「食べられる」は人それぞれ
世の中には好んでチョークを食べる人もいるという。おそらくこの商品もそういった人たちのためのものなのだろう。味覚や好みは人それぞれでいいと思う。無理せずに、自分が美味しく「食べられる」範囲のものを食べていきたいなと思いました。
「食べられるチョーク」というものを買った。
食べられると書いてあったのでそれを信じて食べてみたところ、「食べられる」という言葉について考えさせられる結果になりました。
1か月くらい前、たまたまアマゾンで「食べられるチョーク」という商品を見つけたので軽い気持ちで買ってみた。食べられるというのでラムネみたいなものかと思ったのだ。
しばらくして、それは明らかに不穏な包みで届いた。
安いヘッドフォンなんかをアマゾンで買うと届く、あの裏がグレイでペラペラのビニールに包まれた小包である。
外装を開けると中は紙袋になっており、ホチキスを外すとチョークがごろごろと裸で入っていた。紙袋に書かれているEDIBLE CHALKは直訳すると食用チョークなので間違ってはいないと思う。
出してみると、チョークだった。
食用なので皿に出したのだけれど、すでに違和感しかない。おかあさんに見つかったらしかられるやつだ。
わかんないものを食べるのは正直怖かったけど、届いたからには食べなきゃなと思い、週末の昼前だったと思う、食べてみた。
見た目はチョークだけど、味もチョークだった。
チョークを食べたことはないが、たぶんチョークを食べるとこういう味がするんだろうな、という味である。食べ物には存在しない味であることは確かだ。生徒会室の隅の方みたいな味とでも言おうか。
でももしかしたら僕の舌がばかなだけなのかもしれない。会社に行ったら古賀さんと横山さんがいたので食べてもらうことにした。
ーー突然ですがお二人はチョークは食べたことがありますか。
古賀:は?
横山:うちの親父、黒板屋だったの。
チョーク食べたことあるか、といういわば変化球である。イニシアチブはこちらにあるはずだった。反応としては古賀さんのが正解だろう。
しかし横山さんである。ランダムに声をかけて黒板屋の息子をたまたま引き当てることってあるか。
横山:でも最近ほら、学校もホワイトボードに変わったりしてて、儲からないからって今は辞めて黒板カフェって業態を変えた。
願わくば取材させてもらえないだろうか。
いやちがう、今回は食べられるチョークが主役だ。話題を持って行かれてはいけない。横山さんのお父さんのお店はいつか取材させてもらうことにして、お二人に食べられるチョークを食べてもらうことにした。
はい、表示にはしっかり「食べられる」と書いてあります。
ちなみに食べられるチョークの原材料は「天然の粉砕チョーク、水、でんぷん」。一般的なチョークは炭酸カルシウム(貝殻とか卵の殻)を固めたものらしいので、言ってしまえばほぼ同じだ。
古賀さんにも食べてもらった。
二人とも僕と同じ反応で安心した。そして申し訳ない。
味変ができるよう氷砂糖を用意してあるので許してください。
古賀:最近、明確に不味い物ってないじゃないですか。あそこのお店のごはんが不味い、とかいってもたかが知れてると思うんですよね。でもこれはやばい。越えてる。
そう、これは美味しいとか不味いとかの範囲に入っていない。「食べられる」すなわち「美味しく食べられる」だと思っていたが、それは甘えだった。食べても害はない(もしかしたらあるかもしれないけれど)、こそが「食べられる」なのだ。勉強になった。
しかしこちらも大人である。やるだけのことはやってから諦めたい。味がないならつければいいだけの話だ。
いろいろな調味料を用意したので試してみたい。まずは万能薬であるケチャップから。
一瞬、ほんの一瞬(いけるかも)と思うのだけれど、それはたぶん舌にケチャップが付いた瞬間だと思う。歯がチョークをかみ砕くと口の中が一気に黒板になる。
古賀:ぜったい甘い方がいいと思う。甘ければあたしなんでも食べる。
味のすべてがチョークの粉っぽさに吸収されるのだ。
こんなに強いものがあるだろうか。いや、きっと食べ物ではないもの、たとえば土手とか手袋とか、ふつう食べないものの中にはあるのかもしれない、試してないだけで。
涙目の古賀さんが最後にたどり着いたのがラー油+塩だった。
でも古賀さんそれ食べ物に限った話ですよね。
世の中には好んでチョークを食べる人もいるという。おそらくこの商品もそういった人たちのためのものなのだろう。味覚や好みは人それぞれでいいと思う。無理せずに、自分が美味しく「食べられる」範囲のものを食べていきたいなと思いました。
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