ドリアンの世界へのドアが開いた…のか?
最後に、誰から聞いたか忘れてしまったが、今中国がすごい勢いでドリアンの品種改良をしていて、バンバン新たなものを生み出しているのだとか。科学における倫理観で議論が起こりがちな国だが、ドリアンの味を究める分にはぜひぜひやってもらいたいと思うところである。またボルネオ島には真っ赤な野生種のドリアンが存在するらしい。広い、広すぎるよドリアンの世界。すでに触れたように落ちたてが絶品だというので、いずれそれも食べてみたい。ただもう、ひとりでは絶対食べないわ。
はじめてのマレーシア旅行を計画していたところ、現地に住む方から「耳寄りなお知らせがありますよ」と教えてもらった。
「なんですか?」
「ドリアン祭りがあります」
マレーシアでドリアンの収穫期を祝うイベントで、5~9月と長めに開催されるらしい。そこでさまざまな品種のドリアンが食べられるようで、そもそもドリアン全体では30近くの品種があるのだとか。ドリアンはドリアンとしてしか見ていなかったので驚いた。自由研究的にもちょうどいいということで、行ってきた。
もうしばらくドリアンは食べたくない。
編集部より:この記事はとくべつ企画「おとなの自由研究2019」のうちの1本です。
以前ほかの人からも「ドリアンはマレーシア産がおいしいですよ」と教えられた。今回ドリアン祭りを聞いてふとそれを思い出したが、改めて調べてみると、そもそもドリアンはマレー半島が原産地らしく、よってマレーシアが原産国と言ってもほぼ良いみたい。そして、ドリアンの「ドリ」はマレー語で「刺(トゲ)を持つもの」という意味だとか。「果物の王様」という称号は一説によると、王様が好んで食していたからで、「王様の果実」が転じてそうなったという話。へ~、知らんかったな。
で、ついに降り立ったマレーシアの首都クアラルンプール。これが予想だにしていないほどにドリアン大国だった。まず見てもらった方が早い。街中にはドリアン推しの商品看板、あるいはサブカルチャーにまで顔を出す。
なんだここは、ドリアン大国か(さっき言った)。ドリアン祭りへ行く前から、すでにお祭り状態じゃないか。
現地に住むライターの森純さんに聞くと、これは「『冷やし中華はじめました』のようなものです」だと(グラフティは別として)。クアラルンプール周辺は大雑把に言えば7~8月と12~1月がドリアンの旬、ただし、品種、天候、また当然地域によっても変わってくるだとか。相当のドリアン好きになると、落ちたばかりの採れたてドリアンを目当てに農園にまで足を運ぶらしい…。
ちなみに、写真が小さくて恐縮なのですが、かわいらしい猫のマスコットはのちの伏線なので覚えておいてください。伏線って、予告するもんじゃないんですけどね。
ドリアン祭りの開催場所は、ゲンティング・ハイランドというアミューズメント施設。名前で分かる通り高原、というより山の上。標高1700メートルというなかなかのもの。これは富士山の御殿場ルート五合目よりもさらに260メートルほど高い様子(行ったことないけど)。
このゲンティング・ハイランド、「ホテルがある」「カジノがある」「遊園地がある」「ゴルフコースがある」という情報が入ってくるが、いずれも自分のツボにハマる気がしない。たぶんにマレーシアの人たちにとって家族全員が楽しめる一大テーマパークのようなものだろうけれど、それこそ私は招かれざる客。きっと、ドリアン祭りがなければまず来ることはなかったな。なんて思っていたけど…ただひとつの出オチ的な理由ながら、それだけでここに来てよかったと思えることがあったのだ。
それが、この「展開」。
どうですか、これどうですか?すごくないですか!?
