文中では「地味だ地味だ」とイヤげに書いていたけど、実際のところ、レンガ1,000個を積むのは思った以上に楽しかったのである。
いやもちろん面倒だし手間だったけど、手を動かしていれば着実にスモーカーが出来上がっていくし、その様子がはっきりと目に見えるのが喜ばしい。うーん、いいホビーだ。
なんならこのアイデアはディアゴスティーニにあげてもいいので、「週刊ミニレンガ積みスモーカーを作ろう」刊行してくれないか。もちろん、毎週ミニチュアレンガが1個付いてくる感じで。
燻製作りが趣味で、いま我が家には大小合わせて4つスモーカー(燻製用の鍋や箱)がある。
ただ燻製好きとしては、やはりそんなチャチいのではなく、ベーコンの塊とかサーモンの半身とかをまるまる吊して燻製できるような巨大燻製庫がいずれは欲しいなー、と憧れているのだ。
もちろん、そんな大きい装置を置いておくスペースは我が家にないんだけど…せめてそういう気分だけでも味わいたいのである。
燻製って、基本的にはめちゃくちゃ簡単に作れて、だいたい美味くなるし。
温度と時間の管理さえミスらなきゃ失敗するポイントも少ないしで、調理法としてローリスクハイリターンなのである。
例えば、みんな大好きシャウエッセンなど市販のソーセージも、ちょっと煙をかけてやるだけで風味が爆上がり。めちゃくちゃ味わい深いスモークソーセージになるのである。
これぐらいなら鍋型のスモーカーとか使えば普通に自宅でもできるので、みんなもやるといいと思う。換気扇をブン回しても2〜3日は家の中が煙臭いけど。
この燻製鍋はなかなか優秀で、なんならベーコンだって小さな塊なら燻せちゃう。しかし、やはり憧れるのは冒頭でも述べたとおり、大きな燻製庫だ。
海外だと、レンガを積んで冷蔵庫みたいなサイズの大きなスモーカーを作ってる人も多い。「brick smoker」で検索すると、なんなら大型犬だって飼えそうなサイズのスモーカーがゾロゾロと出てくる。
たぶん、C.W.ニコルのジェネリック版みたいなおじさんがニコニコしながらレンガ積んでデカい肉とか燻してるんだろうな。あー、いいなー。これでドカーンとした肉塊を吊して燻してぇー。
そうやって嘆いているだけでは、なにも話は進まない。
せめてちょっとスケールダウンしたものなら、なんとか作れるんじゃないだろうか。レンガ積みの燻製庫。
ということで購入したのが、こちらのレンガ1,000個だ。Amazon、ほんとになんでも売ってんな。
これを積んでドカーンとした肉塊が吊せる燻製庫を作るというのが、今回のチャレンジである。
問題は、レンガのサイズが10㎜×5㎜×2.5㎜というミニサイズであるというところ。いわゆる、ジオラマ用の1/35サイズというやつだ。
うん、最初の想定よりはグッとスケールダウンした感は否めないが、いいや。どんなものでも肉塊が吊せるレンガ積みスモーカーが作れたら良しとしよう。
ちなみにレンガの大きさと個数からザックリ計算した出来上がりサイズは内径で50㎜×50㎜×110㎜ぐらい。まぁソーセージ1本なら吊せそう。
というか、レンガ積みスモーカーにドンと1本ソーセージが吊されてたら、迫力もあるんじゃないか。
さて、ここからはもう単なるチマチマとした積み上げ作業である。
まずはスチレンボードで内径サイズの型枠を作って、その周囲を囲むようにミニチュアレンガを積んでいく。
できれば本物同様にしっくいで固めていきたかったんだけど、強度的な不安(接着面積が小さすぎる)があったので、シンプルに接着剤を使っての組み立てだ。
ちなみに今回使用した接着剤は、ドイツの接着剤メーカーUHUの「マックスリペア」というもの。
溶剤不使用なうえに、主成分がシリコーン樹脂と二酸化ケイ素(どちらも食品添加物として認可されている)なので、口に入れるものを燻すにも安心感がある。
さらに120度までの耐熱性もあるとくれば、これはまさにミニチュアレンガでスモーカーを積むために作られたような接着剤と言えるのではないか。
ちなみにUHU「マックスリペア」はアメリカの食品医薬品局の認可は取れているんだけど、残念ながら日本の食品衛生法を今のところクリアできていないので、残念ながら国内販売時に「食器の補修OK」と謳えない。(というか、一部の工業用か漆を除いてほとんどの接着剤が食器NG)
なのにメーカーサイトの説明文には「食洗機OK」と書いてあって、これもしかして食品衛生法へのせめてもの抵抗なんだろうか。
ユーザーとしては「で、結局どうなのよ」って感じしかないんだけど。
