開発で壊されるからこそ遺跡の発掘調査を行う
「壊されるために調査する」なんて、あまりに意外な展開だ。
そもそもわたしの発掘のイメージって、誰かがなにかの拍子にカツーン!と遺跡を掘り当てて、こりゃ大発見だ~!!と発掘作業を行って、遺跡はエジプトのピラミッドのように保存されて、出土品は博物館で展示される……そんな漫画のようなイメージだった。
樫村さん:
道路を敷いたり、学校を建てたり、なにかの開発を行うときには、必ず事前に遺跡がないか確認してもらいます。それで遺跡があるぞということになれば、なるべくなら保管の方向で開発を別の場所にできないか検討してもらう。結果やむを得ずその場所を開発しなければいけないときに、失われる遺跡を記録保存するために発掘調査を行うんです。
遺跡を発掘したくない その理由
「我々としては、できればなるべく遺跡の発掘はしたくないんですよ」樫村さんはそう話す。発掘したくてしたくてたまらないのかと思っていたから、これまた意外な発言だ。
樫村さん:
これからもっと科学が進歩して、今よりもっとたくさんの情報を遺跡調査で得られる時代が来るんです。今はまだもったいなくて。
3yk:
もっと科学が進歩するときまで、掘るのはとっておきたいということなんですね。
文化庁によると、遺跡があるとされる土地「埋蔵文化財包蔵地」は全国で46万箇所。発掘調査をされないまま眠っている遺跡が、我々の想像しているよりもずっとずっとたくさん、身の回りにあるらしい。
3yk:
まだ発掘調査されていない遺跡がこれだけあるっていうのは、どうしてわかるんですか?
樫村さん:
市町村ごとに端から端まで、ぜんぶ我々が歩き回って調べたんですよ。
3yk:
ええ?!
樫村さん:
考古学を勉強している学生がたくさん集められて、2500分1縮尺の地図を持ってしらみ潰しに歩いて。そのへんの道端や畑の表面に見えた遺物(土器の欠片など)を拾っては、そこが遺跡の可能性があれば地図に書き込んでいくんです。よそから持ってきた土に遺物が混じっていることもあるから、地主さんに土を持ち込んだり、動かしたりしていないか聞いてまわったりもして。
伊能忠敬も驚きのパワー調査である。県全域を歩き回るというスケールの大きさに、言葉が見つからない。
眠る遺跡 呼び起こされる遺跡 積み重なるまちの記憶
本橋さん:
いちばん大変なのは山林ですね。ずっと手つかずだった土地はだれも掘り返さないから、埋まってる土器が地表近くに上ってこない。つくば市やつくばみらい市のように、宅地の開発で山を崩して初めて、ここに遺跡があるぞとわかることもあります。そうしたら緊急調査です。
新しくできた住宅地は「今までは山林でなにもなかったのに」と、古くからある集落と比較されがちだが、地面を掘ればさらに古い集落のあとがあるということだ。私たちの考える歴史の尺度ってほんとにちっぽけなものだ。
そうやってリストアップした埋蔵文化財包蔵地のうち、発掘調査をするのは毎年全国で9000近く。数々の遺跡が発掘・調査されて、更地になって、新しいまちの記憶が重ねられていく。
3yk:
遺跡の発掘と聞くと、どこかすごく特別なことだと思っていたので、まちの開発と遺跡の発掘調査がこんなに密接に関係しているものだとは本当に意外でした。
樫村さん:
今なら成田市で成田空港の拡幅、長野県では水害被害に対する防災で大忙しですよ。ヘルプとして全国の調査員が招集されることもあります。
本橋さん:
遺跡を調査した成果はみんなの財産です。特に地域に住む方々に還元するために、どこの現場でも説明会を開いています。ぜひ見にきてくださいね。
遺跡で発掘されたものは落とし物として一旦警察に届ける
3yk:
ここにある復元した土器たちは、このあと博物館で展示するんですか?
樫村さん:
いえ、発掘した土器などの遺物は一旦「遺失物」として警察に届け出を出さなければいけないんです。
3yk:
えっ、落とし物として届けるんですか??
樫村さん:
そうです。まあ、落とし主はまず見つからないので持ち主不明で戻ってくるんですが……
石川さん:
めちゃめちゃ昔の落とし物ですもんね……
持ち主不明で戻ってきた土器たちは、ようやく晴れて都道府県に帰属し、展示や保管庫へ移動するのだそうだ。
一から十まで知らないことばかりでおもしろい発掘調査の世界。なんと今、後継者不足が緊急の課題だと言う。
わたしが体験させてもらった土器の接合体験のように、これからは実際に発掘したものや発掘作業に触れる機会を増やしていくのだそうだ。
興味のある方は是非、お住まいの地域誌などよくよくチェックしてみてほしい。
取材協力:茨城県教育財団埋蔵文化財整理センター