人は正直だけでは生きていけない。
嘘のまかり通る世の中で、素直であれるものの1つがファッションだ。
自由であれ、素直であれ!
オクラホマはそれを私に伝えたかったんだと思う。
私は私。
またいつか、大崎で。
よく通る道に小さな公園がある。
子供の声で賑わう昼。サラリーマンが足早に横切る夜。
朝おじいちゃんが座っていたベンチには、夕方になると高校生が溜まっている。
そこにポツンと座る子供の銅像がある。
これはただの銅像ではない。
オシャレ番長なのだ。
今回はその銅像の着替えを1年間観察した。
2018年9月29日(土)
よく通る道だった。小雨が降った後の誰もいない公園を、駅に向かってそそくさと歩いている時、爽やかな色のタンクトップが目に入った。
夏は終わっていない、というような涼しげなタンクトップにオクラホマの帽子、肩紐にスカーフを差し込み、中学生男子が履きそうな靴下。かなり盛り込んでいるのに、それでもまだ物足りないと、和柄のねじねじを首に巻いている。
なんて前衛的なんだ。
季節感も、年齢も、系統も、てんで分からない。未知でバラバラだ。トレンド感もオシャレのカケラもない。私は服飾の大学を出てアパレル企業に就職したが、こんな足し算ばかりの方程式は見たことがない。なのに惹かれる。なぜだろう。衝撃的だ。私はこの瞬間(とき)から、ヤツを意識し始めた。
2018年10月16日(火)
東京も肌寒くなってきた。街の人々は上着を着始めたが、ヤツは己のスタイルを貫いていた。
まるで流行りに流される私をほくそ笑むかのような表情。ていうかもしかして一年中タンクトップなのだろうか。ラッパー風のキャップ横かぶりと、中尾彬風のねじねじがなんともミスマッチだ。靴下とスカーフに変わってコンコルドを手に入れていた。ブローチのようにつけて見せびらかしているので、女子高生がくれたやつかもれない。
どうやらオクラホマの帽子がお気に入りのようなので、こいつをオクラホマと呼ぶことにした。
2018年10月20日(土)
雲ひとつない秋晴れの日。いつものように駅に向かう途中、交差点の角を曲がると太陽より眩しい光が私の目を眩ませた。
オクラホマだった。燃えるような情熱の赤に、無造作に組み込まれたタイダイの柄。これは着る人を選ぶ服だ。しかしこの奇抜な服を流行りのビッグサイズで、あたかも一昨年から持っていたかのような佇まいで着こなしている。キャップの赤と合わせてギリギリのラインでなんとか馴染ませているのだ。
2018年12月6日(木)
木枯らしが吹き始めた。街はクリスマスムード一色だ。
恋人へのプレゼントはどうしようか、クリスマスはどこで食事をしようか、そんな幸せな妄想に浮き足立つ。駅から帰る途中、久しぶりにオクラホマに見に行くことにした。
今日はどんな服を着ているのだろう。このムードに飲まれてサンタの格好だったりして…ね!自然と早まる足と、胸の鼓動が比例する。
やぁ、オクラホマ!遊びに来たよ!
えーーーーー!!!!!!どうした!!!!
冷たい風が吹きすさぶ中、オクラホマは追いはぎにあっていた。大事なオクラホマキャップも取り上げられて寂しげな表情を浮かべている。何があったの?と聞いてもダンマリを決め込むオクラホマ。よほど話したくない訳があるのだろう。深く追求する女にはなりたくないし、今日はそっとしておこう。男には1人になりたい時間が定期的にあるってコラムで読んだし。
とはいえ今日のオクラホマは全裸に靴下とマフラーのみというどこかに需要がありそうなスタイルだった。
2018年12月24日(月)
あれから2週間、今日はクリスマスイブ。
聖なる夜に思い浮かぶのは、服を剥ぎ取られたオクラホマ。別に好きじゃない、いや、好きだけど恋愛感情とかじゃない。ただ気になる。ちゃんと服は着てるのだろうか。いてもたってもいられなくなって、見に行くことにした。
よかった~~~!!服を手に入れていた。シンプルなパーカーに、ハズレのない靴下。全身ユニクロで揃えました、という素朴さ。コンビニで買ったビニ傘の小物づかいが効いていて、バイト帰り大学生風コーデに磨きをかけている。こんなありがちなコーデでも、マフラーを大胆にまいてSF感を出すのがオクラホマ流。というかE.T.にしか見えない。
2019年2月2日(月)
年越しは旅行、年明けは実家としばらく見に来ていなかった。
東京の空気がピンと張り、凍える2月。
暖かい格好をしているか気になってオクラホマを見に行った。
肌ツヤの良いオクラホマ。健康そうで一安心だ。
雪もちらつく季節、ニット帽で暖かそうだ。寒いけど心配することはないさ、と柔らかく笑っている。前回と同じパーカーかと思いきやマイナーチェンジでこだわりを見せつつ、スカイブルーのマフラータオルで季節感を混乱させる。