で、なんでこんな接着剤の話を延々としているかというと、作業自体が異様に地味だから。
ほんと、ただただレンガに接着剤を塗って貼って積んで、を仕事の空き時間に黙々と数日間繰り返しただけ。
そして結局記事に書けるようなトピックがほぼ発生しないまま、レンガは積み上がった。
ミニチュアレンガはひとつひとつ歪みが結構あって、きれいに積んだつもりでもかなり隙間が空いている。
このまま煙を送り込んでもガンガン漏れてしまうので、仕上げに水で柔らかくした石粘土を隙間に塗り込んで目埋めを行う。これでスモーカーとしての機能も確実になるはずだ。
最終的には木の板でスライド式の扉をつけて、夢のレンガ積みスモーカー(ソーセージ1本用)が完成である。
スモーカー、本来であれば内部でスモークウッドやチップといった燻材を燃やすんだけど、この小さいサイズでそれをやっちゃうと、庫内の温度がめちゃくちゃ上がってしまって、よろしくない。
なので、下にパウンドケーキを焼く用のアルミ箔のケースを2つくっつけて燃焼スペースとして、そこから出た煙をレンガ積みスモーカーに送るというシステムにした。
これなら、スモークウッドを燃やす位置で庫内の温度調整も自由自在。
なんなら上級者向けで難易度の高い冷燻(20〜30度ぐらいの煙で燻す。生ハムやスモークサーモンなど火が通ったら台無しな燻製はこれ)だって可能というハイスペックな仕様である。
さっそくスモークウッドをアルミ箔式燃焼スペースに入れ、煙が上がってるのを確認したら、タコ糸で縛ったソーセージを針金を曲げて作ったミニS字フックにかけて吊す。
あとは、本来ならたまに庫内の温度確認と調整をするんだけど、ソーセージなんか、ちょっと火が通ったところでなんの問題もない。基本的には放置で20分ほど待てばOKだ。
そろそろ燻し上がったかな?というタイミングで扉を開けると……
もうもうと立つ煙の中に、ドーンとぶら下がったソーセージが。庫内に巨大な肉塊が吊されているこのビジュアル!そうそう、これが欲しかったのだ。もちろんスケールは1/35だけど、満足感と達成感は思った以上に大きい。テンション上がるわー。
ほどよく温まっている状態なので、タコ糸をほどくのももどかしく、このままいただきます。
パリッと皮が破けると共に出てくる肉汁と、スモーキーな香り。端的に最高以外に言うことのないクオリティだ。
いつもの雑に茹でて食べてるのが、こんな“おステキな感じ”になるの!?という驚きもあり、なんなら軽く踊ってもいいぐらいの祝祭感である。
いや、味はまぁいつものスモーカーで燻したのと変わらないんだけど、やはりレンガ積みスモーカーに吊されていたあのビジュアルを見た直後なので、そのテンションがプラスされているのは仕方ない。僕の心の奥にひそむC.W.ニコルもニッコニコだ。
もののついでに、このスモーカーでベーコンだって作ってしまおう。
本来であれば豚バラ肉の塊を使うんだけど、当然のようにこの庫内に入るわけはない。なので、カレー用の豚肉角切りブロックを半日ほど塩漬けにしたものを使用する。
タコ糸で縛って吊してしまえば、この時点ですでになかなか良い感じである。
さすがに生肉なので温度管理はちょい気を遣うけど、基本はソーセージと同じ。温燻(70〜80度)で40分ほど燻したら出来上がりだ。
バラ肉塊なら数時間はかかるところなので、かなりの時短だ。食べきるのもあっという間だけど。あとスモーカー作るのに数日かかってるのは果たして時短かという問題もあるけど。
ともあれこんなナリでも、見た目・味とも意外なほどちゃんとベーコンだ。
燻してすぐなのでちょっと渋味がある(冷蔵庫でしばらく寝かせると落ち着く)けど、充分に美味い。
市販のベーコンよりも圧倒的に燻製香があって、幸せの味である。
いや、正味のところ味よりなにより、夢のレンガ積みスモーカーを完成させてちゃんと燻せたという満足感だけで、充分に「よし、よくやった俺」って感じなんだけど。
文中では「地味だ地味だ」とイヤげに書いていたけど、実際のところ、レンガ1,000個を積むのは思った以上に楽しかったのである。
いやもちろん面倒だし手間だったけど、手を動かしていれば着実にスモーカーが出来上がっていくし、その様子がはっきりと目に見えるのが喜ばしい。うーん、いいホビーだ。
なんならこのアイデアはディアゴスティーニにあげてもいいので、「週刊ミニレンガ積みスモーカーを作ろう」刊行してくれないか。もちろん、毎週ミニチュアレンガが1個付いてくる感じで。
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