私、ビックリしました興奮しました。仙人でも住んでんじゃねぇかと言わんばかりの濃霧を抜けたら、あちこちライトがビッカビカで見渡す限りでも四方八方あちこちに人・人・人。なーんだこの巨大モールは。キツネに化かされることがあったなら、きっとこんな感じなんだろう。あるいはまるで支離滅裂な夢でも見ているようだ。
そして、嫌気が差すほどに広すぎる。
歩けど歩けど新しい場所に出てしまい、脳内地図は白紙のまま。たぶん日本やバンコクで訪れたどんなショッピングモールよりも巨大。マレーシアははじめての訪問だったのでその発展ぶりを測り兼ねていたが、こんな高地にこんな超巨大モールを建設できる時点で、ベトナム生活の長い自分にとっては「東南アジアっつうか日本に近い」とすら感じた。いや、巨大さなら日本以上かも…。
海外旅行ではやはり有名観光地に行きがちだが、もともとテレビやネットで見たことがあったりするので、良くも悪くも期待は外さないと思っている。それはそれでありっちゃありだが、こうしたショッピングモールとか、ほかにもコンビニとかトイレとか、日本などの自分がふだんいる日常にもある共通するフォーマットを見比べられる方が、違いがハッキリ分かるのでよっぽど楽しい。
ゲンティング・ハイランド、来て大正解だったな。
とはいえ、それはあくまで「濃霧から巨大モールへ」のギャップの話。ゲンティング・ハイランドが推しているショッピングにも興味はないし、一人で遊園地を楽しむほどの元気もない。カジノが楽しそうであれば少しくらい遊んでみようと思って寄ってみたら、「バッグパックはNOです」と立ち入りを断られてしまった。このやろべらぼうめ、だったらなんにもできねぇじゃねぇかよ。そんな訳でそそくさとドリアン祭りの会場へと向かう。
モール内を歩き回って歩き回って、ようやく会場へ。
公式サイトではなにやらミュージシャンが歌っている写真が載っていたので、常にフェスのような盛り上がりを想像していたが(というより「ドリアンフェスティバル」なんだし)、そうか、あれは初日の開幕パフォーマンスなものだったのか。今日は平日だし、4ヶ月もの長期開催イベントなのだからこんなものなのかもしれない。ま、なんにしろ、ドリアンが売られていることは違いないので、食べ比べには支障ないからよしとしよう。
がしかし、やはりここでもドリアン大国マレーシアに驚かされた。さっきドリアンの山があったでしょ?あれ!
すごい。この距離で撮った写真でも油断してると本物に見える。自分は過去にドリアンを着ただけあってその造形をよく見てきたし何度も加工してきたが、この完成度はすごいぞ。実物を見たことがない人なら偽物って分からないだろうな。と、それで今あることを思い出した。
昔、はじめて海外旅行に行ったときに、仲良くなった外国人の方にあげるつもりで寿司の食品サンプルを大量に持参。それをドミトリーで相部屋になった人に渡したら「お腹いっぱいだから…」と苦笑いされたことがあったのだ。何が言いたいかというと、寿司をよく知らなかったから、偽物だと見抜けなかった。ドリアンも同じだ。
それはそれとして、当時の自分はなぜ食品サンプルを配っていたのか、どんなテンションと意図でそれやったのか、今考えても意味不明すぎて思い出すたびに苦しい。バックパッカーズハイとでもいうのか、きっと違うな。
ちなみにサラッと書きましたが、「過去にドリアンを着ただけあって」という話。訳分からない人の方が多いと思うので説明すると、以前、こんなことをしたのです。
もう4年も前のことだけど、これがヤフーやテレビで取り上げられて以来、私はずっと「ミスタードリアン」みたいな存在に見られている。って、この執筆時に使ってるプロフィール写真もドリアン被ってるので「気に入ってんじゃねぇか」と言われるとそうではあるんだけど。
だから今回のドリアン祭りも教えてもらえたのですが、ひとつだけ言っておきたいのは、私は着ることは好きだけど、食べることはべつに好きじゃない、ふつうです!ただ、世間の臭いというマイナスイメージに踊らされ、食べたことすらないクセに「ドリアン嫌い」という日本人をたくさん見てきているので、その点については憤っておりドリアンの肩を持ちたいと常々考えています。はい。いきなり意味分かんない意志表明してすみません。
しかし、ここで問題が。ドリアンの実は足が早いのと、ゲンティング・ハイランド自体がファミリー客ばかりということもあってか、どうも小分けして売ってくれないようだ。つまり、たっぷり実の詰まった1玉からしか売ってくれない。オーマイガー、一人で来たのが仇になった…どっちみちこのイベントに誘ってくる人なんて(ましてやはじめて来た国で)いる訳もないんだけれど…。
しかもドリアンは高級品なので、比較的安く振る舞っていると思われるここでも、選んだ2種類のキロ単価が、35リンギット(885円ほど)、2玉で112リンギット。日本円で2800円…おいこれけっこうするぞ。ちょっと待て俺。好きでも嫌いでもない食べ物を、食べきれないボリュームを、こんな高地まで来て、そこそこの金額を払い、なぜ買おうとしているか。金銭感覚が水を差す。でももう引き下がれない。買うよ、あ~買いますよ!
