっ、これは…ラルド…じゃないかな? ラルドだな。

念のため、前回イタリア食材店の人に聞いたオススメの食べ方こと「軽くトーストしたバゲットにラルドをのせて余熱で溶かし、ナッツと蜂蜜かけたやつ」も試してみる。
そうそうこれこれ、ラルドだラルド。
半年という時間はかかったけど、肉屋で買った1.5kg150円の激安背脂がこうも美味しくなるなら、まぁアリではないか。

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バターよりもサラッとしてクセが無いので、甘味にも良く合うのだ。
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カントリーマアムに乗せてトースターで1分ほど温めたもの。甘じょっぱさのパンチが強い。
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チーズトーストに刻みラルドを乗せて焼くと、当然ながら旨い。

ちなみに塩の比率に関しては、4%だとやや物足りず、10%だとわりと塩辛い、ぐらいの違い。どちらもそれなりに仕上がっているが、個人的には8%が正解だった気がする。
あと、今回の8%漬けはうっかりガーリックパウダーをふりかける量が多くなっちゃったんだけど、それも風味プラスの点で正解だったっぽい。

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1.5kgのラルド、好き放題に食べてみよう

さて、先にも述べた通り、今回の仕込みは背脂1.5kg。なかなかのボリュームだ。
これだけあれば、50g800円の高級ラルドでは勿体なくてできなかったような食べ方だって、できるんじゃないだろうか。だって1.5kgもあるし、そもそも買値は150円だし。

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塩漬けする前の背脂。これだけあって150円というのはありがたい。

まずやってみたかったのが、ラルドの燻製である。
イタリアにはスモークド・ラルドは普通にあるらしいんだけど、日本では探しても見つからなかったのだ。いやー、それ絶対に旨いと思うんだけど。なので、自作ラルドが完成したら燻製にしてみたかったのだ。
これはもう失敗する気がゼロなので、「試しにちょっと…」じゃなく、いきなりまるまる1本をスモーカーに放り込んだ。

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茶色く燻し上がったスモークド・ラルド。端的に言って「ひどい」以外に言いようのないルックス。

案の定というか油が溶けて体積がグッと縮んでしまったし、あと、なんというか…見た目がかなり良くない。
が、煙のスモーキーさに脂身のコッテリした香りがプラスされて、うっとりするような燻製香が漂っている。あー、やりましたよ。想定通り、食べる前から勝ち確のやつ、できましたよ。

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もともと燻製香は脂の部分に馴染みやすいので、そりゃ脂だけの塊ならこうなるわな的な強い香りが。

食べてみると…なるほど、これはつまり“ベーコンの脂身の部分だけ”だ。
ベーコンで最もおいしいのは脂身であり、そしてその脂身だけがデーンとした塊に。こんなの「旨い」しかなくて当然だろう。
しかも、一度加熱したためなのか、脂の融点が下がっているような気もする。口の中にいれると体温でスーッと溶けていくのだ。これなら、スライスしたやつをそのままツマミにしたって、イケるはずだ。

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ここまですると、もはや旨味の暴力でしかないぞ。

もちろん加熱すればなお旨い。
スモークド・ラルドのスライスを数枚フライパンに放り込んで溶かし、生に近い半熟の目玉焼きを焼く。
それをホカホカの白飯に乗せて、さらにスモークド・ラルドを追加でオン。
そのままガーッとかきこめば、熟成した脂の旨味と塩気と燻製香がとろとろの黄味に絡まって、もうノンストップ。満足度が半端ない「スモークド・ラル丼」である。

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ダイスに刻んだスモークド・ラルドを合挽肉に混ぜてコネコネ。
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で、それをこうしてやると…
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こうなって、勝ちます。

刻んだスモークド・ラルドを合挽肉に混ぜて焼いてもなかなかにステキだ。
「ベーコン巻きハンバーグ」なんてのがあるが、こちらの「ラルドインハンバーグ」はベーコンの風味がダイレクトに肉の中に混ざり込んでいるわけで。チーズインどころの騒ぎじゃないぞ。
 

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我ながらとんでもないモノを作ってしまった…。

食べると、口の中に燻製の香りがドバー。脂の塊を混ぜてるわけで肉汁の量もやたらと多いし、たまにクニクニした歯応えの残ったラルドが出てくるのも楽しい。うめえ。

好き放題にも程がある、ラルドチャッチャ系

ラルドで好き放題やるにあたって、もうひとつやってみたかったのが、ラーメン。
ほら、ラーメンの上にトロトロになった背脂をたっぷりふりかける“背脂チャッチャ系ラーメン”ってあるじゃないか。同じ背脂だし、あれをラルドでやったらどうなるんだろう?って思ってたのだ。
さすがにこれは、高級品ラルドでは絶対にやる気になれないチャレンジ。
ラルドだって、半年も熟成された挙げ句にラーメンへチャッチャされるとは、予想も付かなかったのではないか。

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2時間煮込んだラルドの塊。買えばこれで数千円する量だけど、自作だから平気。

というわけで2時間ほど水で煮込んだラルドの塊を網にいれて、お玉で押しつつラーメンの上にチャッチャッと…。
…あれ? なんかチャッチャならないな。じっくり煮たにも関わらず、ラルドにプリンとした弾力が残っているため、崩れてくれないのだ。普通の背脂なら、これだけ煮たらグズグズになるはずなんだけど。

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お玉でギュウギュウと押しても、ブリン!という強い弾力で押し戻される。なぜだ。

力任せにゴリゴリと網に押しつけることで、表面の柔らかいところだけは絞り出せたが、これ以上はもう崩れそうにない。仕方ないので、あとはそのままラーメンに乗せて出来上がりとしよう。ラルドチャッチャならぬ、チャッ……ゴロッ系ラーメンである。

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仕方ないので、絞りきれなかった塊は粗めに切って投入。チャーシュー代わりと思えばまぁ良かろう。

すすってみると、大量のこってりした脂と麺がドロズバッと口の中に入ってきて、これはなかなかの暴力だ。旨い。
そして旨いんだけど、これ果たしてラルドでやる必要あったか?という気もする。じっくり煮込んだせいで熟成感が全部飛んでしまったような感じなのだ。もしかしたら、普通の背脂でやっても似たような旨さなんじゃないか。

いや、まだまだ使い切れないほどのラルドが残っているので、ぜんぜん構わないんだけど。
この「まだ大量にあるから平気!」という余裕は、自家製ならではだろう。
我が家ではしばらくはラルドリッチな生活が送れそうだ。


塩漬けするのに大した手間がかかるわけじゃないし、漬けたら冷蔵庫で放置しとくだけだし、原価は爆安だし。自家製ラルドのハードルは思った以上に低い。
それでこんなに楽しめるんだから、完成までに半年かかるのさえ飲み込めれば、かなりお得だと思うのだ。旨いし。
あと、馴染みのない食材だけに、高級品より完成度が劣ったとしても「へー、これがラルドか」と納得できるのもいい。つまり失敗がないわけで。ラルド自作、オススメだ。

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ラルドのせカントリーマアムにハマってしまい、それなりに消費してます。

 

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