スイカが丸々一個ある
無計画にスイカを買ってしまい、家族で毎日せっせと食べている。食べても食べてもなくならなくて嬉しい。
立方体はきれいな立体だ。しかし野菜や果物が立方体に切られている姿をあまり見ない。見ておきたい、そして食べておきたいと思い、5種類の野菜と果物でやってみました。
ノートに向かって考え事をする時、煮詰まると立方体を描くことがある。ほとんど無意識に描いている。なんかきれいだから安心するのだろう。
数学に長けていれば立方体がなぜきれいなのか詳しく説明できると思うのだが、僕の能力では『辺が同じ長さで整っていてきれい』ぐらいの説明しかできない。どこから見ても整っている、ということが大事な気がする。
調べると立方体は『プラトン立体』と呼ばれる五つの正多面体のうちの一つで、『神が作った完璧な立体』とも呼ばれていたりする。あとはもう調べるほどに必殺技のような単語が次々出てくる。一つだけ例を挙げると、スピリチュアルワークを行う際のブースターアイテムとして水晶でできた立方体が売られていた。
そう、すごいのだ。立方体は。
そんな立方体だが、食べることは多くない。パッと思いつくもので冷奴ぐらいだ。野菜の切り方にも『立方体切り』はない。あんなにすごいのに、立方体。
一度でも立方体に切って、食べておいたほうがいい。乱切りなんてしてる場合ではないのだ。
角度や長さなど、ちょっとしたズレで立方体に見えなくなる。取り返しがつかない作業なので緊張した。
長芋の立方体。やはり無作為にザクザク切った時より存在感がある。いや、パワーがあると言った方が正しいのだろう。神が作った完璧な立体の長芋だ。食べたら超能力に目覚めると思う。
シャキシャキとした食感が強いがしっかり粘りもあった。おいしい。食べた途端雷に打たれたような衝撃があり…、なんてことは無くて淡々と食べ終わった。ゆっくりと目覚めるタイプの超能力なんだと思う。
完璧な立体だった長芋にかけるしょうゆである。意義深い。
このくぼみに合わせて切るとかなり小さな立方体になってしまうので、今回は大きさを優先した。『完璧な立体』という感じではなくなったがどうなのだろうか。これは神が作ったものだろうか。
もしかしたら軽率に立方体を作ることは神の怒りを買う行為なのかもしれない。軽率に作った挙句、かじって立方体じゃない形にしてるし。だとしたら食べて超能力に目覚めるなんてことは無くて、ひどい祟りがあるかもしれない。
しかし食べた途端雷に打たれたような衝撃があり…、なんてことは無くて淡々と食べ終わった。ゆっくりと祟りを受けよう。普通に食べた時と同じような芯が残った。
長芋と梨を見て、次は大きな立方体を作りたくなった。大きな立方体は効果も大きいんだろう。どんな効果なのか分からないが。
種の並びの不規則さのせいか『完璧』『神』などとは思わず、ひたすら「四角いな…」と呆然としていた。スイカは丸いもの、と強く刷り込まれているせいか四角いと混乱する。
スイカの中央の部分が抜き出されているので、どこをかじってもすごく甘い。立方体に切り出すと真ん中の部分だけになるのでおいしいのだ。
結局、この立方体は食べ切れなくてラップで包んで冷蔵庫に入れた。立方体のパワーは冷蔵保存できるものなのだろうか。神が与えたものだからそんな簡単に無くならないのでは、と思う一方、ちょっとかじっちゃったからもう立方体じゃないしな、とも思う。後日食べたがやはり甘くておいしかった。
あと二つは、立方体と縁遠そうな野菜に挑戦してみたい。
大きさは十分あるが立方体の『面』を作るような構造をしていない。そこを強引に切っていきたい。
四角いが立方体と呼んじゃいけない気がする。そんな立体だ。一応13センチ角の立方体を目指して切った。スイカと1センチの差しかないが、存在感の違いは歴然としている。
横の面はまだいいのだが、上の面と底の面はどうしても葉の丸みが出てしまう。かわいげはあるが『神が作った完璧な立体』ではない。
余りはみじん切りしてお好み焼きにした。神の作った完璧なお好み焼きだった。
いや、これはいくらごまかしても立方体ではない。立方体とは『完璧な立体』なのだ。どうしたって乗り越えられない壁がある。
表面のでこぼこを削って、ツルッとした面を出さなければ立方体にはなれない。神に怒られそうなので、電子レンジでチンして急いで食べた。
あとで気が付いたのだけど、もっと小さく切れば、茎の部分なら立方体にはなれたと思う。
5種類やってみて、やはり立体として一番魅力を感じたのはスイカだった。元のイメージとの差が大きいからだろう。
プラトン立体が一つ、立方体のスイカ。時間を忘れてしみじみ見てしまうわけの分からない魅力があった。
そんな神聖な立体を食べるという大胆な行動を起こしたが、食べてから数日経った今、特に心身に異変はない。安全なのかもしれない。立方体。
無計画にスイカを買ってしまい、家族で毎日せっせと食べている。食べても食べてもなくならなくて嬉しい。
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