並べてみると、見た目だけでもずいぶん違う。
うん、相変わらずの、ねっとりとした天然カスタードクリームという感じ。臭い臭いと言われるドリアンだが、特徴的な匂いはしても個人的には臭いとまでは思わない。むしろ人によっては、芳醇で高貴な香りとも言う。
ドリアンの味をたとえるならジャックフルーツが一番近いんだけど、むしろジャックフルーツの方が日本でレアな果物…なのでしょうがなしに妥協して挙げるなら、みんな知ってるバナナ。あれの味も香りも10倍くらい濃く、かつ粘度を3倍くらいにすればぼちぼちドリアンっぽくなるのではと思っている。とはいえそんなものは存在しないので、ハリーポッターに出てくる「鼻くそ味のゼリービーンズ」みたいな表現と似たり寄ったりだが。
~30分後~
意気揚々とスタートしたが、無理があった。ドリアン嫌いじゃないとは言ったけど、当然ながら人間食べられる量には限界がある。そもそも、周辺のテーブルを見ればどこも家族でひとつのドリアンを囲んで食べているし。
なんで、なんでこんなことしているんだ。「食べられないのに食べる」「家族客に囲まれる中でひとりで食べる」「大金出して食べている」「霧に囲まれている」。すべてのシチュエーションが意味が分からん。俺は何をしてるんだ。正直、こんな理由で霧に苛立つと思いもしなかった。今なら勢いでデビルマンになれるだろう。あれ、デビルマンってそんな話だった?どうでもいいか。
結局頑張って頑張って、最後のひと切れだけはどうしても無理!と包んでもらった。「だから食べ切れるかって聞いたでしょ!」と店員のお姉さんから軽く怒られたが、今考えたらとくに怒られる筋合いはない気がする。
でも、これでようやく二種類。食べ比べたというにはあまりに少ない。せめて三種類はいかないと。これはもう吐いてでも食べるしかない…と覚悟していたら、3つめについてはドリアン2切れがのった甘味が売られてあったので、「これならば食べ切れる!」と時間を置いて実食。なおこの品種、漢字で書くと「猫山王」。前述の猫のマスコットは名前から連想されたものだったのです。
結局食べたドリアンは、「King of Kings(皇中皇)」「XO(苏丹王)」そして「Musang King(山猫王)」の3種類。「竹脚(Tekka)」という品種も見かけたけど、そっちはやはり1玉単位でしか売っておらず、自らドクターストップをかけた(医者ではないが)。なおドリアン祭りで扱っていたものはその4種類がすべてで、ドリアンの品種は30近くということを考えると一部ではあるが、ドリアン大国の代表格と思っていいだろう。
肝心の食べ比べは、当然主観になるが、ドリアンはおもに、甘さ、ナッツ臭、苦さ、粘り気、それぞれの品種によってこれらの特徴の組み合わせが異なるように感じた。それぞれを5段評価、またコメントで評価したい。
■XO(苏丹王)
甘さ:★★★☆☆
苦さ:★★★★☆
粘り気:★★☆☆☆
ナッツ臭:★★★★★
・全体の実は小ぶり、サイズはハンドボール程度。
・中の実も小ぶり、張りがあって引き締まった印象。
・非常に強いナッツ臭、余ったるいピスタチオクリームを連想した。
・後味はナッツの皮に近い苦味を感じる、食感&味ともに締まっている。
■King of Kings(皇中皇)
甘さ:★★★★★
苦さ:★★☆☆☆
粘り気:★★★★★
ナッツ臭:★★☆☆☆
・名前が王の中の王、でも猫山王の方が高額。
・とにかく甘ったるい、個人的には「これぞドリアン!」という味。
・たとえられがちな「カスタードクリーム」を地でいく王道的テイスト。
■Musang King(猫山王)
甘さ:★★★★☆
苦さ:★★★☆☆
粘り気:★★★☆☆
ナッツ臭:★★★☆☆
・街中では一番見かけた品種、人気の模様。
・皇中皇とかなり近い味、というより、自分の舌では違いが分からないくらい。時間を置いたこともあるかも。
・しいて言えば苦味が強く、あとちょっと固めかも。
・ナッツ臭は「King of Kings」と「XO」との中間
個人的に「XO」のナッツ臭はあまり好きになれず、かと言って「King of Kings」も重い。あんみつとして食べたことも関係ないとは言い切れないが、全体的にその中間に感じた猫山王が一番好みかなと思った。その「猫山王」こそが街中でもっとも流通している品種で、かつほかのふたつよりキロ単価では10リンギット分(250円ほど)高かったことを考えると、さすが高級品種だ。
■人気ドリアン3種食べくらべ
やろうと思った理由
マレーシア旅行を計画していると、実はドリアンの原産国で、いろんな品種が食べられることを知った。これを機に食べ比べしたい。
準備するもの
・マレーシアへの航空券
・ドリアン祭り会場へのバスチケット
・ドリアン代
手順
買ったドリアンを食べ比べる
できたもの・わかったこと・結果
ドリアンの味は、品種によって、甘ったるさ、ナッツ臭、苦さ、粘り気、といったおもに4つの要素のバランスで構成されていることがわかった。そして、グループで食べるものであり、本来はひとりで食べ切るものではないということもわかった。
感想
しばらくドリアンは食べたくない。
最後に、誰から聞いたか忘れてしまったが、今中国がすごい勢いでドリアンの品種改良をしていて、バンバン新たなものを生み出しているのだとか。科学における倫理観で議論が起こりがちな国だが、ドリアンの味を究める分にはぜひぜひやってもらいたいと思うところである。またボルネオ島には真っ赤な野生種のドリアンが存在するらしい。広い、広すぎるよドリアンの世界。すでに触れたように落ちたてが絶品だというので、いずれそれも食べてみたい。ただもう、ひとりでは絶対食べないわ。
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