まさに冬の夜のウォーキングスタイル。お母さんがその服でウォーキングに出ようものなら、そのダサいタオルやめてよ!と言いそうなものだ。
しかしオクラホマは、誰になんと言われようと堂々と着ている。ファッションは自由だ、周りなんか気にするな、と教えてくれる。
2019年5月27日(月)
冬は終わり、春も過ぎようとしていた。
日差しが暖かくなったある日、オクラホマが着替えていた。
体操着…!!!全くの不意打ちだった。オクラホマは小学生だったのか。この辺りの学校に通っているのだろうか。きっと運動会を見に来て欲しいに違いない。
わかった、赤組を応援しに行くよ。
2019年8月1日(木)
セミの声が煩わしくも心地よい夏。
突き抜ける空の青がすがすがしいのに、うだるような暑さでやる気をなくす。
大人になってもそんな夏休みが蘇る。
私は夏が好きだ。
小学生のオクラホマはきっと夏休み。
何をしているだろうと気になって見に行ったら、
お祭り男になっていた。
弾ける笑顔から、オクラホマも私と同じように夏を感じている。私も夏が好きなんだ、と思わず話しかけてしまいそうだ。
2019年9月25日(水)
暑さが落ち着き、日が短くなってきた。
オクラホマは夏を楽しんだだろうか、日焼けはしただろうか、どんなお盆を過ごしたのか。
ちょうど秋色を着始める頃、オクラホマの様子を見に行ったら、
オバQを着ていた。
お気に入りなんだぜ、という自慢げな表情を見てほしい。
レトロアニメTシャツのサブカルな流行りを敏感にキャッチし、なかでも難しいオバQを1枚でさらりと着こなすところに藤子不二雄愛を感じる。
まったく、センスがナウイぜ。
オクラホマと出会って1年が経った。
私はもうすぐ、この地を離れることになった。
1年間、着替える度に写真を撮った。
好きな服を着て笑っている、素直なオクラホマ。
憧れた。
そういえば1年前の9月もタンクトップを着ていたよな。
とりあえずレア衣装なので一緒に撮った。
2019年11月16日(土)
少し寒くなってきた。この時期ボアブルゾンがとても流行った。流行に敏感なオシャレ女子はみんな着ていた。でも私は買わなかった。着たいと思わなかったんだ。
飲み会の誘いも、友達との遊びも断った。まさに今、自分の中で何かが芽生えそうだった。自由なオクラホマを見て、感じた何かだ。
1人でわけのわからない何かと葛藤した。
どうしてもオクラホマに会いたくなった。
もう会えないかもしれない。
素直に、寂しくなった。
帽子が貼り付けられていた。なんでだよ。
もう寒いのにまだオバQを着ている。なんか笑っちゃった。笑って気持ちがスッキリした。オクラホマの信念が太すぎて、悔しさすら覚える。私はオクラホマが好きだ。
2019年12月5日(木)
年の瀬が近づき、街がバタバタしはじめた。クリスマスももうすぐだ。
ここ最近のオクラホマは普通の服と言うよりは衣装チックなものが多かった。体操着、はっぴ、オバQ。この流れでサンタクロースを着ている可能性は十分にある。
公園へ向かう角を曲がると、赤いとんがり帽子が見えた。やった!オクラホマのサンタクロース姿を写真に収めよう!!
私はオクラホマへ走った。
赤ずきんかい!!!!
紛らわしいことすな!!でも魅力的だ。
メルヘンにバラのブランケットを巻いている。おばあちゃんの家にあるような、微妙にスキマのあいたバラ柄は、時代(とき)を超えてオシャレと言わざるを得ない。オシャレレトロな人が、おばあちゃんのおさがりを着こなすような感覚だ。だがちょっと着させられてる感も否めない。
2019年12月8日(日)
ふと公園を通ると、もう着替えていた。
気に入らなかったのだろうか、やはりあの赤ずきんは誰かに着させられていたのか。赤ずきんの余韻を肩に残しつつも、メインをGAPのパーカーでキメてきた。普通に欲しい。
2019年12月21日(土)
クリスマス前の土曜日。オクラホマと会うのは今日で最後。
ボ、ボア着てやがる!!!
冬に目立つビビットカラーの素材感あるアウターに、浮かせ気味のキャップ後ろかぶりでコナレ感を出している!なんか大人になってる。
私がオクラホマを見たのはこれで最後になった。
人は正直だけでは生きていけない。
嘘のまかり通る世の中で、素直であれるものの1つがファッションだ。
自由であれ、素直であれ!
オクラホマはそれを私に伝えたかったんだと思う。
私は私。
またいつか、大崎で。
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